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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
業《ごう》の章

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202/204

開門

 カーテンを引くと、朝の光が部屋に満ちた。


 寝不足気味のアファメーション田中の顔に朝日が差し、思わず目を細める。


 窓を開けると、冷たい風が鼻先を撫で、まるで祝福でもするように入り込んできた。


 なんでもいいから、音が欲しいと、テレビをつける。


 アナウンサーが、明日から始まる新元号の由来を楽しげに語っている。


 —— バカだな。


 明日は、元号なんかよりよほど大きな“変化”が起きるというのに。


 自分たちだけが知る、選ばれた世界。

 フートの復活がもたらす、世界の転換。


 にやける頬を軽く叩き、安物のソファに置いたリュックに視線を落とす。


 昨夜、ラ・ムー美樹本から受け取った霊具は詰めてある。


 テーブルに放ってあった財布を手に取り、中のチケットを確かめた。


 新幹線は午後一番の便。

 集合は、新宿御苑・新宿門で21時30分。

 昼前に出て名物の駅弁でも買い、東京に着いたらネットカフェで仮眠を——。


 頭の中で、その段取りをまた繰り返している。


 昨夜から、何度目だろう。

 我ながら病気じみている。


 だが……こんなに待ち遠しい夜は、人生で初めてだった。


 そう思うと、また自然と笑みが漏れた。


 ブブブ。


 普段からバイブにしているスマホが、不意に着信を知らせる。 相手は、セレンディピティ長田だった。


「もしもし?」


「あぁ、セレンディピティです。 アファメーションさんは、何時に東京に行きますか?」


 その言葉に、高揚と期待が入り交じっているのがわかった。 そこに同類の匂いを感じ、思わず苦笑する。


 話をすると、やはりセレンディピティ長田も、今夜の儀式が待ち遠しいらしく、早めに合流しないか? というお誘いだった。


 アファメーション田中が、自分の予定を伝えると、一緒にネットカフェへ向かう流れになった。


「確かに、今夜は長くなりそうだからね。 正直、眠れるか自信はないけど、仮眠は大事だよね」


 受話器越しに、セレンディピティ長田の優しい笑顔が見えるようだった。 同じ価値観、同じ温度の相手というのは、本当に心強かった。


「では、新宿駅に着いたら、連絡します」


 アファメーション田中は、そう締め括ると、通話を切った。


 ◇  ◇  ◇


「……は?」


 カルマ播磨は、スマホを耳に当てながら、素っ頓狂な声を出し、思わず腕時計を見た。


 19:25。


 待ち合わせには、まだ2時間もある。


 カルマ播磨は、人生のラストライブとして、新橋で歌っていた。 誰一人として、足を止めようともしない孤独なラストライブ。

 クライマックスは新宿御苑。 後のことを考えて、できるだけ感情は込めないように歌う、その歌声は、ことごとく、足早に歩く仕事終わりのサラリーマン達の靴底に吸い込まれていった。


 あと1時間は歌えるだろうと、一度休憩を取り、水を口に含んだ。 その際にセレンディピティ長田からの不在着信に気付いたのだ。


 掛け直したカルマ播磨は、自分の耳を疑った。


 その用件は、儀式の時間を早めたい、という随分、不遜な提案だったのだ。


 事の経緯を整理すると、セレンディピティ長田とアファメーション田中がネカフェで待合せ。 その後、暇を持て余したクンダリーニ服部が合流し、早めに集まろうとライトウォーリア久保に連絡を取ったところ、どうせなら儀式を早めてはどうか? となったらしい。


 ふざけるな……。


 そっちは、それでいいだろうが、儀式を早めるとなると、こっちは一般の信者の引率もしなきゃならないんだぞ?


 カルマ播磨は、思わず悪態をつきそうになるのをグッとこらえる。


 生贄たちには優しくしてやるように。 そう言われていたが、── 己が死ぬ時間を早めるのも、確かに悪くない……と感じたからだ。


 時間を決めたラ・ムー美樹本の都合もあるのだろうが、そんなものより、自分の最期の方が大事だ。


「わかりました。 では、サポートメンバー達に確認をとって、新たな待合せ時間を追って連絡します」


 誰にも見られることのない笑顔を貼り付けて、カルマ播磨は通話を切った。


 そこからのカルマ播磨は、慌ただしく動いた。


 30名ほどのグループトークに、時間を早める連絡を入れた。 20:15に集まれる段取りをつけつつ、ギターを大事にしまい、その地を後にした。


 一度、乗り換えて、新宿御苑前駅で降りると、駅前にいた托鉢っぽい坊さんを横目に、新宿御苑 新宿門へと向かった。


「あぁ、カルマ播磨! 無理を聞いてもらい、ありがとう!」


 新宿門に着くと、セレンディピティ長田を始めとする、幹部4名が笑顔で出迎えてくれた。 一般信者もだいぶ集まって来ていた。


「いえいえ、大丈夫です。 皆さんが揃って時間を早めたい、と思ったのなら、それが運命というものでしょう。 ……ん、アファメーション田中さん、浮かない顔をしてますが、どうかしましたか?」


 カルマ播磨は、一人、不安そうにしているアファメーション田中に気付いた。


「いえ、なにか……こう……時間を早めるべきではなかったのではないか? と、胸にモヤモヤが……」


 ふざけるな!

 お前らが言い出した事だろうが?

 今さら、ちゃぶ台ひっくり返すような事言い出すんじゃねぇぜ!


「卵の殻を中から破る時、不安はつきものですよ。 痛みも……ね。 でも、勇気を出して殻を割ってみれば、その先に広い世界が待っている。 そうでしょ?」


 カルマ播磨は、内心思っている事が、顔に出ないよう、笑顔を貼り付けながら、アファメーション田中を慰めた。


 まぁいい。 そう思いながら、カルマ播磨はスマホを手にする。


「あ~ぁ、カルマです。 お願いします」


 その言葉から数分後、警備員がやって来て、新宿門を開けた。


「首尾は?」


「上々です」


 カルマ播磨の言葉に、やって来た警備員が答える。


「すべては、フートのために……」


 警備員は、カルマ播磨とのやり取りを終えると、そう呟き、一般信者たちの列へと加わった。


「さぁ、行きましょう! 新たな世界に!」


 そう周りに声を上げながら、カルマ播磨の足は、新宿御苑 新宿門を軽々と超えていった。

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