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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
宗《しゅう》の章

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卑弥呼、語る

 薄暗くされた豪華な会議室。


 プロジェクターが映すスクリーンの対面に、重々しい雰囲気の駕籠が据えられ、その周囲を囲むように、各部門長の席が配置された円卓が並ぶ。


(なんでやねん……。まるで御前会議やないか)


 部門長以外に招かれたのは二人。営業の與座と、呪術部の山村だった。

 同じ立場の者がいる心強さか、二人は時折チラチラと視線を交わし合っていた。


「それでは、これより緊急会議を開始します。当代様、お願いいたします」


 黒いパンツスーツ姿の壱与が静かに告げると、全員の視線が、示し合わせたように駕籠へと移った。


「オッケー、かしこまりぃ~」


 場の空気をぶち壊すような軽い声とともに、駕籠の簾がゆっくりと開く。

 中から、"うんしょ、うんしょ"と女子高生が這い出てくるその姿に、一瞬、全員が呆気にとられる。


 間抜けな絵面とは裏腹に、誰かがゴクリと喉を鳴らした。


「うん、お待たせっ! ウチが当代の卑弥呼よっ!」


「はぁ?」「馬鹿がっ! 静かにしろっ!」


 山村の素っ頓狂な声が静寂を破り、それに被せるように芦屋の怒声が響く。


 その光景を見ながら、與座がニヤリと口元を緩めた。


(そら、そうなるわな。 俺も最初は、訳わからんかったもん。 わかるで、山村のおっさん)


「あぁ、オッケー、オッケー、ヤマムーとは初対面だもんね。驚くよね? でも、話が進まないから、さっさと慣れてね」


 両手を腰に当て、胸を張る女子高生。


「ほんじゃ、さっそく本題だけど、巨魚(フート)の虜囚が動き出したわっ。 壱与っ!」


「はい、除厄式の日、本人がここに現れました。 なんとか追い払うことに成功しましたが、──決戦の日は近い、という事になります」


「なっ!?」


 会議室にざわめきが起こる。 話にまったくついていけない與座と山村だけが、冷めた表情で周りを見ていた。


「そこで一度、情報を共有し、その対策を徹底いただく、それがこの会議の趣旨となります。 こちらをご覧下さい」


 そう言いながら、壱与がPCをいじると、スクリーンに巨大な二匹の龍の絵が映る。

 頭を逆にして絡まり合う、その姿は、どことなく既視感を覚える配置に誰もが言葉を失った。


「単刀直入に言うと、──この二匹の龍は、日本の土台となります」


「そ、この日本は、二匹の龍の上に成り立ってるってわけ。 巨魚(フート)の虜囚の狙いは、この二匹の龍を解放すること、みたいな?」


 卑弥呼が言うと、それに応えるように、龍と重なるように半透明な日本地図が配置される。


「待った! それが本当だとすると……龍が開放されたら、日本はどうなっていまうんだい?」


 安倍がその場の代表として、疑問を口にする。


「もちろん……」


 そう言いながら、卑弥呼は前に出した拳を開いてみせる。 その仕草で誰もが理解した、ゲームオーバーなのだ、と。


 その沈黙を破ったのは芦屋だった。


「……なるほど、言いたい事はわかった。 だが、なぜ今なんだ? なぁ、当然の疑問だろ?」


 芦屋が同意を求めるように手を広げ、周りを見回す。


「それはこれから、説明させていただきます」


 壱与はそう答えると、控えめにタンとキーボードを叩く。 すると、スクリーンの日本地図に複数の星印が現れる。


「この星印は、各地の要石……となります」


「要石……地震を鎮める……とされているが、実際は龍を封印していた──そういう事か?」


「その通りです、烏丸生産部長。 よく知られているものから、全く知られていないものまで……。 各地の要石を使って、日本全体に呪を施すことにより、二匹の龍を抑えこんでいるのです」


 要石の本当の役割……その言葉に、烏丸の目が好奇心で輝いた。


「そして、全ての要石に力を注ぐため、ある血族に特殊な呪をほどこし、代表者一名に生贄……失礼、"生きる要石"──と、なってもらっている。 そういうわけです」


「……なぜ今、の答えには聞こえないが、どういうことだ?」


 芦屋が怪訝そうな顔で呟く。


「その代表が近々、生前退位を行う事になっています。 だから、"今"なのです」


「生前退位? まさか……」


「その"まさか"よ! 戦争に敗れた時は、そのシステム自体が解体されそうになっちゃって、大変だったんだっちゅうの。 もっと前は、その血族を二つに分裂させてシステム自体を混乱させようとしてきたし……もっと前には──」


 そこから、しばらく卑弥呼の愚痴が続いた。


「と、まあ、このように、『山』は全力で天皇を守ってきたわけですが、稀に血の力が弱まる時がありますので、その場合は、生前退位と称して、早めに呪を切り替えてきたのです」


 卑弥呼の愚痴を遮るような壱与の言葉を受け、それまで黙っていた松井が、静かに口を開く。


「……ちなみに、血の力が弱くなると……どうなるのですか?」


「静香も、なんとなくはお察しでしょ? 大きな地震が起きやすくなるってわけ。 ま、切り替えても、しばらくは影響が残っちゃうけど……ま、切り替えないよりはマシ? みたいな?」


「待った! 俺は、呪術部の部長だが、今までそんな呪の話なんて聞いたことがねぇ。 一体、誰がその特殊な呪を切り替えるってんだ? いきなり、やってくれって言われても、できねぇぞ? そんなん」


 一通りのやり取りを受けて、焦るように芦屋が立ち上がり口を開く。


「あ、そこは、全然だいじょーぶいっ! 呪はウチが結び直すから! だいたい、即位の度に毎回やってるから、慣れたもんだしっ!」


 その言葉に、各部門長が静まり返る。


「……まるで、今までの全部、自分がやってきた、というように聞こえたけど……冗談……だよね? 当代様って、ずっと世代交代してる……はずだし……」


 安倍が、引き攣ったような笑いを浮かべる。


「冗談じゃないよ? だって、ウチずっと転生を繰り返してるし。 壱与も。 ついでに言うと、巨魚(フート)の虜囚も」


「はぁ?」


 我慢できず、声を漏らす山村。 だが、今回は誰も彼を咎める事はなかった。 なぜなら、その言葉に伊藤経理部長と烏丸生産部長以外の全員が、驚きに包まれていたからだった。


 ──転生。 それはエネルギーと魄(記憶)の関係を熟知する者にとって、まるで常識外れの話だったのだから……

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