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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
宗《しゅう》の章

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宴の準備

 ギィ


 扉が開く音に反応して顔を上げると、そこには包帯姿のクリスティーヌ滝本がいた。


「大変長らく、お待たせしました」


 そう言って、部屋に入ってきたクリスティーヌ滝本の姿を見て、臨太郎は嫌な予感に包まれる。


 クリスティーヌ滝本は、その手に工具箱を持っていた。


 ガシャ


 床に置かれる工具箱。


「お腹空きましたよね? でも、ごめんなさい。 食べ物は持ってきていないの」


 コト


 工具箱から出されたハンマーが、臨太郎の目の前の床に置かれる。


「昨日は、ずっとセミナーだったし、いろいろ準備があったものですから、こうして相手する事ができなくて……。 それについてもごめんなさいね」


 コト


 なぜか裁縫セットのようなものが工具箱から出される。


「今日だって、午前中はセミナーで講演しなきゃいけなくて……本当にごめんなさい」


 コト


 ペンチが置かれる。


「不安ですよね? わかります。 私も初めてなんで不安です。 でも、昨日、たくさんネットを見て勉強してきたので、きっと大丈夫だと思いますよ。 爪も歯もいっぱいあるし……ね?」


 コト、コト……


 スプーン、オイルライター、注射、透明な液体が入った瓶、タオルが次々と置かれる。


 臨太郎は、目の前に置かれる様々な道具から、目が離せないでいた。


「どうも爪と指の間に針を入れるのがいいみたいですね」


 鼻唄まで聞こえてきそうな程、上機嫌で話すクリスティーヌ滝本。 臨太郎の後ろで松尾が騒ぎ始める。


「それに、焼いたスプーンを同じ場所に何度も押し当てるってのもアリかしら?」


 そこで、ようやく臨太郎は気付く。 これから行われるであろう惨劇に……


「硫酸を注射で皮膚の中に入れるのもいいわよね」


 身体の中が一気に熱くなり心拍数が上がる。 身体が逃げる準備をしているのに、身動きが取れない。 そのギャップに気が狂いそうになる。


「ふふふ、昨日、いろいろと想像してたら……恥ずかしいのだけれど、……濡れちゃいました」


 恥ずかしそうに包帯に包まれた顔を両手で覆うクリスティーヌ滝本。 ……狂っている。


  必死に身を捩らせる臨太郎。


 それを見て、クリスティーヌ滝本がハンマーを手にする。


「……動くな」


 さっきとは打って変わって低く響く声を聞いて、思わず動きを止める臨太郎。 その身体がガタガタと震え始める。


「さて、今から口のテープを剥がしますが、大声は出さないでくださいね。 どの道、助けが来ることはありませんが、五月蝿いとイラつくので……」


 ピリ……ビッ


「あぁ、いいですね。 偉いですね。 痛かったでしょうに」


 勢いよく剥がされたテープにより口がひりつくが、叫び声を出したら確実に何かされる。 臨太郎は、一度、強く目を瞑った。


「さぁ、謝ってください」


 冷たく響くクリスティーヌ滝本の声。 その言葉の意味がわからない。


「悪い事をしたら謝る。 子供でもわかる事ですよね」


 膝を付き、床に正座するクリスティーヌ滝本。


「さぁっ! 謝りなさい。 霊をけしかけてごめんなさい。 言えるでしょう?」


 クリスティーヌ滝本は上体を折り曲げ、必要以上に臨太郎に顔を近付ける。 その息が臨太郎にかかる。


「謝れぇっ!」


 クリスティーヌ滝本の唾を浴びながら、臨太郎は、ようやく理解する。 クリスティーヌ滝本の顔の発疹がキキの霊障なのだと……

 だが、それは誤解だ。 誤解なのだと理解してもらえれば……


「ち、違う! 違います! 俺は、俺達は霊をけしかけてなんか……。 御守りを破ったからっ! ナドゥ……ナドゥ桐山が……」


「桐山は死んだぞ」


 クリスティーヌ滝本の冷たい声が響く。 その目に光はなく、なんの感情も感じられなかった。


「彼はね。 カラッポだったの。 唯一の取り柄は、そのルックスだけ。 あの悪霊に覆い被さられて……二目と見れない顔になって、すぐに死を選んだわ」


 次の瞬間、臨太郎は背中に衝撃を受ける。 松尾が蹴ったのだ。 なんで? そう思った瞬間……


「……なに、さっきから、はしゃいでんの? このメス豚が」


 唐突に響く松尾の声。


「あ?」


 訝しがりながら立ち上がったクリスティーヌ滝本が様子を窺う。 貼ってあったはずのテープが松尾の口から剥がれかけていた。


「……どうやって」


「私ね。 こう見えても、得意なの。 ディープキス」


 横たわりながら、舌を出してレロレロと器用に動かしてみせる松尾に、クリスティーヌ滝本の目が怒りに歪む。


「この……ビッチが!」


 怒り狂いハンマーを手にしたクリスティーヌ滝本。 その様子を見て、臨太郎は悟る。 背後の松尾が自分を庇ってくれていることを。


 例え、彼女が偽りの存在だったとしても、臨太郎の気持ちは変わらない。 ターゲットが好きな子に移るのは、なんとしても止めなければ……


「ま……」


 出たとこ勝負。 臨太郎が、「待って」と声を出そうとした瞬間、遮るように松尾の声が響いた。


「まぁ、落ち着きなさい。 私もメス豚ってのは言い過ぎたわ。ごめんなさい。 ただ、……あなたは本当の敵を見誤ってる」


「は?」


「さっき見た顔の発疹。 まだ続いてるのよね? 半年……だったかしら? 一回遭っただけの霊の霊障が、そんなに続くなんてありえない」


 言われて、臨太郎はハッとする。 元凶である霊は、今も一ノ瀬に憑いている。 そして、その一ノ瀬の発疹はとっくに治っているのだから。


「……なにが言いたいのかしら?」


 臨太郎は、ゆらりと立つクリスティーヌ滝本から、激情が消えている事に気付く。


「私ね、こう見えても……霊能者なの。 あなたには、金髪で赤い発疹に包まれた悪霊が憑いてる。 その霊のせいよ。 あなたの顔は。 そこの……臨太郎君の時の霊とは違う霊ね」


「はぁ? 何を根拠に……」


「根拠は見せられないけど、……その霊が、ずっとブツブツ言っている言葉はわかるわ。 『ラ・ムー美樹本、まじパネェ』 って。 心当たりは?」


「え?」


 臨太郎に衝撃が走る。 一度聞いたら忘れられない、その響きに。


 ゴトリ


 ハンマーが床に落ちる音と同時に、クリスティーヌ滝本の肩がわずかに震えた。


「もっと言うと、ラ・ムー美樹本。 彼は、なんでその霊を祓ってくれないのかしら?」


「…………」


「ね? 本当の敵……見誤ってると思わない?」

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