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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
閑話

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髪を切る日

「普通、そこはストラテジーショットでしょ?」


「いやいや、まだ雑魚が残ってんじゃん?」


 夏の昼下がり、僕と臨太郎、そして柊の三人はモンストに興じていた。 場所は何故か修蓮さんの自宅である。 何故に、修蓮さんの家なのか? 理由なら簡単だ。 そこに修蓮さんの家があるから……。

 いや、本当は巫女の見た目をなんとかするためだ。


 ……どう言う事か?


 そう、一連の騒動の後、消えたと思っていた少女は、やはり僕に憑いていたのだ。 家に戻って、久しぶりに我が家のお風呂に入り、パンツ一丁で脱衣所から出たところ、あの少女がベッドの上で正座していたのだ。 誰もいないと思っている時に、人がいたという恐怖……。 想像できるだろうか? しかも、額に貼られたA4用紙にボロ布の服と正座。 まさに、いじめられっ子スタイルだ。 心臓が口から飛び出すというのは、こういう時に使うのだろう。 憑くなら憑けばいいとは思ったが、できればいきなりはやめてほしかった。


 害はないよ?


 害はないんだけど……。 その見た目のインパクトは、なんとかしてほしい。


 その日は、少女が傍にいる状態で寝る事となった。 眠りに着けるか心配だったが、疲れてたせいか、いつの間にか寝ていた。 その日は、自分は図太い神経なのだと認識できた日になった。


 そういう訳で、翌日、つまり今日、柊にお金を払うために再会し、お洒落なお札に変えて欲しい旨を伝えたところ、服装も何とかした方がいいんじゃね? と、今日もアロハを着ている柊に提案されたのだ。 まずは、お前のデーハーなアロハも何とかしろよ、と思ったが黙っておいた。 そのまま、臨太郎を誘って修蓮さんのところに相談に来たのだった。 臨太郎は、少女の姿が見えないらしいが興味津々の様子だった。 今では落ち着いているが、合流した当時は、「ここにいるの? ねぇ、ここにるの?」と五月蝿かった。


 修蓮さんに謝礼金も渡したかったし、ちょうど良かった。 修蓮さんには、気持ちとして10万円ほど包ませてもらった。 柊へ支払った30万円と合わせて、僕の口座はスッカラカンになった。 残念ながら、修蓮さんは仏間で除霊の仕事という事で、謝礼金は和泉さんに渡した。 修蓮さんを待つ間、案内された和室でゴロゴロしながら三人でモンストに興じ始めて、今に至る。 ちなみに少女は、部屋の隅で正座している。 足を崩せばいいのに……。


 まぁ、今日は三人とも、いや少女も入れて四人で、修蓮さんの家に泊まる事になっているので、気分はプチ修学旅行のようだ。


 夜になって、和泉さんが夕食の準備が出来たと、和室のテーブルに色々な料理を運んでくれた。 修蓮さんと和泉さんの分を入れた五人分の料理と、お供えのように配置された料理と線香。 和泉さんが言うには、お供えの形にすれば、少女も味わう事が出来るはずだという事だった。


 配膳が終わったところで、除霊を終えてお客さんを送り出した修蓮さんが笑顔でやってきた。


「さ、まずは夕食をいただいちゃいましょ?」


 修蓮さんの言葉をきっかけに夕食が始まった。 お酒も運ばれて宴会のようになった。 和泉さんは、あっという間に酔っ払い、除霊についての愚痴を呪詛のように柊にぶつけている。 助けを求める柊の目が、チワワのようにうるうるしているが、敢えて無視する。


「ごめんなさいね。 真ちゃんね、色々溜まってるのよ。 よかったわ、それを吐き出せる相手が出来て……」


 修蓮さんが、コロコロと笑う。 うん、やっぱりチャーミー婆ちゃんだ。 少女の方を見ると、ちびちびと料理を楽しんでいるようだ。 なんかホッコリした気持ちになってくる。 A4用紙のせいで表情は見えないが……。

 ちなみに、「ねぇ食べてるの? ねぇ今食べてるの?」と臨太郎が五月蝿い。 確かに少女が食べてるように見えるのに、量が減ってないように見える。 ……不思議な感じだ。 修蓮さんの話では、こうして霊などが食した後のお供え物を食べると味がかなり薄くなっているという。


「とりあえず普通に考えて、服装はお焚き上げをすればいいと思うのよねぇ。 でも、霊に服を渡すなんて……、長年、こういう仕事してるけど、初めてね。 長生きはしてみるもんね。 ワクワクしちゃう」


 修蓮さんが、まるで少女に戻ったかのように、笑って見せた。 柊は、和泉さんに肩まで組まれ、愚痴物語を聞かされているようだった。 げっそりした顔で、こちらを見てくる柊。 僕と臨太郎は、敢えて無視した。


 こうして、夜は更けていったのだった。


 翌日、修蓮さんが用意してくれたお札は、黄色い地に赤い文字で、ぐにゃぐにゃっ、えいっ! っといった感じのカッコいいお札だった。 その札の裏に柊による『さわりません!』が書かれた。

 その後、お焚き上げ予定の服を見て若干引いた。

 メイド服だったからだ。 そこは普通、巫女さんの服やろっ!? 思わず、エセ関西弁で突っ込みたくなる。 ……まぁ、良しとしよう。 これはこれでアリだと思うから……。


「……やっぱり、そのボサボサの髪もよくないわねぇ」


 いざ、お焚き上げという所で、修蓮さんが腕を組みながら呟く。 切ってあげたいけど、通る(はさみ)がないのだと……。


「なら、俺の煙管の煙を鋏に纏わせれば、切れるかも……。 俺はそいつに触れないから、別の人がやる必要があるけど……」


 なんとなく、柊の言葉に違和感を覚える。


「あら? じゃ、私が切るわ。 こう見えても、昔は真ちゃんの髪とか切ってたんだから」


 違和感の正体について考える前に修蓮さんの言葉に意識を持っていかれる。 霊、いや鬼か? 鬼の髪を切るって……。 失敗したら伸びるまで待つとかできるのか?


 A4用紙を一時的に背中に貼り付ける。 このお札は、少女が自分で取る事はできないが、他の人なら簡単に取れるらしい。 だが、お札を取ると、かなり強い瘴気が漏れるため、要注意だという話だった。 そんなこんなで修蓮さんが髪を切り始める。 煙管の煙を纏った鋏なら霊の髪も切れるようだ。 どういう仕組みなんだろう? 修蓮さんは、髪だいぶ痛んでるわねぇとか、いろいろ話し掛けているが、全て無視されている。

 時々、少女が質問に反応して、首を振ろうとしたり、頷こうとするが、その度に、「動かないで!」と修蓮さんに注意されている。 すべてあんたのせいだろ!? と突っ込みたくなる。


 髪を切り終わった少女を見て、僕も柊も言葉を失くす。 全体的に短く揃えられた黒い髪。 少し長めの前髪から覗く目は猫のように大きく、高過ぎず低過ぎない綺麗な形の鼻、白い肌の中で静かに自己主張する薄っすら紅色に染まった小さめの口、そして官能的な少し厚めの唇。 はっきり言って美少女だ。 修蓮さんのやり切った感がウザい。

 柊が無言で、黄色いお札を貼る。 お札によって、鼻筋などは見えなくなるが、ミステリアスな雰囲気がプラスされ、ますます目が離せなくなる。


 その後、メイド服や靴のセットをお焚き上げすると、まるでどこかのアニメから抜け出たんじゃないかと思うくらいの美少女メイド(お札付き)が爆誕した。


 そう、爆誕という言葉がしっくりするくらいのインパクトだ。 ……亀甲縛りも悪くなかったが、これもいい! 少女も嬉しそうに、その場でクルクルしながら、メイド服のスカートが舞い上がるのを笑いながら見ている。


 臨太郎が、「どうなったの? ねぇ、どうなったの?」と五月蝿いが、僕は少女に見惚れるのに忙しくて相手が出来ない。 いい加減、黙れモブ臨! 柊がいつの間にかメガネを外し、僕の耳元で囁く。


「……惚れるなよ? 所詮は妖だからな」


 わかっている。 ああ、わかっているとも……。 しかし、彼女が僕に憑いているという事は……。 これからの生活を想像して、思わずニヤけてしまう。 ムフフ、こりゃなんてラッキーなんだろう。


 ふと思い至る。 あれ? この子、名前なんて言うんだろう?


 まがりなりにも、一緒に暮らす訳だ。 いくら向こうが喋れなかったとしても、こちらからの質問に首肯などはできる。 そうなると、こちらからいろいろと聞く場面もあるだろう。 その時に呼び名が少女や巫女では、締まりが悪過ぎる。


「……君、名前なんて言うの?」


 相手は喋れないのだ。 こんな事聞いても、困ってしまうのは明白なのだが、思わず聞いてしまった。


 フルフル。 少女は首を振る。


「……名前教えたくないの?」


 フルフル。


「……名前、覚えてないの?」


 ……コクリ。


 どうやら、名前を覚えてないらしい。 さて、どうしよう? 巫女さんとか呼ぼうか? でも、メイド服だしなぁ……。


「航ちゃんが付けてあげたら? ……名前」


 修蓮さんが、提案してくる。


「なんなら、俺が付けてやろうか?」


 フルフル。


 柊の質問に少女が首を振る。 まぁ、柊メガネの件から、彼にネーミングセンスがないのは明白だ。 少女の反応も頷けるというものだ。


「俺が付けていいの?」


 コクリ。


 僕の質問に少女が頷く。 さて、困った……。 僕もネーミングセンスに自信がある方ではないのだ。


「じゃあ、ギギギって笑うから、『ギギ』は?」


 フルフル。 首を振って遺憾の意を表してくる。


 まぁ、そりゃそうか。


「じゃあ、『キキ』は?」


 ……コクリ。


 しばらく考えた後、少女が頷く。 頷いた後、眩しい笑顔で踊り始めた。 名前を付けて貰ったのが、余程嬉しかったのだろう。 臨太郎以外の人間が微笑みながら、その光景を見ている中、僕は少し罪悪感の混じった気持ちで、それを見ていた。


 ……ごめん。 それ……、昔、実家で飼ってた猫の名前なんだ……。

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