表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
妖《あやかし》の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/217

辻褄屋

「……さん、……たさん」


 微睡みの中で、何か聞こえてくる。 五月蝿いなぁ。 今、気持ちいいとこだっての。


「……脇田さん!」


 慌てて起きる。 そうだ、私は……。 目を開くと、種田が覗き込んでいる。 どれくらい気を失っていたのだろう。 よく、ネットとかに載っている怖い話などで、肝心な時に気を失って、気が付くと……、という記述を見るが、その度に、そんな都合のいい話あるか!? と思っていたが、自分自身が経験すると、そういう事もあるか……、と思えてしまう。


 時刻を確認すると、8:10だ。 最後に時間を確認したのが22:30過ぎだったから、ざっと10時間近く気を失っていた事になる。 こんなに寝たのは久しぶりだ。


 周りを見ると、機材はすでに片付けられているようだった。


「僕は、一度社に戻ります」


 種田が、そう言いながら、荷物を手にする。


「動画もしっかり撮れていたようなので、『辻褄屋』に連絡を取ってみますね」


 そうだ。 散々な目にはあったが、動画を撮るという一つの目的は達成したのだ。 ならば、これで良しとしよう。


「……ああ、戸締りはこちらでやっておくよ」


 そう言って種田を見送る。 また連絡します、と言い残して種田は去っていった。 一人残された私は、寝袋をたたみ帰り仕度をしながら、よく寝たせいか、スッキリした頭で考えた。

 今までの証言から、考えていた怪異は、"声"だけだった。 だが、私は見てしまったのだ……、男の子を……。 男の子が出るなんて、今までの解約者からは聞いていない。 この辺で、男の子が死亡するような事件はあったろうか?


 その日はモヤモヤして、まるで仕事が進まなかった。


 ◇  ◇  ◇


「初めまして、改装コーディネーターの生島(いくしま)と申します」


 後日、棚田に紹介された『辻褄屋』は、意外にもキチンとした身なりの爽やかな男性だった。 年は私と同じ年くらいだろうか? スーツをしっかり着込み、清潔感のある短い髪型にメガネという出で立ちだった。

 待ち合わせ場所は、ニューワキタビルの前である。 早速、問題の2階へと向かう。


 2階に着くと、生島はタブレットを取り出し、自分の手掛けた改装のビフォーアフターの画像を見せてくれた。 正直、こちらには見る気がない。 要は、問題の心霊現象を鎮めてほしいだけなのだから。


「……お気持ちはわかりますが、私に出来るのは改装のコーディネートくらいです。 ……ただ、その過程でオーナーさん方が気に掛けている問題も解決する。 ……解決するっていうと烏滸(おこ)がましいですね。 勝手に解決してしまうっていう方が正しいですかね?」


 と、『辻褄屋』が笑いながら話す。


「勝手に解決……?」


「そうです。 そもそも、私は、霊なんて非科学的な物は存在しないと思っています。 でも、大概の方は、そういう現象に出逢うと、因果関係を考えてしまいます。 近くで交通事故があったから、以前誰かが亡くなった部屋だから、果ては先祖が、親が……。 そして、祈祷や(まじな)いといった非科学的な手法に頼る。 だから、解決しないんです」


 言われて、まさにその通りの思考に陥った自分が恥ずかしくなってくる。 だが、解決できないと断言するのは、些か、乱暴だとも思えた。


「現象は、いたってシンプルなんです。 そこでは、見えるはずのないものが見える。 そして、聞こえないはずのものが聞こえる。 それだけの事なんです」


「でも……、それをどのように見えなく、もしくは聞こえなくするんですか?」


 言いたい事はわかるが、結局、どうすればいいのか? まさか、それは霊などではなく、気のせいなんですよ? と言って、貸し出す訳にも行くまい。


「見えないはずのものが見える。 これは幻覚です。 聞こえないはずのものが聞こえる。 これは幻聴です。 幻覚や幻聴が起こりやすい条件というのは、確かに存在します。 例えば、水の流れ、電磁波、そういう要素が絡み合うと、幻覚や幻聴が起こりやすくなります。 理由は不明ですが……。 あとはその原因を取り除くのが一番です。 ……と、いう事で頼んだ物は持ってきてもらえましたか?」


 私は種田を介して、頼まれていたニューワキタビルの竣工図(しゅんこうず)を掲げる。 頼まれたのは、配管と配線の配置がわかるもの、という話をだったので、竣工図を持って来たのだ。


 生島は、それをパラパラめくりながら、なるほどなるほど、と呟くと、見ていた所をこちらに示した。


「ここ、1階と2階の配管と3階の排水管が立体的に交差する形になってますよね?」


 竣工図を見ると確かに言われた通りの形になっている。


「こういう形の近くに、強い電流が流れるケーブルがあると、幻覚、幻聴が起こりやすいという傾向があるんです」


 そう言いながら、今度は電気配線のページを探す。


「このページですね。 ……やっぱり。 ここ、見てください」


 言われたところを見ると、先程と同じ2階の天井部分に、3階、4階から降りて来た配線が、2階の配線と一度まとめられている事を示す形になっていた。 

 要は、先程、生島が言っていた条件が一致したのだ。 だが、それだけで生島の言っている事を納得する事は出来ない。 なぜこの階だけなのか? それがわからなければ、この説は信じられないのだ。


 私は、1階、3階、4階の図面を開き、同じ様になっていないかを確認する。 すると、確かに、この2階だけが、他の階の配線の絡みで、条件を満たしているようだった。


「この条件と、あと壁紙ですね」


 今度は壁紙を指差す。


「この壁紙は、問題の現象が起き始めてから変えました?」


 壁紙は契約終了時点で、毎回変えている。


「それは、変えてますよ」


「デザインも?」


 ……。


 変えていない。 壁紙を変えるのは、事務所を綺麗にするためのもので、デザインを一新するためのものではないのだ。 従って、デザインの変更は一切していないのである。


 無言を肯定と捉えたのか、生島が口を開く。


「ここまで条件が揃っていたら、それを一つずつ変更するだけで、問題の現象は起こらなくなると思いますよ」


「壁紙のデザインまで関係するんですか?」


「ええ、壁の色というのは、人の神経に影響する様なんですよ。 まぁ、その辺は心理学とか脳神経学とか関係するんでしょうけど。 ……まぁ、私も、正直、そこまで詳しくないんですが、幻覚や幻聴に関する私なりの経験則ってやつです」


 想像していた形の対処法とはまったく違った事に驚きを感じるが、なんという説得力なんだろう。 怪現象に対して、こんなアプローチがあるなんて……。


 心霊現象なんてものは、幻覚や幻聴が起きた時に、それを納得するために、霊のせいにしているだけ……。 配線や配管、床や壁紙、それらから幻覚や幻聴が起こりやすくなる条件を起こりにくいものに変更する。 確かに理に適っているように思える。 『辻褄屋』の話に目から鱗が落ちた気がした。


 生島は、工事内容をまとめて、議事録を作成し始めた。 このキッチリした感じ。 種田と大違いだ。 思わず、種田の方を見てしまう。


「ね? 生島さんに頼んでよかったでしょ?」


 種田が、私が彼を感謝の目で見ていると勘違いしたらしい。

 そして、ふと疑問が浮かぶ。 何故、動画を撮らなければいけなかったのか? だ。 私は、一通り話がまとまった所で、その疑問をぶつけてみる事にした。


「……気を悪くしないで欲しいんですが、正直、自衛のためです」


 自衛? 言っている意味がよくわからない。


「私は、別に霊能者とかいう訳ではないんです。 でも、こういう問題ばかり舞い込んでくる。 私自身、霊という物は信じていませんが、もしかすると……、いつか本物に出逢ってしまうんじゃないか? と、そう思うんです。 でも、予め、オーナーさんなどに一晩泊まってもらって、その動画を撮ってもらえば、幻覚、幻聴じゃなければ何か映るだろう……と。 今回も、脇田さん、あなたが一人で見えない何かに怯える姿が映っていただけで、変な声も、姿も映っていませんでした。 だから、この依頼を引き受ける事にしたのです」


 頭を下げながら、教えてくれる生島。 聞いてしまえば納得の理由だった。 変な悪意じゃないかと勘繰ってしまった自分が恥ずかしい。


 それから、見積りの締め切りを決めて、基本的には工事を行う方向で、打合せを終えた。

 工事内容は、配管、配線の変更、壁紙の変更の3点だ。


 私は、ここ最近で一番の充実感を味わって、その日は解散となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ