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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
宗《しゅう》の章

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三人の訪問者

 新葉がうちに転がり込んでから、そろそろ1ヶ月。 なんの事件もなく、平和な日々が続いていた。変化といえば、夕食に唐揚げが出る頻度が妙に増えたことくらいだろうか。


「世の中、変わり過ぎじゃろう」


 と、マンガやアニメ、動画の堪能(本人は情報収集と言っているが)に勤しむ新葉。 新たな葉が、早々に腐りそうな勢いだ。


 そんなわけで、新葉が留守番する中、僕は、キキと一緒にいつものように柊の部屋でダラダラしていた。 と、そこへ不意に声が掛かる。


「ほんま、一ノ瀬、ここに住んでるんちゃう?」


 声の主は與座だった。っていうか、また勝手に入ってきてる。 ホントどうにかしてほしい。


「これはこれは、與座のぼっちゃんじゃございやせんか。今日はどんなご用件で?」


 柊が手を揉みながら與座を迎える。目つきはまるで商人そのもの。


「お、なんやその態度。まあええわ。今回もちゃんと依頼やしな。えらい察しがええやん?」


「つうか、依頼でもないのに勝手に入ってきてたら、普通に追い出すけどね?」


「なんや、俺って依頼ありきかいな。堪忍やで、ほんま」


 そう言いながら、苦笑して当然のように腰を下ろす與座。


「実はな、柊兄にどうしても頼みたい案件があるんや。 これは『山』……いや、日本の命運に関わる話や。 絶対に断らんとってほしい」


 ピンポーン。


 與座が神妙な顔つきで話し出したその時、玄関のチャイムが鳴った。


「ああ、こっちは時間かかる話やし、お客さんの相手してからでええよ」


 與座の話が気になって仕方ないが、柊は彼の言葉通り、先にインターホンのモニターを見た。 そこに映っていたのは和泉さんだった。


 玄関を開けると、和泉さんが息を切らしながら駆け込んできた。


「おいおい、真ちゃん。どうしたんだよ、そんなに慌てて」


「すまない。大変なことになってしまって……」


 そう言いかけて、リビングにいる僕と與座に気付いた和泉さんは、言葉を飲み込む。


「ん? あいつらがいるとマズい感じ?」


「あ、いや……だが……」


「真ちゃん、こっちは気にせんで話したらええやん。正直めっちゃ気になるから席は外さんけど、誰にも言わへんて。な? 一ノ瀬」


「…………」


 與座の軽口にも、和泉さんは押し黙った。 いつもなら「お前が真ちゃんとか言うな」と突っ込むところなのに、今日は違う。


「……まあ、一ノ瀬君にも聞いてもらった方がいいだろう。 急いだ方が良さそうだし……仕方ないか」


 悔しそうに眉をしかめながらも、和泉さんは話し始める決心をしたようだった。


「実は……鹿山君と連絡が取れなくなってしまって……」


 ── 臨太郎と?


 和泉さんは語り出す。 かつて自分の家から金を騙し取ったインチキ霊能者と、ある団体の代表が同一人物かもしれないこと。 その団体に臨太郎が探りを入れていたこと。 そして昨日から、彼とまったく連絡が取れなくなっているということを。


「なんや、復讐か。やめとき。ええことないで。今を生きんと」


「くっ……お前が言うな。 自分だって、虚忘に執着してただろうが……」


「……せやな。確かに、前に進むために必要なこともあるわ。すまんかった」


 素直に頭を下げる與座。 そこには普段の茶化すような態度は微塵も感じられなかった。


 それにしても……


「臨太郎が和泉さんの手伝いをしてるってのは知ってたけど……そんな危なっかしいことだとは思わなかった」


「いや、本来はそこまで大事になるはずじゃなかった。 詐欺まがいのセミナーに参加して、うまくいけば代表の顔写真を入手する……ただ、それだけの予定だったんだが……」


 そう言葉を切ると、和泉さんは悔しそうにギリリと奥歯を噛んだ。 その表情からは、自責の念が感じられた。


 和泉さんの話からすると、インチキ霊能者と団体の代表が同一人物かを確認する程度の軽い目的だったようだ。 それくらいのことで、そこまで危険な目に会うのだろうか


「でも、潜入ってバレても、いきなり拉致するような危ないヤツらがいるとは、そうそう思えんし、そのうち、ひょっこり電話かかってくるんじゃねぇの?」


 子供じゃないんだし、と柊が呑気な声を上げる。 柊も僕と同意見のようだ。


「……だといいんだが、なんか特別なセミナーとやらに参加するってなった直後だったから、つい」


 冷静になったのか、少し気恥しそうにする和泉さん。


「特別なセミナー……ね。 セッコイ詐欺集団なんやろ? うっかり、騙されて金払うてもうて、バツが悪なって電話出れへんだけちゃうん? ちなみに、なんて団体名なん?」


 與座の言葉を聞くと、そんな可能性もあるような気がしてくる。 しっかりしてるようで抜けてるところもある奴だからな。 納得しかけたところで、和泉さんの呟く団体名を聞き、耳を疑う。


「プラーナだって!?」

「プラーナやて!?」


 驚きの声を上げたのは僕だけではなかった。 声の主、與座は驚愕の表情を浮かべていた。


「あかんて……。 それはマズイやろ……」


 そこから與座は、今回の依頼とも関連していると、ラ・ムー美樹本の話を始める。


 フート、二匹の龍、生前退位、日本沈没、テロ。


 矢継ぎ早に飛び込んでくる重いキーワード。


 頭がパンクしそうだった。 理解が追いつかない。 でも、ただ一つ言える事は、臨太郎が危ないという事だった。


「テロまで考えるような団体やし、真ちゃんが思ってるよりヤバい奴やで、ラ・ムー美樹本は……。 手遅れになる前に助けいかんと」


 與座が焦るように呟く。


「ところで、一ノ瀬もプラーナ知っとるみたいやったけど、なんでや?」


 僕は言われるままに、かつてキキに憑かれた時の話をする。 キキが居心地悪そうにフラフラし始める。


「顔バレしとるやん。 よう潜入しよ、思ったな」


 呆れるように呟く與座と、後悔に唇を噛む和泉さん。


「しかし、どないしよな……。 柊兄は対ラ・ムー美樹本の切り札やから、正直、こんなとこで存在を知られたないし……かと言って、柊兄以外は皆、存在知られとるやん」


 そう言って、自分もかつてプラーナに取材交渉に行って、簡単にあしらわれた事を教えてくれる與座。


「あの様子やと、俺の顔も知られとる思っといた方が無難やわ」


 なるほど、見事にみんな存在を知られている。


 ピンポーン、ピンポ、ピンポ、ピンポ、ピンポーン


 重苦しい空気の中、場違いな連続チャイムが鳴り響く。


「ったく、誰だよ。 こんな時に……」


 鬱陶しそうに呟きながら、モニターを見る柊。


「……はい」


「ここになら一ノ瀬君がいるだろうと、山村さんに聞いたんですが。 あ、山村さんご存知です? 知ってますよね? 天パでおなじみの嫌味ヤローです。 もし知らなかったら、それはそれで教えてください。

 ……で、ついでに一ノ瀬君も今ここにいますか? いなかったら、文句を言わないといけないので、とは言っても、どっちにしろ文句は言おうと思ってる訳ですが、なぜならいけ好かないから一択です。 という事で、正確な情報だけをお願いしたいです。 はい。 ……あと、なぜ来たかと言うとですね、仕事がないからです。 しばらくない。 非常にない。 まったくない。 なので今は、“ノセ"仲間として親交を深めるチャンスだと思い、『クラゆめ』DVD全8巻を持って来ました。 もちろん二期までです。 三期は、ちょっと違う。 かなり違う。 あれは違う。というわけで、こんにちは。ご在宅なら、カモン! ですです」


 早口で捲し立てられる、その言葉に既視感を覚える。 誰もがウンザリして閉口してしまう、この独特な喋り方は……


「……なんだ? コイツ」


 怪訝そうな顔をする柊の脇からモニターを覗いてみると、そこには、やはり呪術部エース、楠瀬 海月の姿が映っていた。

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