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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
神《しん》の章

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安倍の闘い

 ちょっ! マジか!?


 アベタクこと、安倍 拓海は内心焦りまくっていた。


 せっかく、戦いは隼斗に押し付けようと考えていたというのに、その肝心の隼斗が突然消えたのだから、仕方ない。


 一瞬の出来事だった。


 ヤマタノオロチのような大蛇……九頭(くず)と呼ばれた妖の攻撃を自慢の霊刀で防いでいる間に、起きた出来事だった。


 近くにいたはずの隼斗は消え失せ、安倍はというと、いつの間にか真っ白な世界に投げ出されていたのだ。 おそらくは、山村の術によるものであろう事は理解できた。 過去にも、妖との戦いの最中に、山村により、同じような白い異界に連れて来られた事があったから……


 ってか、ヤマタノオロチって、かのスサノオノミコトでも、酒を使って寝込みを襲わなきゃいけなかったくらいの奴じゃね? しかも、頭一つ多いし……。 いくら、蛇が眷属だからって、……これ……流石に反則じゃね?


 安倍は、グダグダと考えながらも、九頭に注意を払いつつ周囲を確認する。


 少し離れた所に隼部隊の面々が、自分とは逆に頭ではなく、尻尾の多い妖、九尾(くび)と対峙しているのが見えた。 後方には、山村と柊兄のアシスタント、そして、メイド姿の陰が見えた。


 どうやら、柊兄弟以外のメンツが異界に連れてこられたらしい。


 マジか? あの天パ大王(山村)……。 僕から隼斗を奪うなんて、一体全体、なんの恨みがあるってんだよぉ


 心の中で毒づきながら、九頭の攻撃を符や折り紙を使って軽くいなす安倍。


 にしても……


 そう思いながら、安倍は隼部隊の面々を見る。 九尾(くび)から無様に逃げ惑っている姿が見えた。


 隼部隊のメンツは、実力的には、山村や隼斗よりも数段劣る。 だが、それは経験が浅い事に由来する問題であった。 個々の能力を考えたら、それなりなのだが、肝心な所で隼斗に頼ってしまう所があり、どうもパッとしない。 安倍としては、彼らが古代の神と対峙する事で、一皮剥けるだろうと考え、配員したのだが、どうやら荒覇吐の瘴気に当てられ、心が折れているようだった。


 実際、九尾は隼部隊の格上にあたる。 だが、決して太刀打ち出来ないレベルではないはずなのだ……四人で力を合わせれば……。 にも関わらず、無様に逃げ惑う面々。 その様を見て、安倍の心に不安が芽生える。


 命の懸かった場面で心が折れるというのは、まさに致命的な事であったし、安倍はその事を嫌という程、見てきたのだから……。 実力さえ発揮できれば、勝てたかもしれないはずの法師達が、心を折られ、簡単に命を落としていくの散々、見てきたのだから……


 そんな事を考えながら、安倍はチラリと後方の山村を見る。


 ……めんどくせぇなぁ。 ……あいつがなんとかしてくんないかな? でも……確か、あの天パ大王の奴……何故か僕には厳しい癖に、あいつらには激甘だったはず……。 ……うん、きっと、なんとかしてくれるに違いない! ……ってか、なんとかしろよな!


 安倍は、そう結論付けて、気持ちを切り替える。


 ……とりま、なるはやでコイツをやっつけて、あいつらのフォローする方向で……


 安倍は、そう考えながら、九頭の牙を抑えていた霊刀を軽やかに弾く。 その勢いで弾かれた九頭の首一瞬で斬り落とすと、バックステップで距離を取りながら、懐から二つの折り紙を取り出した。 赤いヤッコさんと青いヤッコさんだった。


 切り落とされた九頭の首の切断面は、フツフツと赤く泡立ったかと思うと、一瞬で新しい頭が再生された。


 ……ですよねぇ。


 心の中で力なく呟く安倍。 そこに驚きはない。 何故なら、蛇は生命力の象徴であり、蛇の妖は核となる部分を叩かない限り、十中八九、再生すると知っていたからだ。


「……出番だぞ」


 ギャラリーが少ないため、いまいちやる気が出ない気持ちをグッと堪えながら、安倍が呟く。 その言葉が紡がれると同時に、二つのヤッコさんは、ムクムクと受肉を始める。 そして、赤いヤッコさんは、角を二本携えた、短身で筋骨隆々の赤鬼、前鬼(ぜんき)となり、青いヤッコさんは、額に長めの角を一本携えた、長身痩せ型の青鬼、後鬼(ごき)へと変化する。


「ガハハハ、久々に喚び出されたかと思えば、とんでもない事になっておるのう。 ガハハハ」


「前鬼よ、主殿(あるじどの)が、我らを喚び出す時というのは、こういう場面の方が多かろう。 いい加減、学習せよ」


「ガハハハ、違いない!」


「……にしても、……異界……であるか……。 なかなか緻密に組み上げられたものよ……。 ここなら、多少、暴れても問題はあるまいて……」


「ガハハハ、どうせまた、山村んとこの子伜(こせがれ)の仕業じゃろうて。 ガハハハ」


「……今回の相手は、……多頭(たとう)大蛇(おろち)であるか……。 これまた、面倒な……」


 豪快に笑う前鬼に、冷静に状況を分析する後鬼。


「わかってるとは思うけど、一応……ね。 そいつ首を斬っても再生するから……」


「で、あろうな。 蛇妖(じゃよう)の特性は、心得ておる」


「まぁ、いつものように我と後鬼とで大暴れして、主殿がとどめで問題なかろう。 ガハハハ」


 安倍の言葉に、それぞれ答える鬼達。 その返答を聞き、安倍は小さく息を吐く。


「じゃ、そんな感じで」


 ヒラヒラと手を振りながら、呟く安倍の言葉に、おう、と答える鬼達は素早く散開する。 襲いかかる大蛇の頭をヒラリヒラリと避けながら、前鬼はその剛腕を振るい、後鬼は長く延ばした爪を使って、首を落とし始める。


 フツフツ


 落とされた首の切断面は、尽く赤い泡を立てながら、再生されていく。


 ガハハハ


 フンッ


 首が再生するのを、まったく気にしないかのように鬼達は踊るように首を落とす。 その余波で、飛んでくる大蛇の頭を、安倍は刀や体術を駆使しつつ回避する。


 当たらなければ、どうということはない……なんてね


 そんな事を考えながら、注意深く九頭の観察を続ける安倍。 鬼達が稼ぐ、決して短くない時間を掛けた観察の後、安倍は気付く。


 頭が再生される度に、九頭の尾の付け根が、ほんのわずかに赤く明滅することに……。


 式神の多彩さが目立つ安倍であったが、その真価は観察眼にあった。 絶え間なく、関連性のない事を考え続ける安倍の脳内で、一見、無関係に思われる事も含めて組み立てられる、事象の理解。 それこそが安倍を最強たらしめる要素であった。


 ……首の付け根あたりかと思ったが、そっちだったか……残念。


 九頭の核が、尾の付け根だと当たりをつけた安倍は、暴れる鬼達に気を取られている九頭の傍らを堂々と進み尾まで辿り着く。


 シュピン


 安倍が霊刀を一閃させると、綺麗に切断される九頭の尾。 斬り落とされた尾は、黒い煙のようなものになり、消えていった。 安倍は、切断面が赤く泡立つ事もなく、尾が再生される気配もない事を確認すると、気だるげに声を発した。


「……終わったよ。 後は頼んだ」


 尾を斬られた事で激しくのたうつ巨大な胴体と九本の首。 その首の隙間を飛び回る鬼達に向けての言葉だった。


 さて……、あとは鬼達が適当にやってくれるっしょ。 面倒だけど、あいつらの面倒を見ないとな……


 安倍は、溜息を吐きながら首を鳴らすと、隼部隊の方へ足を向けた。

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