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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
神《しん》の章

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招かれざる客

 柊と一ノ瀬が、除厄式へと挑んでいる頃、壱与は正門から本殿へと続く石畳の上に立っていた。


 壱与が、懸念していたのは、『外部からの侵入者』に対してであった。


 当初は、結界師チームのリーダーである吉川に、外部からの侵入者にも気をつけるよう指示を出そうと思っていたのだが、結局、考え直し、自分自身で見張る事にしたのだ。


 杞憂であるなら、それで良し。


 そんな気持ちでいた壱与であったが、除厄式が開始されたであろう時間から、数刻経った頃、正門にひょっこり現れた男の姿を見て、ため息を吐いた。


 地味な作務衣のような服装の、その初老の男は、正門で守衛となにやら話した後、なんのお咎めもなく、平然とした態度で、本殿へと歩みを進めていた。


「おはようございます。 失礼ですが、どなたかとお約束でも?」


 壱与は、近付いてくる男に声を掛ける。


「ん? あぁ、ちょっと、延厄式に呼ばれてね。 おたくの……え~っと、どっかの部の部長さん……だったかな?」


 初老の男は、肩を竦めながら、年齢に似合わぬ軽い調子で返してくる。


「それは、おかしな話ですね。 本日、延厄式などというイベントは執り行われておりませんが? 守衛にも、そうお答えになったので?」


「もちろん。 彼らは快く通してくれたけどね。 ……どうやら、なにか行き違いがあったようだね?」


「行き違い? そんなものある訳ないでしょう。 ……彼らに何をしたの?」


 壱与は、初老の男の言葉を、スッパリと切り捨てる。


「……やれやれ。 わかってて小芝居を続けるなんて、意地悪だなぁ。 てっきり、バレてないかと思って、合わせてた私が馬鹿みたいじゃないか?」


「……彼らに何をしたのか聞いています」


「わかってる……。 そう慌てなさんなって。 彼らには少し眠ってもらってるだけさ。 君は……その喋り方からすると、……壱与……かな?」


 壱与は、その言葉に目を丸くする。


「……驚きました。 誰かしら寄越すかもしれないとは思っていましたが、まさか、持衰(じさい)、自らがやってくるとは……」


「名も無き持衰……か。 随分と懐かしい呼び名だね。 未だに、そんな呼び方してくるのは、君ぐらいのもんだよ。 卑弥呼だって、もうそんな風には呼ばないっていうのに……。 あ、ちなみに今は、ラ・ムー美樹本って名前で活動してるから、君もそう呼んでくれるとわかりやすいかな?」


「…………」


 あくまで軽い調子で話すラ・ムー美樹本の言葉に、壱与は無言により、否定の意志を示す。 ラ・ムー美樹本は、再び肩を竦めると、やれやれと口を開いた。


「……相変わらず、壱与は固いなぁ。 それに、誰かを寄越すかもしれないだって? 私に仲間はいないよ。 今までも、ずっと一人でやってきたんだ。 これからもずっと一人でやっていくさ。 ……それくらい知ってるだろ?」


「『巨魚(フート)虜囚(りょしゅう)』……。 あなたは、今までも、仲間はいないなどと嘯きながら、洗脳した仲間を使ってきたではありませんか?」


「……『巨魚(フート)虜囚(りょしゅう)』ね……。 嫌な呼び名だ……。 それじゃ、私が巨魚(フート)に囚われているみたいじゃないか……」


「覆水盆に返らず。 すでに散った巨魚は、二度と元には戻らない。 ……にも関わらず、巨魚(フート)の復活を目論むあなたは、虜囚以外の何者でもないでしょう」


 その言葉に、一瞬、ラ・ムー美樹本の目が細められる。 が、すぐに調子を戻したかのように、ヘラっと表情を崩す。


「……そんなのやってみないとわからないじゃないか? だから、……な? ……もう邪魔すんなよ」


 まるで子供を諭すように、声を紡ぐラ・ムー美樹本。


「……笑止。 そんなやり取りは、それこそ、何十年、何百年と続けてきたでしょう。 あなたこそ、もう諦めなさい」


 ラ・ムー美樹本は、壱与の言葉に苦笑する。


「……確かに、このやり取りも飽きたな……。 ま、でも、……仲間はいないってのは本当だよ。 彼らは、仲間じゃなくて、ただの駒だからね。 君だって、ただの駒を仲間だなんで呼ばないだろ? そういう事さ。 ……ところでさ、……悪いんだけど、そこを退いてくれないかな? そこの寺に用があるんだけど」


「そんな事を言われて、素直に通す訳がないでしょう! それに、いつもは延厄式なんて放置してる癖に、わざわざ、何しに来たと言うの?」


 悪びれずに自分の要求だけを述べるラ・ムー美樹本に壱与の口調が強まる。


「うん? いやぁ、それがさ。今年に限って、視えなかったんだよね。 延厄式の未来が……。 だから、なにか企んでるんじゃないか……と思ってね。 杞憂なら、それで良し……なんだけどね。 ……と、まぁ、そんな訳だからさ。 ……退いてくんない?」


「何度も言わせないで……。 そんな事言われて、わかりました、はい、どうぞ、なんて言う訳ないでしょう!?」


「ま、そらそうだよね。 うん。 まぁ、わかるよ。 その気持ち……も、その立場も……ね。 でも……さ、……卑弥呼もいないこの状況で……、たったの一人で、私に勝てると思ってるのかい? もし、本気でそう思ってるってんなら、教えてあげないと……、それが幻想だってことを……」


 その瞬間に、壱与は、ラ・ムー美樹本の雰囲気が変わるのを感じた。 瞬間、壱与が動く。 素早く屈むと、石畳に手を付ける。 その動きに呼応するかのように、ボコリと数枚の石畳が浮かび上がる。


 壱与が、逆の手をラ・ムー美樹本に向けた瞬間、浮かび上がった石畳が、一斉にラ・ムー美樹本へと飛んでいく。


 ゴシャッ。


 巨大な石がぶつかり合う音が響く。


「……strange()ness()


 いつの間にか、ぶつかり合った石畳のすぐ横に移動していた、ラ・ムー美樹本が、これまたいつの間にか手にしていた黒い本のページを捲りながら、興味なさげにボソリと呟いた。


 ズ ズ ズ


 その瞬間、ラ・ムー美樹本の背後に、背の高い黒い影が現れる。 その、ヒョロリとしたノッポの黒い影は、ラ・ムー美樹本の背後でユラユラと揺れている。


 まずい!


 壱与が、ラ・ムー美樹本が喚び出した妖を見て、素早く対処しようと、スーツのポケットに入れてある符に手を伸ばす。


 ボンッ!


 壱与が、手をポケットに入れようとした瞬間、突然、ポケットの中で爆発が起き、その爆発の威力でスーツが破れ、細い壱与の身体も吹き飛んだ。


「ぐっ……!」


「おやおや、スーツのポケットに起爆符でも仕舞っていたのかな? 運が悪かったね。 いきなり暴発してしまうなんて……。 起点のコーティングが甘い不良品でも混じってたのか? ダメじゃないか、そんなB級品なんて使ってちゃ……」


 起爆符の暴発で吹き飛び、血塗れになった壱与は、煽るように話しかけてくるラ・ムー美樹本を無視して、どうにか立ち上がると、右手をラ・ムー美樹本に向かって翳す。 そのままラ・ムー美樹本を睨みながら、翳した血塗れの手を握ると、ダラりと立っていたラ・ムー美樹本の身体が急に強ばり、少しずつ浮き上がり始める。


「なるほど。 ……で、それからどうするつもりだい? さらに持ち上げて、一気に落とすつもりなのかい? それとも……そっちの建物の壁にぶつけてみるかい?」


 壱与の神通力で、身体の自由を奪われ、浮かび上がっているラ・ムー美樹本は、そんな状況にも関わらず、慌てることなく、そんな事を口にする。


 ズキッ


 不意に、吹き飛んだ際に怪我をした額が痛み、そこから流れる血が目に入る。


「くっ……!」


「……おいおい……集中が……乱れてるぞ?」


 壱与に出来た隙を突き、黒い影の足元が地面と同化し、壱与に向かって黒い影が真っ直ぐに伸びる。


 ズ オ


 それを見た壱与は、素早く、その場を離れようとするが、踏み込んだ足がズルりと滑り、体勢を崩す。 そして、そこにラ・ムー美樹本の方から伸びてきた黒い影が直撃してしまう。


「ガハッ!」


 再び、宙に舞う壱与の身体。


「……運が悪かったね。 こんな大事な時に足が滑るなんて……。 ……今ので、両足が抉れてしまったかな? ……もう逃げるのも難しいんじゃないかな? いやぁ、こんな事もあるんだねぇ。 まったくもって……運が悪い」


 壱与の神通力から解放されたラ・ムー美樹本が、作務衣の襟元を正しながら、壱与へと近付く。


 ザッザッザッ


 その時、壱与の耳に、誰かが宿舎の方からこちらへ歩いてくる足音が聞こえた。

持衰

古代中国における航海時の人柱の名称。

奴隷や罪人などを使った願掛けで、

無事に航海がおわれば、褒美を与えて釈放されるが、

航海中に疫病が発生するなど、トラブルが起きたら、

処刑される、という人柱の一種。

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