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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
宗《しゅう》の章

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笑う美樹本

 破砕したクナイの欠片を避けながら、芦屋は苦笑する。


 自分で考えた武器から逃げる羽目になるとはな。まったく皮肉だぜ、と。


 ふと見ると、ラ・ムー美樹本が自分を囚えている"九字"を興味深げに見ている。


(どうせ、ジャミングの応用で消すんだろ?)


 そう思ったところで、ラ・ムー美樹本が"九字"の網を消滅させる。


 やっぱりな……


 芦屋は次の策を考えて、わざと驚いてみせることにする。


「げぇっ!? 俺の九字を……。 クソっ! バケモンがっ!」


(少し、わざとらしかったか? いや、大丈夫。 アイツは言うほど人に興味がねぇ……)


 そう思いながらも、芦屋はジャケットから大袈裟な動きで蜘蛛型の折り紙を出す。 そして、蜘蛛型の折り紙を囮に、小さな式神は密かに動き出す。


「蜘蛛丸! 時間稼ぎを頼むぜ」


 ラ・ムー美樹本の視線が、蜘蛛丸と呼ばれた特別製の式神に移る。 その表情から、相変わらず余裕が見て取れた。


(そうそう、お前はなんでも出来るから、人が使う新しい術には"(けん)"に回っちまうんだよな?)


 その隙に、小さな式神を『山』の経営企画部へと送る。


 そして、蜘蛛丸をラ・ムー美樹本の近くに走らせている内に、三回九字を切る。


「クソったれ……だがな、三重にしてやったらどうなる?」


 そう言って、三つの九字を放つ。 その動きを無視するかのようにラ・ムー美樹本が口を開く。


「その蜘蛛型の式神……なかなかのものじゃないか! 蠱毒……かな? 式神を使って、蠱毒を行ったのか!? ……なんて緻密な造形だ。禍々しさも際立っている。素晴らしい……! 毒虫を使う蠱毒を式神に応用するなんて!」


 想像以上に早く蜘蛛丸の異質さに気付かれ、芦屋は複雑な気持ちになる。


(……自慢の蜘蛛丸を褒められて、悪い気はしねぇが、本当に、バケモンだぜ)


 蜘蛛丸が糸を使って、不気味な動きでラ・ムー美樹本へと近付く。 そうしている間にも、"九字"の網がラ・ムー美樹本を捕らえようと迫る。


 ラ・ムー美樹本は、"九字"の方に興味ないのか、目を輝かせて蜘蛛丸ばかりを見ている。


(一度、攻略した術には興味ねぇってか? ……ふん、そのまま舐めプしてろや)


「む……?」


 ラ・ムー美樹本が、初めて大きく動き、"九字"を避ける動作をする。


(勘づきやがった……か? だが……)


 芦屋が二本指をクイッと動かすと、サイドステップで避けたラ・ムー美樹本を追うように、"九字"が大きくカーブを描く。


 ラ・ムー美樹本が、瓦礫の欠片を"九字"に向かって投げると、そのコンクリートの欠片が当たってスパッと切れたところで、役目を終えたように"九字"が消える。


 そう、芦屋は三重にしたように見せ掛けて、切断効果のある"九字"を形成していたのだ。


(目線の高さの"九字"にばかり気を取られていると……足元を掬われるぜ?)


 芦屋が"九字"を誘導する。 瓦礫に手を伸ばそうとするラ・ムー美樹本にクナイを投げつける。


 芦屋は左目で睨みながら、両手の二本指で"九字"とクナイの両方を操作する。


 そして、その足元で蜘蛛丸が毒牙を光らせる。 隠密に長けたその式神は、蠱毒により磨かれたその猛毒を流し込まんと、カサカサと間合いを詰める。


 ラ・ムー美樹本は、ごぉっと風切り音を出しながら飛び込んでくるクナイをギリギリで躱すと、そこに待ち構えていたかのように迫ってくる"九字"をも素早いステップで避ける。


(はっ、ジジイの割にいい動きじゃねぇか。 だが、いつまで、もつかな……っと)


 虎視眈々と狙いを定める蜘蛛丸の元へと誘導するかのように、クナイと"九字"を操作する芦屋。


「…………」


 ラ・ムー美樹本は、無言で作務衣の懐からいくつかの小さな紙を取り出すと、宙に放り投げる。 その紙は宙で動きを止め、まるで衛星のようにラ・ムー美樹本の周りを漂い始める。


 蜘蛛丸が弾かれるようにラ・ムー美樹本から距離を取る。


(安部の式神結界みたいなもんか? なら……)


 芦屋が念を込めるとクナイの起爆符が反応、飛び散ったクナイの欠片が、宙に浮く紙を切り裂く。


 その隙を作るのが目的だったかのように、ラ・ムー美樹本は大きくバックステップして、瓦礫を広い、二つの"九字"に投付ける。 瓦礫を切断し消えていく"九字"。


 さらにラ・ムー美樹本は、額の前に二本指を構える。 その瞬間、蜘蛛丸を尖った土柱が貫く。


「蜘蛛丸っ!」


 長年を共にした相棒の無惨な姿に芦屋が嘆く。 一瞬、いつも晩酌の愚痴に付き合っている時の可愛らしい姿が脳裏に浮かぶが、すぐに振り払う。


 パチパチパチパチ


 笑いながら拍手をするラ・ムー美樹本。


「あん?」


「いやぁ、素晴らしい。 さすが呪術部長。 呪術的猛毒を備えた式神に、切断効果を付与した"九字"、仕込みを施したクナイ、そして状況に合わせて本命と囮を巧みに切り替える戦術。 どれをとっても素晴らしい」


 突然、褒め称え始めるラ・ムー美樹本に芦屋が眉を寄せる。


「特に、網にも切断にも使えるよう柔軟に練り上げらた"九字"。 限られた人の身で、よくぞここまで練り上げたものだ。 だからこそ惜しいな。 芦屋君さえ良ければ、こちら側に来ないかい?」


「抜かせ! 日本沈めようって奴の仲間になる訳ねぇだろうがっ!」


「そうか、残念だ。 strange()ness()


 いつの間にか黒い本を手にしたラ・ムー美樹本が呟いた瞬間、芦屋は一気に空気が張り詰めたような感覚を覚えた。


 ラ・ムー美樹本の背後に黒い影が現れる。 背が高く、黒い布を頭から被ったかのような、ヒョロっとした造形の異形。


 おそらく、国滅級……それも、神クラス……か?


 芦屋は、背中に嫌な汗が流れ、 妖の圧からか息苦しさを感じる。 見ているだけで、取り返しのつかない状態になってしまうような、得体の知れない錯覚を覚える。


 ウ~ウ~ウ~


 その時、けたたましいサイレンが響く。


「ん?」


 訝しげに周りを見るラ・ムー美樹本。


(ようやくか……)


 芦屋は一瞬安堵し、すぐに気持ちを切り替える。


 芦屋は以前より、経営企画部長である松井とある取り決めをしていた。 『山』に危険が訪れた時は、小型の式神『阿型』を経営企画部へ送る、と。


「はっ、緊急退避命令だ。 戦闘中に遣いを出させてもらったぜ。 こっからの俺は、単なる時間稼ぎだ。 逃げに徹してる相手を殺るのは、案外難しいぜ? わかるだろ?」


 芦屋はラ・ムー美樹本に不敵な笑みを見せた。 あとは、現在『山』にいる人間が完全に逃げる時間を稼いだら、自分もトンズラだ、と。


「抜け目ないね。 その多彩な術に戦術、そこまで併せ持ち、それでも慢心しないその姿勢。 本当に賞賛に値するよ。 でも、本気で私から逃げられると思っているのかい?」


「へっ、難しいだろうな。 だが、無理じゃあねぇ。 そっちは、せいぜい時間稼ぎに殺られねえよう気をつけるんだな」


「……やって……みるといい」


 芦屋はチラリと土柱に貫かれた蜘蛛丸を見る。 蜘蛛丸は器用に脚を動かし、自分を貫いた土柱からの脱出しようと動いているのが見えた。 よし、まだ機能している。 ここが、生物と式神の違いと言えるだろう。


 あとは気付かれないよう……そう思ったところで、ラ・ムー美樹本の声が響く。


「そうそう。 大丈夫だとは思うけど、もう符とか隠し持ってないよね? 時々あるんだよ。 いざっていう時に限って符が暴発するとかいう不運(アンラッキー)がね」


「あん? なに言……」


 突然、左脇腹に起こるドンという破裂音と衝撃。


「がっ!」


 衝撃で吹き飛び、地面を転がる。


 芦屋は何が起きたか、理解が追いつかない。芦屋は、遠ざかりそうになる意識を無理矢理保つ。 ラ・ムー美樹本も背後の妖も、何もアクションを起こしていなかった。 では、何が起きたというのか?


「あぁ、言ったそばから。 起爆符付きのクナイかな? 爆発とクナイの散弾で脇腹が抉れてしまったんじゃないのかい? だから、言ったじゃないか。 不運(アンラッキー)で、符が暴発するかもしれないよってね」


 まさか? そんな事が?


 芦屋が慌てて、脇腹を見ると確かにラ・ムー美樹本の言う通り、符が暴発したかのように見えた。 アドレナリンのせいか痛みはまだない。 が、その傷は、この先の戦闘を考えると致命傷のように思えた。


「貴様……なにを……」


「まいったなぁ」


 ラ・ムー美樹本が口を開く。


「せっかく作った駒が……今消えた。ま、他を使えば済む話だけどね。……それでも壊されるのは気に入らない。君もそう思うだろ? 芦屋君」


 まるで芦屋の問いを無視するかのように、無関係な言葉が紡がれる。


「クソったれが……」

想像してみてください。

夜な夜な、蜘蛛、蛇、蠍などの毒を持つ生物をチマチマと折り紙で造る芦屋部長を。


ね?


なんかいいでしょ?

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