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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
閑話

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今日から俺は……!

 僕は、キキと暮らし始めた。 とは言っても、相手は鬼だ。 悪霊だ。 しかも、柊のお札のせいで、かなり能力が落ちているようで、物を持つ事も出来ないし、喋る事も出来ない。 さらに僕に触れる事も、僕が触れる事も出来ない。 本当に、そこにいるだけの存在だ。


 キキは、僕がお風呂に入る時とか、一人になりたい時にその旨を伝えると、そう遠くないところに離れ、こちらを見ないようにしてくれるので、あまり気を使わないで済んでいる。


 最初は、そう広くない1Kのアパートに霊とは言え、美少女と二人きりという事で、かなりドキドキした。 だが、何も出来ないし、何もされないという事を思い知った今では、普通に過ごせている。 ただ、かなりの美少女(お札付きだが……)なので、観賞用として楽しませて貰っている。


 キキは、僕が何処に行こうが憑いてくる。 太陽の下だろうが、人混みだろうが御構い無しだ。 修蓮さん曰く、幽霊が夜出てくるという逸話は、夜の方が怖いし、インパクトがあるから印象に残りやすい、という理由なだけで、実際は昼夜は関係ないらしい。


 そして、僕は今日も柊の家に向かった。 開業の話を進めるためだ。 もちろん、キキも一緒だ。


 柊の家は、二駅離れたところのアパートで、最近借りたところらしい。 それまでは、実家に住んでいたとの事だが、その辺の話になると歯切れが悪くなる。 実家とは、あまりうまくいってないのだろうか?


 柊の部屋は、1DKの部屋で明らかに僕の部屋より家賃が高そうだ。 僕が柊の部屋に着くと、すでにそこには臨太郎の姿が……。 まさか付き合ってんの?


「まぁ、座りなよ?」


 と、部屋の持ち主のように対応する臨太郎。 どうやら、二人でモンストをやっていたようだ。


「キキちゃんは?」


「いるよ? 今は壁をすり抜けて、柊家の探索中みたい」


 そう、キキは壁をすり抜ける事ができるのだ。 柊の部屋に着いたなり、キキは自由人のように各部屋(とは言っても所詮、1DKなのだが……)を探索しているようだった。


 柊が、タンクトップにハーフパンツというラフな出で立ちで、冷たいお茶を入れてくれた。 アロハ以外の服を初めて見た。


 僕は、持ってきていた鞄から、開業届、正確には『個人事業の開業、廃業等届出書』と『青色申告承認申請書』を取り出した。 もう記入済みである。 職業は『カウンセラー』、事業の概要は、『超科学的事案に対するカウンセリング』とした。 事業所の所在地は、ここ柊の部屋である。 居住用の賃貸物件だが、事務所として使用する訳ではないので問題ない。

 屋号(やごう)に関しては若干揉めたが、結局空欄で提出する方向だ。 というわけで、後は税務署に提出するだけなのだ。


「だいぶ、よくなったんじゃね?」


 臨太郎が、自分の左腕を指差して尋ねてくる。 キキにお札が貼られた日から、赤いブツブツは、だんだん茶色に変色し、今では若干痕が残った程度に治った。 この痕も、じき消えるだろうというレベルだ。


「まぁね」


 僕もソファに座り、モンストを開く。


「次、僕も入れてよ。 ……ところで柊、車はどうするの?」


 修蓮さんは、身一つで開業できるとは言っていたが、和泉さんが車はあった方がいいと力説してきたのだ。

 どうも、こういう仕事だと除霊の対象が、持ち運ぶ事自体が危ない物だったり、家などの持ち運びが無理なものも多いのだと言う。 僕のように人に憑かれるパターンというのは、案外多くないという事だった。 そこで、必然的に顧客の家やその付近に出向く事が多くなると言う。 そうなると、車はあった方がいいというのが、和泉さんの談だ。 ちなみにお勧めは、車中泊もできるワンボックスカーらしい。


「ん〜、まぁ、最初は電車移動だなぁ。 軌道に乗ったら、中古でも買うかなぁ。 ……次、このイベクエやろうぜ?」


「いいけど……。 柊、腕もないくせに、適正キャラでもないって……喧嘩売ってんの?」


 臨太郎の言葉を切っ掛けに、ギャーギャー言いながら、盛り上がる三人。 いつの間にか、戻ってきたキキが、不思議なものを見る感じで、僕のスマホを覗き込んでいる。


「このクエ終わったら、税務署行こうよ」


「……いよいよか」


 自分の起業じゃないとは言え、いい経験になった。 きっとこの先、開業届なんて出す機会はないだろう。 なぜなら、安定を目指す僕は、適当な会社に就職して、適当に仕事して、適当に退職金を貰うのが夢だからだ。


「よし! 税務署行ったら、今日は打ち上げだな! 航輝からもらった30万円もあるし、パァッと飲みに行くぞ!」


 そんな感じで、僕らは税務署へと向かった。 部屋を出る前にタンクトップの上にアロハを羽織る柊。 アロハに何かこだわりでもあるのか!?


 開業届は思ったより、すんなりと受理された。 受付の女性が、ジト目で見てきたり、これって詐欺ですか? などと絡んでくる事もなく、呆気ないくらい簡単に起業できてしまったのだ。

 こうして、柊は個人事業主となったのだ。 青色申告のため、帳簿は少し複雑になるが、まぁ慣れだろう。


「今日から俺は、個人事業主だぜ!」


 ドヤ顔で決める柊を乾いた拍手で祝福し、柊の部屋で時間を潰した後、飲みに行くために駅前へと向かった。


 ◇  ◇  ◇


「もう一軒行こう!」


 飲み屋で散々盛り上がった後、二軒目を探し始める。 もちろん、キキも一緒だ。


「よし、スナック行こう!」


 柊が、提案してきた。 正直、スナックなど行った事がない。 お高いのではないのだろうか? ボッタクリとか大丈夫か? 不安になっていると、臨太郎が一軒の店を指差す。


「隊長! あそこがいいと思います!」


 ビシリと敬礼しながら、1階に韓国料理屋の入っている雑居ビルの2階を力強く指差す臨太郎。 ブルータス、おまえもか!?


「うむ。 やはり、個人事業主となったからには、こういうムーディーなお店も一度は経験しないとな」


 なにやら気の大きくなっているご様子の柊。ってか、お前も初めてかよ!? 僕は気乗りしない感じで、その店を見る。


『strawberry moon』


 名前の意味はわからないが、なんだかとても艶かしい印象の店名だ。 本当に大丈夫なんだろうか?


「大丈夫だって! キャバクラよか安いし」


 臨太郎が、不安がっている僕の背中に手を当てて説得を始める。 なんだお前、お見通しか!?

 不安がる僕を尻目に二人が、階段を登り、その店の扉を開く。 僕は一度、キキと顔を見合わせた後、渋々付き従う。


 中は、カウンターと二つのボックス席というこじんまりとしたお店だった。 女の子も二人しかいない。 

 一人は、ショートボブの綺麗な女性で、カウンターに座っている陰気そうなポロシャツの男性を相手にしている。 その女性が、一瞬、値踏みするような目を見せたが、すぐにボックス席に案内するよう、もう一人の女の子に指示を出している。 おそらく、ここのママだろうと思われるが、背が低く、こじんまりとしているのに出るところは出ている感じで色香を感じる。


 僕らはボックス席に案内され、そこに一人女性が付く。 その女性は、ぽっちゃりした体型で、アニメ声で話し掛けてくる。 顔は、まぁ……普通だろうか? ぽっちゃりだけど……。 おそらくは若いと思われるが、……どうなんだろう?


 想像した感じとはちょっと違うと思って、店内を見回していると、ぽっちゃりにお酒を聞かれる。 三人とも水割りを頼み、ぽっちゃりがお酒を作り始める。 ちなみにキキは、ボックス席の付近でユラユラと突っ立っている。


 最初はちょっと緊張していたが、お酒も進み、場に慣れてくると、楽しくなってきて盛り上がってくる。 意外とぽっちゃりとのお喋りが楽しい。 ちなみに僕が想像していた雰囲気は、キャバクラの雰囲気だと、ぽっちゃりの説明により判明した。


「あのママ、反則よぉ。 あれで40半ばなんだから……。 ああいうのを世間では美魔女とか言うのよ。 しかも、趣味がまた……男前なのよ」


 思わず、ママの方を見る。 20代後半と言っても通じる容姿をしている。 とても、40を越えているようには見えない。


「男前?」


 臨太郎が、男前という言葉に反応する。 何故だ? アニキ好きか?


「そ、ツーリングよ、ツーリング。 あんなちっこい身体で、でっかいアメリカンバイクに乗って、走り回ってんのよ」


 そりゃ、すごい! 思わず、黒革のツナギ姿のママを想像する。 そして、その手がジッパーに掛かり、ゆっくりと……。 ……いい! すごくいい!


「バイクかぁ。 バイクもいいなぁ。 車買うのやめてバイクにしようかな?」


「なになに? 車買うの?」


 仕事柄、足があった方がいいだろうと言われている事を柊がぽっちゃりに説明した。


「お客さん達、学生じゃないの?」


「こっちの二人は学生だよ。 でも、俺は除霊の仕事をしてるんだ。 今日は開業届出してきて、その打ち上げって訳」


「除霊!? じゃあ霊能者なの?」


 ぽっちゃりのその言葉で、急にカウンター側の空気が変わった気がした。 柊は、キキの時の武勇伝を饒舌に語って聞かせている。 ぽっちゃりの相槌と間が絶妙で、柊は気分良く話している。


「ちょっと……その話、詳しく聞かせて貰えないかな?」


 不意に、カウンターからポロシャツのおっさんが話しかけてくる。 


「ごめんね? この人、ちょっと飲み過ぎちゃったみたいで……」


 ママが慌てて謝罪し、おっさんを制止した。 すると、おっさんは無視するように、カウンターから立ち上がり、僕らのボックス席に寄ってきた。


「ちょっと、今困ってるんだ。 その……霊って奴? のせいで……」


 こうして、思いもかけないところから、開業後初めての仕事が舞い込んだのだった。

次回より、新章です。

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