卑弥呼 VS 新葉 ~怨霊復活の真相~
目の前で、フワリと浮かぶイチイの枝。
…………
え? なんで浮くの?
みんなの視線がイチイの枝、および僕に集中する。
やめてくれ、目立ちたくないのに……
先生! 違うんです!
僕は見ていただけでっ!!!
やってませんっ!!!
「やっぱり、聞いてたよね。 ……荒覇吐」
不敵な笑みを浮かべた女子高生の声が響く。
その言葉に部長さん達が、目を見開く。
「はっ! 荒覇吐? 誰ぞそは? わは、新たな葉と書いて、新葉じゃ。 次、言ったら処すぞ!」
卑弥呼の言葉に答えるように、イチイの枝から新葉の声が響く。
……やっぱり新葉の仕業だよね。
それにしても、処すって……
思いっきり、俗世の言葉じゃん。明らかに何らかの動画サイトの影響を受けている……
「まぁ、よい。 航輝、新宿なぞ行かんでよいぞ。 むしろ、行くな」
新葉からの突然の指示。 なんか理由があるんだろうか?
「あらら? そんなイケズな事は、言っちゃダメよん、みたいな?」
「女狐が……。 言うに事欠いて、結界内でキキの札を剥がす? わを交渉の場に引っ張ろうという魂胆だろうが、無駄じゃ!」
「そう? でも、出てきてくれたんじゃん?」
確かに……
「わは、"中立"の神じゃ。 どちらかの陣営に肩入れすることなどないわ」
「そこをなんとか! ほら、チキチキボンバーの唐揚げ……日本がなくなったら、もう食べられないよ?」
「ぐぬぬ……」
いきなり始まる新葉と女子高生のやり取り。 そして、置いてかれる会議室の面々。
そろそろ説明がほしい……
「 ……わかった。 ただし! 怨霊の首が復活したらじゃ! その平将門とやらが復活したなら、手を貸してやろう! ……サービスじゃっ!」
「さっすが、新葉ちゃん! 話がわかるぅ、みたいな?」
「貴様が"ちゃん"とか、言うでないっ! "様"をつけんかっ! うつけがぁ!」
なにやら、新葉が参戦する方向で話がまとまったようだが、この2人……仲が悪そうだ。 というよりも、新葉が一方的に女子高生を嫌ってる感じがする。
…………
まぁ、荒覇吐時代はずっと『山』で、封印されていたんだから、その首謀者の卑弥呼を嫌うのも仕方ないのかもしれない。
「新葉。 手伝ってくれるのはわかったけど、なんで僕は新宿に行かない方がいいの?」
思わず疑問を口にすると、部長さん達から驚きの視線を浴びる。
え? なんで?
と思っていると、どこからか、「神相手にタメ口だ……」などと聞こえてきた。 どこからか─ というか佐藤営業部長なんだけどね。
「ふむ。 そうじゃな……」
そう言うなり、円卓の上をフワフワと移動し始める枝。 その動きが安倍さんの前で止まる。
「そこの"若作り"、お主なら、そこの山手線を使った結界の効果がわかるであろう?」
"若作り"というワードに、松井経営企画部長がブフォっと吹き出す音が響いた。
安倍さんが、そのイケおじ顔を引き攣らせながら、一度、女子高生の方をチラリと見たあと、ため息混じりに答える。
「ふぅ、この結界は、外界から穢れを入れないようにする効果と、皇居およびその周辺に清浄な気を満たす効果の多重結界になってる……でいいかい?」
「その通りじゃ。 そして、その効果は、太極図でいうところの新宿御苑で生まれる自然の気 ── その陽の気を対極にある皇居へ送り、逆に皇居、首塚で発生した瘴気を新宿御苑とやらへ送り、自然の気で浄化するという循環で成り立っておる」
思わず、スクリーンの太極図を見る。 陰と陽を表す、その形を……
要は、公園から出る"いい感じの気"が皇居に行くようになってるってこと? で、首塚から出る瘴気を公園で浄化してる……と。
そんなん、地図見ただけで、わかるわけないじゃん。
「つまり、新宿御苑で穢れ……呪霊、陰の類を発生させるということは、皇居および、その奥にある首塚に瘴気を循環させることになり、その大量の瘴気を取り込んで、怨霊の首が復活……これが、怨霊復活の"メカニズム"じゃ。 決して、蠱毒で呪霊が潰し合う結果などではないっ! 女狐が……」
陰……
瘴気……
札を取ったキキの瘴気は、そんじょそこらの呪霊なんかより、遥かに強いんじゃなかったっけ?
え?
つまり、キキの札を新宿御苑で取るということは……呪霊を一人追加することになるから……
思わず、女子高生を見る。 他の部長さん達の視線も、女子高生へと集中する。
女子高生は、テヘペロとでも言うように、片目を閉じ、舌を出して見せる。
……こんな不穏なテヘペロ初めて見た。
「そう、航輝がキキとともに新宿御苑に行くということは、平将門とやらの復活を早めることになるのじゃ。 そして、復活の"メカニズム"に関して、大嘘をついてまで、そんな事を言う理由は一つ。 わをこの場に引っ張り出すことに他ならぬわ」
「そ、でもって狙い通り、食い付いてくれたってわけ。 パクッてね」
女子高生がニマニマ笑いながら話す。
やっぱり……という気持ちと、そりゃそうだろ? 何を期待していたのか? という気持ちが脳裏に過ぎる。 僕が呼ばれた理由は、僕ではなく、新葉に用があったのだ……と。
妙な気持ちを振り払うように頭を振り、スクリーンに集中する。 呪霊の出現で、瘴気が循環……。
でも、それって……
「でも、さっきの話が本当なら、呪霊が出ても、新宿御苑の自然の気? ってので、浄化されるんじゃないの?」
思わず声を上げてしまう。
「本来はね。 でも、どっかの誰かさんが仕出かしてくれたおかげで、今、この結界内の陰と陽の気のバランスが崩れてるのさ」
安倍さんが、イケおじスマイルで補足してくれる。
「つまり、そこのアホのせいで、ただでさえ陰の気が強くなってるところに、呪霊が五体も急発生したら……許容オーバー……。 一気に陰の気増幅装置に早替わりさ」
山村が、口の端をクイッとしながら続ける。 さりげなく、楠瀬君の事をディスることを忘れない。
『山手線うっかり呪っちゃった事件』…….か。 なかなか尾を引いてるなぁ……。 チラリと楠瀬君を見ると、なんかどっか別の方を見て、聞いていたのか聞いていないのか、サッパリだ。
「まぁ、安倍っちが気付いてたのに、声を上げなかったのは、流石ってとこね、みたいな?」
「……『山』の当代様と壱与様ともあろう方々が、そんな初歩的な事を揃って見落とす訳がないからね。 なにか狙いがあるのだろうと、気を利かせたのさ」
肩を竦めながら話す安倍さんの白い歯が光る。
「しかし、弱ったな。 平将門復活の際は、荒覇吐……新葉……ちゃん?が、力を貸してくれるとは言え、十分、脅威なんだよね。 特妖級って……。 そうなると、やっぱりもう一人欲しいなぁ」
安倍さんが、目を閉じて天井を仰ぐ。
「いらん! 今の人数で十分じゃ。 のう、そこの黒狐」
急に話を振られた松尾さんにみんなの視線が集中し、本人は何処吹く風と恭しく礼をする。
「おっしゃる通り、一つ策を弄しています。 正確には、私の策ではないですが……。 それでも、保険はあればあるほどいい、と成り行きを見守っていましたが……まぁ、いいんじゃないですかね?」
なんか最後、雑だなぁ。
「ちなみに、策の内容は、念の為、この場でも内緒ということでお願いします」
松尾さんが、人差し指を狐面の前に翳す。
一番気になるところを、事前にブロックされた形になってしまった。
「……その策とやらは、大丈夫なんだよね?」
怪訝そうな表情で、安倍さんが女子高生に尋ねた。
「そこは、だいじょ~ぶい!」
片手を腰に当て、ピースサインを見せながら、ドヤ顔で笑う女子高生。
まぁ、きっとこの人が、そう言うんなら、きっと上手く行くんだろうな。
「……あとは、烏丸っち! 『興味深い』とかいいながら、香織さん連れて見学に行くのは禁止ね。 どうしても行きたいなら、香織さんは"なし"ね」
女子高生が、ビシっと烏丸生産部長を指差して言う。
「……なるほど、悪魔もダメってことか。 残念だ」
ため息まじりに了承する烏丸生産部長。
「まぁね。 当然、新葉ちゃまも、平将門が復活する前に顕現するのはNGね」
「当然じゃ! "ちゃま"とか言うでない! 気持ち悪い!」
流石というか、なんというか、女子高生の仕切りで、テキパキと細かいところが決まっていく。
腐っても卑弥呼
ってやつか……。
◇ ◇ ◇
「オッケー! と、いうわけで、当日はみんなよろしく~! 柊兄弟の集合時間と場所は、後日、壱与から連絡させるねん」
その言葉に、柊が無言で手をヒラヒラさせ、わかったわかった、と意思表示をする。 ってか、なんか怒ってるんだろうか? さっきから、ずっと無言だ。
僕は、残念ながら留守番かな? そう思っていたところに新葉の声が響いた。
「……待て! 嫌な予感がする。 航輝! お主もキキとともに"魄なし"に同行しておけ」
その言葉に女子高生が怪訝な顔をする。 そりゃあ、神の言う『嫌な予感』って、それだけでパワーワード過ぎるもんね。
「……ん~、まぁ、いっか。 じゃ、モブノセ君も一緒ってことで! 静香も、一応、納得できた?」
「……はい」
力なく答える松井経営企画部長。
「じゃ、今日はこれにて解散! みんな気を付けて帰ってね、家に着くまでが会議です、みたいな?」
…………
こうして、ひどく長く感じた会議は終わりとなった。
どうしよう? 僕は、激レアな場面を目撃できる嬉しさと、危険なところに行くことになった怖さで、正直、複雑な気持ちになっていた。




