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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
神《しん》の章

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チョロ村、墜つ。

「ほな、お疲れさんっちゅうことで……カンパーイ!」


 與座の上機嫌な音頭にあわせて、みんながグラスを掲げた。 今夜は“strawberry moon”を貸し切っての打ち上げだ。


 荒覇吐を退けた僕らはひと息ついたあと、本殿の外で待機していた人たち── 結界師チームと退魔部、そして與座から、熱烈な歓迎を受けた。


 安倍は退魔部に、本殿の清掃を指示していた。依代だった土偶の欠片を回収するためだ。 半壊した本殿の瓦礫は『山』の養成学校の生徒が片付けるらしいが、土偶の欠片だけは別扱いらしい。


 それも一段落した頃、安倍が「昼間から飲める店を押さえてある」と言って、笑顔で打ち上げに誘ってきた。


 ……その瞬間、柊弟の姿が見えなくなった。


 僕らも疲れていたし、しつこく誘ってくる安倍をいなして、そのまま帰ることにした。

 柊の「知らないおじさんと飲むのは、ちょっと……」という無慈悲なひと言が、安倍の心のHPをゴリゴリ削っていたのは間違いない。


 隼部隊の面々は断りきれず、連れて行かれる羽目になったようで、その恨みがましい視線は……しばらく忘れられそうにない。


「どうせ、あの店で打ち上げやるんやろ? 夜、今回の報酬持ってくから、俺も入れてや」


 相変わらずのエセ関西弁で笑う與座と別れ、なぜか当然のようについてくる山村と一緒に、地元へ帰ることになった。


「ってか、なんでついてくんだよ?」


「まぁまぁ、いいじゃないか。 代わりと言っちゃなんだけど、打ち上げの費用は全部持つよ? な? 問題ないだろ?」


 柊のボヤきに、山村が口の端をクイッと上げながら応える。


 そうとなれば話は早い。 店の名前を確認したあと、「ビジホ取ってくる」と言って姿を消した山村は、いつの間にか“strawberry moon”を貸し切り、ケータリング料理まで用意してのけたのだった。


 そうして、僕・柊・與座・山村による打ち上げが始まった。 ちなみに女性陣は、真由美ママに梓、そしてキキの三人だ。 報酬ゲットによる柊の上機嫌ぶりが、かわいい。


「でも、今回はかなり強い妖だったんでしょ?」


 今夜の大蔵大臣に狙いを定め、山村の隣にピタッと張りついている真由美ママが、一通り飲み食いが進んだ所で、さりげなく会話を振る。 ここからどうやって山村にボトルを入れさせるつもりなのか……見ものだ。


「せやで。 荒覇吐っちゅう神さんや。 ママさんなら、その名前くらい知ってるんちゃう?」


 ボトルキープに関しては信頼と実績のある、チョロ與座が会話に割って入る。


「もちろん、聞いたことはあるわ。 東北のほうの……確か、足にまつわる神様じゃなかった?」


 山村のグラスに酒を注ぎながら、にこやかに話すママ。 その何気ない仕草の一つひとつが、ボトル獲得のための洗練された動きなのだろう。


「せやせや、やっぱ知っとったか。 せやけど、ホンマは、足の神っちゅうより、反体制の神やねんけどな」


「……反体制の神? じゃあ、なんで足の神様で有名になってるのかしら?」


「それはやな。 ……なんでや? 山村先生」


 與座は、自分から割って入ったくせに、唐揚げに箸を伸ばしていた山村に話を振る。 そのまま、しれっと唐揚げに箸を伸ばす與座。


「ん? 俺? ……ま、いっか」


 皮肉っぽく笑って、口の端をクイッと上げた、山村が、グラスで口を湿らせた後、語り始める。


「当て字を使って、神の存在理由を変えようとしたのさ」


「当て字?」


 その言葉に反応する梓と、山村のグラスに酒を注ぐ真由美ママ。


「そう、元々はアラハバキって音だけだったのが、"荒脛巾"って当て字を付けられて、脛巾から足の神になったってことさ」


 山村が口の端をクイッとしながら話す。


「理由は簡単。 アラハバキが強過ぎたからさ。 アラハバキは、天皇、大和朝廷と敵対する『まつろわぬ者』達の神だからね」


 相槌を打ちながら、相変わらず、グラスに酒を追加する真由美ママ。


「主神は『山』で封印したけど、残りカスにさえ、想いは乗っていくからね。 怨念を忘れさせるため、無理矢理、別の意味を持たせようとしたのさ」


 それで、足の神?

 さすが、解説キャラ。 山村は、機嫌良さそうに語る。


「で、今回はその封印してた主神を、そちらの柊君が退治してくれたってわけさ」


 山村が話を締めて、グラスを煽る。


「さっずが柊君。 すごいね」


 梓が嬉しそうに柊を褒める。 『箱』の件以来、梓は柊を褒める事が多くなった気がする。 これは、ひょっとすると、ひょっとするのか?


「すごかったらしいやん。 依代の土偶を粉々に粉砕したゆうて、アベタクがえらい興奮しとったで」


「アラハバキの依代って土偶だったんだ……」


 真由美ママが残念そうに呟く。 その手元は相変わらずだ。


「なんや、ママさん。 えらい残念そうやん」


「アラハバキのイメージって、土偶でしょう? でも、それって古史古伝由来よね? 一部の人が本物扱いしてるアレ。 だから、なんか、依代が本当に土偶だったとすると、なんか……こう……後付けっぽいというか、なんというか……」


 腑に落ちないのよね、と呟く真由美ママ。


 ってか、さっきから、すごいペースで山村に酒を飲ませている気がする。 しかも、さりげなく……


「ま、実際、後付けだからね」


 再び、山村が意味ありげに発言する。 その顔は、すでに真っ赤だ。


「どういうこと?」


「毎年行われていた延厄式ってのは、術式を組み込んだ依代を交換して、封印を結び直す儀式だからね。 大方、前の担当者が世間のイメージに引っ張られて用意したんだろうさ」


 今、明かされる衝撃の真実。 そして、絶妙な相槌を入れながら、さり気なく酒を作り続ける真由美ママ。 さらには、話を促すように見せながら、自然に繰り出されるボディタッチ。 気分上々で語り続ける山村。 これは……


「『山』の文献で、一番古いのによれば、最初は木の枝だったらしい。 もともと"アラワバ"って神木を崇めていた人達が、その地を追われる際、枝だけ拝借して逃亡したのが始まりらしいぜ? "アラワバの木"、転じてアラハバキ……ってね」


「えらい詳しいやん」


「そりゃ、呪術部だからな。 あの部署は、『山』発足の頃からある古い部署だからな。 ま、もっとも当時は違う名前だったみたいだけどな」


 な……んだと?


 あの山村が"呪術部"を噛まない……だと? これが……酒の力……か。


 與座は自分で話を振ったくせに、山村の語りを全無視して、柊、梓と笑いながらくっちゃべっている。


 一方の真由美ママは、山村のグラスに酒を注ぎながら、淡々と“仕上げ”にかかっていた。 まるで熟練の釣り師のように……


「次も同じのでいいですかぁ? 他のボトルも選べるわよ」


 真由美ママが艶めかしく、山村の耳元で囁く。 もう……仕込みは、十分……ということですか……


「お、じゃあ……こいつ、入れちゃうか」


 この上なく上機嫌な山村が、真由美ママの差し出すメニューを指さす。


「モエ入りま~す」


 堕ちた……。 今、確かに……チョロ村が完成した。 真由美ママ……恐るべし……


「ふっ、面白いよな。 神の依代って、物とか人が多いんだぜ? そこの嬢ちゃんみたいな魄を依代にするんじゃなくて、……形のある人や物さ」


 そう言って、山村は、派手に開けられたシャンパンが注がれたグラスに口を付ける。


「皮肉なものさ。 神なんて形のないモノを信じるために、形ある人や物を介さなきゃいけない……、そこが人の弱さって奴だよな……」


 ナチュラルアオリスト──チョロ村が、スケールのデカイ煽りをカマしているが、すでに誰も聞いていない。 すべては真由美ママの掌の上だった。


 僕は戦慄を抱きながら、最後に残った唐揚げに箸を伸ばす。


 遠慮の塊は、率先して食べるのがマナーだよな、と。


 その時、小さな手がニュっと伸び、最後の一つを素手でかっさらっていった。


「お主らばかりズルかろう。 ()も1個いただくぞ」


 声のする方、僕のすぐ横には、どこから迷い込んで来たのか、小学校低学年くらいの美少女が立っていた。 その美少女は、妙に楽しげな雰囲気で唐揚げを口の中へと放り込んだ。

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