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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
業《ごう》の章

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円卓と呪いの影

 薄暗い中に、存在感のある円卓。


 以前、除厄式の作戦会議が行われた、豪華な会議室だった。 その円卓にズラっと並ぶ喪服に身を包んだ人達。 與座の話だと、『山』の各部門の部門長達だと言う。


 その中に見知った顔の人物が、数人並んでいる。


 除厄式で仕切っていたイケおじ……確か、安倍さんだったと思う。 その隣にお馴染みの天パ、もちろん山村だ。 こちらに気付くと、口の端をクイッとしながら、ヒラヒラと掌を振っている。


 ……いや、振り返さないよ? こんなアウェイ真っ只中で、そんな事出来るわけがない。


 そして、山村の隣でボサボサ頭で、満面の笑みを浮かべながら、掌を犬の尻尾のように激しく振る楠瀬君。


 いや、だから振り返さないよ?


 相変わらずの黒いスウェット姿が、場の雰囲気から見事に浮いている。


 その隣には、……確か、営業部長だったと思う。 名前は、確か、佐藤……いや、鈴木だったかな? 正直に言うと、あまり覚えていない……


 さらに、こちらをチラリと一瞥した後、腕を組んで目を瞑る烏丸生産部長に、以前、会議を仕切っていたイヨと呼ばれていた女の人。


 後は、知らない人だった。


 楠瀬君以上に浮きまくっている制服姿の女子高生。

 空席を一つ挟んで、妙に姿勢のいいおばさんと、さっきからずっとメガネを拭いている地味なおじさん。


 そんな中で、呑気そうな與座と、いつものアロハ姿の柊、僕が並んでいる。


 なんだか、とても場違いな感じがしてくるが、自分達以上に浮いている楠瀬君と女子高生を見ると、少し気が楽になる。


「……それでは、皆さんお揃いのようなので、会議を始めさせていただきます」


 イヨさんが口を開き、少し弛緩していた空気が一気に引き締まる。


「まずは……松井経営企画部長からの議題……芦屋呪術部長の死を避けることは出来なかったのか? になります」


 イヨさんの言葉に、姿勢の良いおばさんが、神妙な面持ちで、大きく頷いた。 あの人が松井経営企画部長か……。 僕は、心のメモにそっと追記した。


 というか、いきなり重い!


 ……いいのか? 僕達が聞いてて。


「まず……前置きとしまして……あまり詳しくない方もおりますので、未来視について簡単に説明させていただきます。 未来視と聞いて、はっきりと未来がわかるというものではごさいません」


 …………


 イヨさんの話によると、未来視というのは、未来に起こるであろう、いくつもの可能性が視えるということだった。


 したがって、その未来視は絶対に当たるというものではなく、こうしたらこうなる可能性が高くなるだろう、という曖昧なものだという。


 単なる予測に近いが、霊視を絡めた予測のようなもので、未来視を行う本人が知り得ない事も含めて視えるため、単なる予測とは一線を画すらしい。


 それでも、『山』の当代様や、松井経営企画部長などは、経験や様々な要素から、精度の高い未来視が出来る、という事だった。


 ほえ~なるほどぉ、などと思いながら聞いていたが、周りを見ると、既に知っている事なのか、それとも興味がないのか、皆、無反応だ。


 楠瀬君にいたっては、うつらうつらと舟を漕いでいるように見える。


「……ここまでは、よろしいでしょうか? よろしければ、本題に入らせていただきます。 除厄式後のラ・ムー美樹本の行動を視た結果、その行動は大きく3つに絞られました」


 イヨさんが、そう告げると、一気に場の空気が変わった。 楠瀬君も前髪から僅かに覗く目で、しっかりとイヨさんを見ているようだった。


 僕も、姿勢を正した。


「一つは……生前退位に照準を絞った私どもを出し抜くために、皇族をすべて抹殺する事」


 うぅ、本題に入った途端、いきなり重い。 これ、本当に僕らが聞いてていいんだろうか?


 チラリと隣のアロハを窺うと、腕を組んで目を閉じている。


 ……まさかとは思うけど、寝てないよな?


「そ、それが最悪のパターン! だから、常磐一族に戒厳令を敷いて、ウチが直接見張りに行ったわけ」


 同じ仲間だと思っていた、女子高生が随分と偉そうな感じで口を開いた。


「そして、二つ目がプラーナ本部で楠瀬さんを仲間に勧誘するというものです」


 周りの視線が一斉に楠瀬君へと集まる。


「ありえないです、そんな誘いに乗ることは。 確かに以前、会った時にも誘われましたが、一蹴です。 ですです」


 鼻で笑うように、吐き捨てる楠瀬君。 なんと頼もしいことか。


「本当にそうでしょうか? ラ・ムー美樹本が、『電気クラゲは夢を見ない』の一期、二期のDVDセットを持っていたとしても、そう言いきれますか? しかも、それが、信者から寄贈された初回限定ver.だったとしたら?」


 イヨさんが、冷たく言い放つ。 だが、流石にそんなんじゃ、誘いに乗るわけもなかろう。


 そう思いながら、周りを見る。 山村の歪んだ表情に目が止まる。 まるで、「そいつぁ、まずいぜ」と言わんばかりの、その表情に……


 まさか?


「…………保存用……です?」


 絞るような楠瀬君の声が響く。


「当然です」


「……なるほど。 そういう事なら、ついてたかもしれませんね、向こう側に……」


 楠瀬君が、ため息を吐きながら天井を仰いだ。


 まじか!?


「そういう訳で、私はプラーナ本部の付近で、待機しておりました。 楠瀬さんが、向こうの陣営に取り込まれたら、かなり厄介なので……」


 ……確かに、彼が敵に回ったら、厄介なんてものではなかっただろう。 なんせ、呪殺王子(プリンス)なのだから……


 って言うか、イヨさん、あの近くにいたんだ……。


 周りにも同じような事を考えた人がいたのだろう。 ゴクリと、誰かの唾を飲む音が、一瞬静かになった会議室に響いた。


「そして、最後の一つが、……『山』に乗り込んできて芦屋呪術部長と戦闘になる……というものでした」


 イヨさんのその言葉で、場の空気がさらに重くなった。


「言い訳になりますが、……正直、3つ目が一番意味がなく、確率も低いものだったのです」


 辛そうに、言葉を紡ぐイヨさん。


 ガガっ


 そんな中、大きな音を立てながら、椅子を引き摺って立ち上がった者がいた。 例の女子高生だった。


「そんでもって、言葉を選ばずに言わせてもらうと、3つ目になったおかげで、今後の対応が楽になるってのもあるわけ!」


 ?


 相変わらず偉そうな物言いだが、話がまったく繋がらない。


「芦屋呪術部長との戦闘がなければ、呪殺テロは各都市 ── 北海道から九州まで、全国に分散される形でした。 厄介だったのは、その実施される場所は、未来視をする度にコロコロ変わっていたことです」


 ふぅとため息を吐いた後に、女子高生の言葉を引き継ぐ形でイヨさんが口を開いた。


 呪殺テロ……


 なんと不穏な言葉だろう……


「テカテカポマード眼帯おじさんこと、芦屋君がアイツと戦ってくれたおかげで、その場所が一箇所に確定した、みたいな?」


「新宿です」


「そ、新宿! 芦屋君がアイツを煽ってくれたおかげで、分散してチマチマやるより、力技で憂さ晴らししたくなった、みたいな? 壱与! 例のスライド、プリーズ!」


 女子高生の指示で、イヨさんが予め用意されていたPCを弄り、スクリーンに映像を映し出す。


 それは、山手線と中央線に皇居と新宿御苑の図だった。


「……まさか!」


 その映像にイケおじ安倍が、過剰とも言える反応を示す。


 そのスライドを見ても、未だにまったく話が見えてこない。 他の人は、わかっているんだろうか?


「山手線……そこの楠瀬が、うっかり呪術を掛けた線路だ。 そこにS字の形で横切る中央線……。 だいぶ歪だけど、皇居と新宿御苑を合わせると太極図に見えなくもないだろ?」


 安倍さんが、皆に説明を始める。

 ……太極図? 確か、黒と白の勾玉を合わせた円形のマークだよね? 陰陽師とかが、よく使ってるやつ……。 ……それは、流石にこじつけが過ぎるんじゃ……


「その通りです」


 そう言いながら、イヨさんがPCを弄ると、地図の上に太極図が重なる。


 その瞬間、背中に悪寒が走る。 誰だ? こじつけにも程があるなんて言った奴……。 僕だ……


「この新宿御苑で複数の呪霊を解き放つ事で、呪に汚染された山手線に囲まれた蠱毒が完成します。 呪霊に殺された者も新たな呪霊となり、最後は呪霊同士の潰し合い……。 そして、その結果、最後に残った呪霊を核に顕現する事になるでしょう。 帝の怨敵……平将門が……」


 その言葉で、再び、静寂が訪れ、また誰かのゴクリと息を飲む音が聞こえた気がした。



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