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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
業《ごう》の章

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自己を愛せし山羊は夢など見ない

 ●ライトウォーリア久保の場合


「はじめまして~! あや、でぇ~す! よろしくお願いしまぁ~す」


 ライトウォーリア久保は、その言葉に無言で軽く頷いた。


 "あや"と名乗るキャバ嬢がライトウォーリア久保の隣に座り、広げたおしぼりを渡す。


 明日の夜に、新宿御苑に行くように指示を受けたライトウォーリア久保は、前入りし、歌舞伎町のキャバクラに来ていた。


 もちろん、金はない。


 だが、どうせ滅亡する国だ、と昼間のうちに消費者金融で限度額いっぱいまで借入れをしていた。


 金はないが、贅沢はしたいし、妥協もしたくない。


 そんな時、ライトウォーリア久保は、気軽に消費者金融を利用するようにしていた。 これは未来の自分に対する正当な投資なのだ、と。


 しばらく、あやと話しているうちに、興が乗ってきたライトウォーリア久保は、彼女を指名し、ドリンクを一杯出してやった。


「それにしても、新宿、久しぶりに来たけど、全然変わらないな」


「そ~なんですぅ? あや、昔がわかんないから、ピンと来ないんですよね。 よかったら、昔の新宿の話、聞かせて欲しいなぁ、なんて欲張り過ぎですぅ?」


 そう言われたライトウォーリア久保は少し焦る。正直、新宿など、数える程しか来たことがない。


「……今と変わらないってことは、そういうことさ。 ところで明日、大事な商談があってね。 まぁ、有り体に言うと、日本の命運を握る感じかな」


 ライトウォーリア久保は、無理やり話題を変える。


「すっごぉ~い! じゃあ、今日は前祝いですね」


 そう言いながら、グラスを掲げ、乾杯を促すあや。


「それじゃ、ファイトぉ~!」


 妙な掛け声で乾杯が始まり、ライトウォーリア久保は苦笑いを浮かべながら、グラスを合わせる。


「あ、その時計! 昔むっちゃ流行ったヤツですよね? 時計、お好きなんですかぁ?」


 不意にあやが、自分の左手にしている限定の腕時計に食いついてくる。 かつてのブームの際に、買い漁ったものの一つだった。


「まぁね。 ロラックスとか、仕事の時は仕方なしで付けるけど、オフの時は、断然こっちかな」


「えぇ~、ロラックスって、すっごく高いんですよねぇ。 あえてオフの時は付けないって、自分の価値観を重視してる証拠ですよねぇ。 そういうの、すっごくかっこいいと思いま~す」


 本当は持ってもいないロラックスを引き合いに出す、ライトウォーリア久保。


 その言葉をキッカケに、かつての黄金時代が思い出される。


 あの頃はよかった。


 高校を出て、就職したはいいが、ひたすら同じ作業を一日中繰り返す。 そんな暮らしに嫌気がさして、3ヶ月で会社を辞めた。


 そこから派遣やバイトを転々とし、ある程度金が貯まったところで、冬は雪山、春は一人旅と自由を謳歌した。 あくせくと働き続ける元同級生たちを小馬鹿にしながら。 時計は、その頃に流行りの時計を収集していたものの一つだった。


 だが、そんな楽しい日々も長く続かなかった。


 十年ほど、そんな日々を過ごすうちに、バイトも派遣も、なかなか就けなくなった。


 あんまりキツイ仕事はやりたくないし、かと言って、収入が低いのも困る。 そして、そういう仕事の競争率は苛烈を極めていた。


 ライトウォーリア久保は、そのすべての原因を国のせいにした。


 SNSで政治家の言葉を拾い、その批判や肯定のポストに目を通した。 そして、確信する。


 俺たちは、政治家に食い物にされている、と。


 誰も、この国を本気で良くしようなんて思っていない。 そのせいで、俺は、こんな割の合わない生活を強いられているのだ、と。


 そう考えながら、SNSで政治批判や薄っぺらい持論を振りかざした。 政策の意味や効果もろくに知らないまま。


 やがて、俺みたいな柔軟な視点を持った優秀な者が引っ張らないと、この国は本当に滅びるぞ、とそう考えるようになった。


 そんな時に、ラ・ムー美樹本に出会った。


「君は、前世でフートの神官だったんだよ。 だから、国が静かに滅びに向かっていくのが、見過ごせないんだろうね」


 やはり自分は、本来、国民を導くべき存在なのだ。


「あや、夜職やパパ活をしないと生きていけない世の中なんて、腐ってると思わないか? でも、安心してくれ! 俺が、指導者になったら、君たちみたいな底辺の弱者も分け隔てなく、全員、救ってみせるから!」


「……期待してま~す」


 まぁ、大半の人間は、明日の夜には滅ぶんだけどな、と心の中で思いながらも、ライトウォーリア久保の口は軽やかに都合のいい思い込みを紡ぎ続けた。


 ●カルマ播磨(はりま)の場合


「二人でいる時くらい、その作り笑顔、やめてくれないかな? 気持ち悪いから」


「……ふぅ、気持ち悪いとか、なにげに失礼っすよね」


 ラ・ムー美樹本に、侮辱されたカルマ播磨が、軽口を返しながら、その貼り付いたような笑顔を消す。


「で、他の子達は大丈夫そうかな?」


「まぁ、心配は無用っすよ。 みんな禍々しい呪具を大事な宝物かのように扱ってますから。 ホント、イカれてるぜ。 ソイツのせいで、自分たちが死ぬなんて、微塵も感じてないんだから……」


「ははっ、知らぬが仏ってヤツだよ。 ところで、君はどうなんだい? まさか日和ってなんかないよね?」


「まさか? ようやく念願が叶うんすよ? 日和るわけがない」


 そう言いながら、カルマ播磨は、思いを馳せる。


 そう、念願が叶うのだ。 27歳で死ぬという念願が……


 ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、ブライアン・ジョーンズ、カート・コバーン、エイミー・ワインハウス。


 偉大なミュージシャンは、28歳を迎えることはない。 ならば、自分も27歳で死ぬだろう。 死なないとおかしいだろ? いや、死ぬべきなのだ!


~~っ!


「それでは聴いてください。 『世界はソレをバカと呼ぶんだぜ!』」


 考えているうちに盛り上がってきたカルマ播磨は、エアギターを弾きながら、目を閉じ、首を振る。


 ♪ 誹謗中傷~ バカ~♪

 ♪自虐に 自撮りに 自己陶酔~ バカ~♪

 ♪左利きの魚が吠える~ バカ~♪

 ♪Wow Wow Oh YEAH Wow~♪

 ♪脳みそ……シャバダバ……ドビュッシィイイァ ~♪

 ♪お前ら全員、皆殺しぃいぁ~♪


「あぁ~、興が乗ってるとこ悪いんだけどね。 そういうの、今、求めてないから」


 ラ・ムー美樹本の冷たい言葉に、カルマ播磨が歌を止める。 無表情のまま。


()()()期待してるんだから」


「……大丈夫っす。 ところで、未来視は?」


「あぁ、神クラスが絡むとね、可能性が発散してしまうからね。 まぁ、要は視えないんだよ」


「……なかなか不便すね。 未来視とか言っても」


「まぁね。 将門を喚ぼうってんだから、しょうがないさ」


 ラ・ムー美樹本の言葉に、カルマ播磨が肩をすくめる。


「ところで、段取りは?」


「はっ、わかってますって。 向こうに着いたら、全員の呪具を壊せばいいんでしょ? 子供の使いじゃないんだから、わかってますって」


「わかってるならいいんだが、……あと確実に邪魔が入ると思うけど、そっちは?」


「そっちもわかってますって。 返り討ちにしたらいいんでしょ? で、呪霊達の宴の始まり……でしょ? 純粋にエサとして、一般信者も30人くらい呼んでるし、準備は万端ってヤツですよ」


 カルマ播磨は、まだ見ぬバケモノに自分が殺される場面を想像して、口元を緩める。


 シンプルに喰い殺されるのだろうか?

 文字通り、心臓が口から飛び出して死ぬのだろうか?

 それとも、全身が裏返り、身体中の血液がなくなって死ぬのだろうか?


 カルマ播磨は考える。


 正直、フートなんてどうでもいいし、目の前のおっさんも、27歳で死ぬための完璧な舞台を用意してくれるってんで付き合ってるだけだったが……想像以上に、想像以上だ……と。


 ~~っ!


「それでは、聴いてください。 『失恋花(しつれんか)』」


「あぁ~、そういうの、いいから」


 こうして、明日に向かって、それぞれの夜が更けていった。

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