表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
神《しん》の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

162/191

美女と土偶

「そしてこれは……“真・柊丸”を壊された……俺のッ……怒りだぁぁぁああッ!」


「待て! 待つのじゃばらぁぁぁあッ!」


 荒覇吐の眷属……九頭と九尾を退け、元の世界に帰還した僕らを待っていたのは、予想を超えたカオスだった。


 蛙跳びアッパーを放つ柊。 放物線を描いて吹き飛ぶ絶世の美女。その口から漏れる、実に無様な叫び声。


 ……なんとも、ひどい絵面だった。


「……やべぇ奴だな……」


 コロボックル勇輝の気の抜けた声が、妙に響く。


「……信じらない。 あの邪神を殴り飛ばすとは……」


 イケおじ・安倍ですら、目を丸くしている。


 ん? 柊が……殴り飛ばした?


 視線を向けると、柊の両拳には煙のようなものがまとわりついていた。 それを見て、三善さんが語っていた“本来の煙の使い方”が脳裏をよぎる。


 ……攻撃に応用したのか。


 でも、それってつまり……手に攻撃されれば、ダメージも受けるってことじゃ?


 まったく余裕そうに見えるけど、内情はかなり追い込まれてるのかもしれない。


 よく見ると、弟君には無数の傷が走っていた。


 やはりこの戦い、並みの相手じゃない。


 柊も、土偶破壊の失敗、特殊警棒の損壊と、今日はいつもの余裕がまるでない。 さすが邪神、格が違う。 きっと、今のも派手にぶっ飛んでるけど、さっきみたいに、あまり効いてないのだろう。


 ……このままじゃ、勝てる気がしない。


 土偶……。


 …………煙。


 !


「柊! 煙とメガネ、外してっ!」


 僕の声に、二人の柊が同時に振り向いた。 ごめん、兄の方だけに言ったんだ……


「何が見える?」


「……土偶。 あ、浮いた。 不思議土偶だ」


 僕が指差した先……まさに起き上がろうとしていた荒覇吐を見て、霊感ゼロの男がぼそりと呟いた。


「その土偶、捕まえてっ!」


「お、おう……」


「なっ……!?」


 訝しげに眉をひそめながらも、指示に従う柊。 その行動に、荒覇吐が目を見開く。

 僕の目には、美女の身体に腕を突っ込んでいるようにしか見えないが……柊は、ただ土偶を掴んでいるだけなのだろう。


 柊はそのまま、美女の身体を抱き寄せた。 腕は深くめり込んだままだが……。


「離せっ! 無礼者!」


 ぎゃあぎゃあとわめきながら、抱き寄せられた荒覇吐が、腕をじたばたと振り回す。 しかし、そのすべてが柊の身体をすり抜けていく。


「やっぱり、ついてくるか……」


 座敷童子のトシキ(妖の章参照)は、依代から離れても動けるから、理論上は引き剥がすことも可能なはず。 ……でも、彼女はわざわざ自分の身体の中に依代を隠している。 きっと守っているつもりなんだろう。


「一ノ瀬君、と言ったよね。 何か策があるのかい?」


 どうしたものかと悩んでいたところに、イケオジ安倍が爽やかな声で割り込んできた。その歯が光っているような錯覚すら覚える。


「ええ。依代の土偶、物理ではなく霊的な力で叩いたらどうなるかと思いまして」


 僕は、柊の煙を纏った手で破壊工作を試せば、土偶を壊せるのではないかという仮説を伝えた。


「……なるほど。確かに依代を壊せれば、それが一番手っ取り早い。 だが、それを試すには荒覇吐と依代を引き離す必要があるね」


 安倍が顎に手を当てて思案する。


「よし、哲! 荒覇吐を閉じ込める結界、用意できるかい?」


「え!? あ、その……はい。 香を焚く時間さえもらえれば……」


「グッド! じゃあ、その時間はなんとかしよう。 京子、君は真空刃の符をふんだんに使ってくれ!」


「あ、はい! でも、せいぜい小傷がつくくらいですけど?」


「問題ない。 向こうが鬱陶しいと思えばそれで十分だ。 人成、君は『影麻呂』で荒覇吐の動きを一瞬でいい、止めてくれ!」


「やれやれ……わかりましたよ」


 天パの山村が、ポリポリと頭を掻きながら応じる。


「隼斗は、待機! できる限り体力の温存に務めてくれ」


「……わかった」


「勇輝、君は真言で皆にバフだ」


「……わかったよ」


「僕は前鬼と後鬼を使って、荒覇吐と依代を引き離す。一ノ瀬君、君は柊 鷹斗への指示を頼む。 荒覇吐と依代が離れた所で、こちらに呼び寄せるようにしてくれ」


 山村と隼部隊の面々にスラスラと指示を出すイケおじ。 副リーダー、山田だけ見事にスルーされている。 僕じゃなかったら、気付かなかったね。

 ひと通り命令を終えると、安倍は、懐から赤と青のヤッコさんを取り出した。


「もちろん、話は聞いてたよな?」


「ガハハ、今度は古の神かよ。 相変わらず主殿は無茶ばかり言いよる」


「前鬼よ、笑っておる場合ではないぞ。 今回は、かなり厄介やもしれぬ」


「ガハハ、もちろん承知の上よ。 後鬼よ、ともに気張ろうぞ」


 先ほどの異界と同様、筋骨隆々の赤鬼と、長身の青鬼が姿を現す。


「よし、始めよう。 まずは哲、勇輝、準備を頼む。 京子は真空刃だ」


「「「はい!」」」


 返事と同時に、岸壁の京子が左手から何枚もの符を取り出し、素早く丸めて投げ始める。 それと同時にコロボックル勇輝が印を結ぶ。


禡吃羅也(ばきらや) 莎訶(そばか)……禡吃羅也(ばきらや) 莎訶(そばか)……」


 勇輝の声が響くとともに、妙に身体が軽くなっていく。 これがバフの効果ってやつか……


「……ちっ」


 京子の放つ真空刃が荒覇吐の顔や体に小さな傷を刻む。 だが、それらはすぐに再生されていく。 煩わしいのか、柊に抱かれたまま、荒覇吐は鋭い爪を振るい、次々と符を切り裂いていった。


「今だ! 人成!」


 その叫びを合図に、しゃがんでいた山村が床に手をつく。すると、その影が荒覇吐へと伸び、巨大な黒い顎が出現し、柊ごと荒覇吐を飲み込んだ。


「前鬼! 後鬼!」


「ガハハハ、本当にすり抜けるのだな」


「まっこと、珍妙なり」


 赤鬼と青鬼が柊の背後から飛び出し、黒い顎に向かってダブルラリアットを叩き込む。


 黒顎が消滅した瞬間、柊の身体をすり抜けて飛び出してきた鬼二人の攻撃が荒覇吐に直撃。


「ぶっ……」


その攻撃は、土偶を置き去りにした荒覇吐を大きく吹き飛ばした。


「調子に……乗るでないっ!」


 荒覇吐の美貌が怒りに歪み、その叫びと同時に、赤鬼と青鬼をまとめて吹き飛ばす。 鬼二人は「ぐわぁああ」と声を上げながら落下し、消滅する。


「哲!」


「はぁっ!!」


 低く響くイケおじボイス。絶壁の哲が香煙を操り、荒覇吐の身体にまとわりつかせる。まるで、柊の煙のような、呪を孕んだ香。


 ……今だ!


「柊! 土偶を持って、こっちへ!」


「……逃がさぬわっ!」


 荒覇吐は香の煙を瞬時に蹴散らすと、鬼の形相で、駆け出す柊を猛追してきた。


「ダメか……」


 怒涛の連携攻撃が潰され、仲間たちの顔に焦りがにじんだ。


「む……」


  諦めの色が場を支配しかけた、その瞬間、荒覇吐の身体を再び、白い煙が飲み込んでいった。


「さっきは一撃だったからな。 今回は三重の網を張ってやった。 多少は持つはずだぜ」


 いつの間にか現れた柊が、煙管をくゆらせながら僕の前に立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ