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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
業《ごう》の章

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『許してくれ』とは、言えなくて……

 シンと静まり返る会議室の中、時折、何かのファンの回る、ブゥンという音だけが響いていた。 ほのかに香る、誰かの服に付いた線香の残り香が、妙に鼻につく気がした。


 そんな中、ほとんどの者の視線はスクリーンに映し出された太極図に釘付けだった。 その表情は、一様に苦虫を噛み潰したようだった。


「……蠱毒」


 安倍さんが、眉間に深い皺を刻みながら、ボソリと呟く。


「そ! 蠱毒!」


 その言葉に、女子高生がわざとらしいウィンクをしながら、不敵に口を開いた。 安倍さんからしても、驚愕の事実だったのだろう。


 それに……


 平将門。


 ……僕でも、知っている名前だ。


 日本三大怨霊の一人。 確か、新皇を名乗り、朝廷に対して敵対した平安時代の豪族だ。戦いに敗れ、さらし首にされた首が喋ったとか、飛んでいったとか、とんでもない話だったと思う。


 その首塚に残る怨念は近代でも祟りを起こすと言われている程だ。 オカルト好きなら、誰もが知っている。 そんな名前だった。


「まぁ、もともとあっこは、平将門の怨霊から皇居を守るために鉄のレールと電線を使った結界を張ってた場所だからね。 結果、あの辺で発生した呪霊は、山手線から出られなくなっちゃったのよね。 でもって、そこの楠瀬ボーイが仕出かしたせいで、山手線自体が呪で汚染されてるからね。 出られなくなった上に凶悪化しちゃう。 ね? 呪霊蠱毒にはもってこいの場所っしょ?」


 女子高生の軽口が、妙に頭に響く。

 仕出かした当の本人である楠瀬君は、何処か他人事のように聞いているように見えた。 ……そういうとこだぞ。


「で、みんなのお察しの通り、最悪の事態になる、みたいな? ……ただし、アイツの思い通りに進んだら、のは・な・し!」


「その通りでございます。 その際の被害は、かなりのものとなりますが、代償として、阻止もしやすくなったと言えます」


 女子高生の軽口に、イヨさんが補足を入れる。


「って事で、新宿御苑行きのメンバーを……」


「待ってくださいっ!」


 女子高生が、勝手に話を進めようとしたところで、松井経営企画部長が待ったを掛けた。 その表情は、どこか……涙は出てないのに……まるで、泣いているように見えた。


「未来視の可能性に関しては理解しました。 その後の変化と呪殺テロの話も……。 でも……それでも、まだ私は……ミッチー……芦屋部長の死に納得のいく答えはいただいておりませんっ!」


「……静香」


「当代様と壱与様が、他の可能性に備えて、手が足りなかったのはわかりますが、それならっ! それなら、情報を共有し、『山』のメンバーでラ・ムー美樹本の襲来に備えれば、よかったのではありませんかっ!?」


 静かな口調が、徐々に熱を帯びていく。


 ……ちょっと不謹慎かもだけど、松井経営企画部長が、女子高生を当代様と呼んだ事に、ビックリしてしまった。


 当代様って、ちょくちょく話に出てくる一番偉い人だよね? ……アレが!?


 そんな僕の気持ちを置いてきぼりにするかのように、空気が重くのしかかってくる。 シンとした雰囲気に押しつぶされるような錯覚を覚え、呼吸をするのも憚られる……そんな気持ちに支配されながら、誰もが松井経営企画部長の次の言葉を待っているようだった。


「それとも、芦屋部長が死ねば、テロの場所が一箇所になる……。 そのために、芦屋部長を見殺しにしたっ! とでも、おっしゃるのですかっ!?」


 言いたいことを言い切ったのか、肩で息をする松井経営企画部長。 場に緊迫した空気が漂う。


 芦屋呪術部長と松井経営企画部長の関係は、よくわからないけど、きっと、仲が良かったんだろうな……

 そう思うと、とてもやるせない気持ちになってくる。


 でも、次の瞬間に、放たれた当代様こと女子高生の言葉に、僕の思考が止まる。


「……そうだよ。 見殺しにしたの」


 言葉の意味がわからなかった。 ……いや、正確には意味はわかる。 ただ……、聞き間違えたのかと思った。 でも、その考えは、周りの反応に打ち消される。


 なぜなら、松井経営企画部長も、安倍さんも、山村も……その言葉に目を見開き、まるで会議室の中の時が止まったかのように見えたから。


 無音の世界に、何かのファンだけが、ブウンという場違いな音を立てていた。


「静香も薄々気付いてるよね? アイツは、芦屋君とちょっと戦ったくらいで、分散呪殺テロの計画を改めるような奴じゃないよ? 彼が……芦屋君が、命の尽きる、その瞬間までアイツの事を煽り倒してくれたから……。 新宿1ヶ所への集中バージョンに変更したのは、芦屋君が自らの死によって、勝ち逃げした形にしてくれたからこその結果なんだよ?」


 諭すように言葉を紡ぐ女子高生。


「補足しますと……ラ・ムー美樹本が『山』襲来を選んだ時から……芦屋呪術部長の死は確定してしまっておりました。 さらに言うと、『山』のメンバーで力を合わせた場合は、もっと犠牲が増えた、と言えるでしょう。 皆で退避を優先したとしても、あの方は、進んで殿(しんがり)を買って出たでしょう」


 イヨさんもそれに続く。


 その言葉に、安倍さんが納得したように目を閉じ、山村がそっと目を伏せたのが見えた。


「……『許してくれ』などとは烏滸がましくて、とても言えない。 でも、芦屋君の死を無駄にしないよう、私たちはアイツの野望を打ち砕かなくちゃいけないわけ」


 女子高生が再び口を開く。


『死を無駄にしないように』


 なんて耳触りのいい詭弁だろう。 そんなものは生き残った者による都合のいい解釈でしかない、と頭の中で誰かが呟く。


 でも……それでも、そう思いたいという気持ちもわかるわけで……


 天井から、やるせない気持ちがボトリボトリと流れ落ちてくる気がした。 そして、その気持ちが部屋全体を覆ったと錯覚した時、松井経営企画部長の嗚咽が、会議室全体に響いた。


「うっ……」


 女子高生が、松井経営企画部長を優しく見詰めた。


「……もし、静香が、もうやめたいと言うのなら、それを止める(すべ)を、ウチは持ち合わせてない、みたいな? でも、もし、少しでも芦屋君の死に報いたいと思ってくれるなら、もう少しだけ、協力してほしい……ってね」


 口調は軽いが、その言葉は静かに響き、慈愛に満ちているように聞こえた。


「……わかり……ました」


 松井経営企画部長が、女子高生の言葉に静かに頷いた。


「……とは言え、確かに情報の共有は大切だったかもね」


 ようやく、場の空気が落ち着いたと思ったところで、安倍さんが口を開いた。


「なにしろ、僕らはラ・ムー美樹本が、なんで『フート』を復活させようとしているのかも、当代様達と彼との確執も、ろくに知らないんだから」


 そう言いながら、周りを見回す安倍さん。


「ですね。 ここからは、命を賭けた戦いになるんだから、せめて、その辺の内容は知っておきたいってのが、正直なところですね」


 まるで安倍さんの援護をするように、山村が口を開く。 言った後に口の端をクイッとさせながら。


「……そう? とりま、ウチとアイツの出会いから、自分語りしてもいいけど……、正直、長いし、聞いてもらったとしても、やる事変わんないんだよね。 あんま意味ないと思うけど、それでも聞く? ってか、聞いてくれるかな?」


 なに? この、『いいとも~』とか、言わされる感じ。 まぁ、面白いなら聞くけどさ。 でも、なんか、グスグス泣いている松井経営企画部長が、取り残されていく感じがして、ちょっと気まずいんだよね。


「グスっ、……いいとも」


 松井経営企画部長が、泣きながら呟く。

 って、いいんかいっ!?


 松井経営企画部長の、その反応に女子高生の口元が微かに緩むのが見えた。


「オッケー! それじゃ、聞いてください! ウチとアイツの過去話(かこばな)を。 ……あれは、まだウチが『ヤマ』の女王、卑弥呼だった時の事でした、みたいな?」


 え!? 卑弥呼!?


 なにそれ? これ、本当に僕らが聞いて大丈夫な奴なの?


 そんな僕の戸惑いを無視するように、女子高生、いや、『山』の当代様の自分語りが唐突に始まった。

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