黒い狐と白羽の矢
「……あと二人かぁ」
悩ましそうな声を出す安倍さん。
「一応、サポートとして民間にもお声掛けしておりますが、やはり国滅級となると、役者不足感が……」
壱与さんも口を濁す。
「民間かぁ……。 ちなみに誰に声を掛けてるんだい? もちろん、使えるんだよね?」
「色良い返事をいただいているのは、六道 仁真様、大河内 修蓮様、三善 清史郎様の三名です」
うわっ! 見事に全員知ってる人達だ。
「は? そない危ないとこに民間なんて、無理があるんとちゃう? ……ちゃいますか?」
與座が、思わずといった感じで声を上げる。
「……與座主任は、六道 仁真と親密な関係でしたね。 大丈夫ですよ。 あの方は貴方が思っているより、ずっと強いですから」
「……おっちゃんが強いんはわかっとる……。せやけど、国滅級には届かへん……のでしょ?」
「えぇ、ですから、サポートという形になります」
「…………」
與座は、六道さんが心配なんだな。 たまに二人で飲んでるって言ってたから……
「師匠もかよ……」
今度は、柊が声を上げる。
「三善様は、元々『山』に所属してましたからね。 快く引き受けていただけました」
「まぁ、いいけど……」
ぶっきらぼうにそう呟くが、本当は柊も三善さんの事が心配なんだろうな。 素直にそう言えばいいのに……
ん? 修蓮さんだけ、心配してる人がいないな……。 僕が声を上げた方がいいんだろうか?
「ふうん、大河内 修蓮と六道 仁真はわかるよ。 最近、外注でお願いしてる人達だからね。 あと一人の三善 清史郎? 正直、聞いた事ないんだよね。 今の話だと、元『山』で鷹斗の師匠みたいだけど、実力はどうなの?」
安倍さんの素朴な疑問は、なんとなく三善さんの実力を疑っているように聞こえて、思わず柊の様子を見てしまう。 案の定、面白くなさそうな顔をしていた。 くわばらくわばら。
「三善様は、もともと『山』の呪術部に所属しており、戦闘スタイルは……わかりやすく言うと芦屋前呪術部長に似通っておりました。 その後、赤の書の所有者となった際は、国滅級の下位レベルなら一人で討伐できていたでしょう。 今は、赤の書を柊 鷹斗様にお譲りになり、戦闘力は落ちていますが、場馴れしてる分、特妖級なら戦えるレベルだと判断しております」
「……そうか」
安倍さんは、そう言うと、再び思案顔を浮かべた。
「特妖級までなら、そのメンバーでも問題ないんだけどね! 国滅級となると難しいよね。 でも、そんな君らに朗報よってね! ウチが一人心当たりあるから、その子も戦力に入れちゃおう、みたいな?」
まるで、思案顔の安倍さんに助け舟を出すかのように、女子高生が楽しそうに声を上げた。
「もちろん、聞いてるよね? ショコタン! カモ~ン!」
その声が合図かのように、突然、黒い影が女子高生の傍らに跪いていた。
ってか、どっから出てきた?
「紹介するわ! この子は、松尾 蕉子! 通称、ショコタン!『山』唯一の諜報部員よ」
そう紹介された黒い影は、黒い忍者のような装束を身に纏い、黒い狐面を被っていた。 まさに全身黒ずくめだ。
松尾さん……。 立川 明美だったり、深村 紗希だったりした、諜報部の人だよね? ってか、諜報部って松尾さんだけだったんだ……
その黒ずくめの松尾さんが、女子高生の紹介を聞くと、すくっと立ち上がり、女子高生に耳打ちをする。
「え? まぁ、ここまできたらいいじゃん! ウチも過去話したし、ショコタンも身バレしちゃえば……」
あぁ、いるよね。
せっかく耳打ちしてんのに、普通に返事する人……。あれやられると、耳打ちの意味がなくなるんだよなぁ。
女子高生の返事を聞いた松尾さんが、ため息を吐くと、面のせいでくぐもった声を出した。
「松尾 蕉子です。 諜報部の件は、ここだけの話……ということでお願いします」
「僕は、退魔部長の安倍だよ。 よろしく」
安倍さんが、白い歯を光らせて、挨拶をする。
「存じております」
松尾さんが礼をしながら呟く。 やっばり、狐面のせいで、声がだいぶ聞き取りにくい。
「で、さっそくで悪いんだけど、松尾さんと言ったね? 君は……どれくらい戦えるんだい?」
「……そうですね。 国滅級なら下位……までは、対応できるかと……」
松尾さんは、周囲を見回しながら、ボソボソと呟く。 一瞬、キキのところで視線が止まったような気がした。
「ショコタンならだいじょ~ブイ! 本人は謙遜してるけど、ウチの見立てでは、アベタクと並ぶ? 並んじゃう? ひょっとしたら抜いちゃうかも? みたいな?」
その軽口に、安倍さんの口元が引き攣っているのを僕は見逃さない。
っていうか、この女子高生……卑弥呼……そこはかとなく、古いんだよね。 言葉選びのセンスが……
「……どちらにせよ、あと一人ってワケですか」
話題を変えるように、山村が神妙な声で呟く。
「あと一人ねぇ……」
そう呟く女子高生。 組んだ腕を人差し指でトントンしながら、じっとコチラを見てくる。
え? なんでこっち見てるの?
まさか?
いや、やっぱり?
「そこのモブノセ君! You、新宿に行ってみない? みたいな? 大丈夫、大丈夫! そこの陰の御札をちょこちょこっと外すだけでいいから。 ね?」
目を逸らそうとした瞬間、逃すものかと女子高生の声が響く。 その声は、傍から聞いてると軽いのに、いざ、その矛先が自分に向くと、有無を言わさぬ雰囲気があるんだとわかった……
これが、卑弥呼……か。
そう思った瞬間、新葉に言われて胸ポケットに刺してたイチイの枝が、フワリと宙に舞った。




