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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
陰《おん》の章

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軌跡の果て

「まぁ、今回は勉強代だな。 で、航輝、こいつどうする?」


 柊が、無理矢理自分に言い聞かせるように呟いて、話が少女の処遇の話になった。 どうするもこうするも僕にはどうすればいいか、よくわからないのだ。 正直言って、與座の話を聞いたせいで、僕の中で、少女が100%悪いと言い切れなくなってしまっているのだ。 助けようとした人々に裏切られて、暗闇の中で朽ち果てていった少女。 できれば穏便に済ませたい気持ちが強くなっていた。


「どういう……選択肢がありますか?」


「一つ、このまま滅する。 二つ、放置……くらいだな」


「……放置?」


「そ、もう悪さできないように、この紙は貼ったまんまにするけど、煙は解いてやって放置」


 そう言って、『さわりません』の紙を指差す柊。 それが貼ってあれば、障らないし、触らないので、放置しても誰かが被害に遭う事はないとの事だった。 ただし……と、柊は続ける。


「航輝に憑く可能性は、かなり高いけどな?」


 思わず、修蓮さんの方を見る。 とても優しい目で僕を真っ直ぐに見詰めてくる。


「航ちゃんの好きにしたらいいわ」


 正直、このまま彼女を滅したくなかった。 エゴと言われるかもしれない。 倒せる時に倒さないとまた犠牲者が出るかもしれない。 でも……、それでも僕は、このまま彼女が消えてしまう事を良しとできなかった。 もし、僕に憑くというなら、憑けばいい。 だって、元々僕が浅はかな気持ちでしてしまった事が原因なのだから……。 仮に彼女が滅される事を望んだとしても、別に今じゃなくてもいい。 消えるのは、人に害を与えない状態で、今の世の中を見て回った後でも遅くない、そう思った。 ……願わくば、彼女の今後が明るいものであればいい、と思いながら柊に放置する選択を伝えた。


 じゃ、と言いながら、柊が喫煙可かどうかも確認しないで、煙管の煙を少女に吹きかけた。 すると、今まで彼女を縛っていた煙が、新たに吹きかけられた煙に混じり、霧散していった。


 煙から解放された彼女は、ヨタヨタと立ち上がり、僕の方を見て、ペコリと頭を下げた。


「君の住処で、変な事しちゃってごめんね」


 僕が謝ると、彼女はふるふると首を振る。 あれ? この娘、喋れたよね? 不思議に思っていると、札のせいで普通の霊以下まで能力が落ちているから、喋れないんだろう、と柊が補足してくれた。 A4用紙で顔が隠されているため、どんな表情をしているかはわからないが、少女は、もう一度僕に向かってペコリと礼をして……、そして、スゥッと消えていった。


 全てが終わったのだ……。


 僕は、修蓮さんの方を向く。


「いろいろ、ありがとうございました。 お礼は必ずします」


 頭を下げた。 修蓮さんと初めて会った日に報酬は、気持ちでいいと言われていたが、できるだけの誠意を見せたいと思った。


「いいのよぉ。 また、いつでも遊びに来てね」


 修蓮さんが、笑顔で言ってくれる。 その後、ところで……と、柊に話し掛ける。


「航ちゃんから、30万円の報酬を貰うみたいだけど……、税金とかはどうするの? ちゃんと考えてる?」


「え!? 税金? え!? いるの? 全部、俺のもんじゃないの?」


 柊が、素っ頓狂な声を上げる。 霊能者と言えども、納税の義務があるのだと修蓮さんが優しく伝えている。 あわあわと聞いている柊が、なんだか哀れに見えてくる。

 ちなみに修蓮さんのところは、宗教法人になっており、除霊などは非収益事業として扱ってはいるが、毎回、謝礼の記録を取り年間一定額以上になる場合は、税務署に損益計算書等を提出していると言う。 正直、何を言っているのかわからない。


 合同会社や探偵事務所という手もあるが、個人事業主として、税務署に開業届を出すのが一番手っ取り早いと修蓮さんは続けた。 その辺の手続きがちゃんと出来れば、修蓮さんのとこから仕事を斡旋するのも可能という事だった。


 柊の頭から煙が出ているような幻が見える。


「……航輝! お前、今大学生だったよな? なんか起業? とかしてる奴とか周りにいるんじゃね? お前、500万円取られるところが、30万円で済んだんだから、手伝えよ。 ってか手伝って下さい。 マジで……」


 涙目で頼まれた。


 思わず笑ってしまう。 臨太郎と一緒に柊の起業を手伝ってやろう。 きっと、しばらく退屈しないで済むだろう。 僕は、仕方ないなぁと上から目線で、引き受ける事にした。


 こうして僕は柊と出会い、『心霊スポットで降霊術をやってみた』に端を発した一連の事件に幕を下ろしたのだった。


 ◇  ◇  ◇


「和泉のおっちゃん、ほんまありがとぉな」


 田舎町の喫茶店の駐車場で、黒いワンボックスの運転席に座っている和泉に與座が話し掛ける。 相変わらず、渋い顔をした和泉を見て與座が溜息を吐く。


「和泉のおっちゃんが、小っさい頃から『山』も変わっとんねんで? せやから、そんな怖い顔せんとって」


 少なくとも、自分は昔の『山』のような高額をふっかけるような事はしていない、そう與座は考えていた。 今回も、500万円という『山』からしたら、かなり良心的な価格で引き受けようとしたくらいだ。 まぁ、確実に営業部長には怒られるだろうが……。

 與座は、旧八又トンネルを視た時から、今回の依頼人にかなりの興味を持っていた。 そのため、即金でもないし、今の『山』からしてもありえないくらいの値引きをしてでも、依頼を受けたかったのだ。 修蓮からは、何度か除霊を相談される間柄だったが、ここまで出血大サービスを施したのは、今回が初めてだった。


 理由は一つ、依頼人が巫女に見込まれたからだ。


 話ではさらっと終わらせたが、『八又九尾』はとんでもない妖だった。 それこそ、『山』で言うところの国滅級の妖だ。 土着神として、洪水と疫病を操り、人の念の中でも自然現象に対する『畏怖』を瘴気として纏った大妖だったのだ。

 その大妖に一人で打ち勝った巫女。 『山』の法師達の中で比べても、それこそ最強クラスの法師じゃないと出来ない芸当だ。 実際に対峙してみると、それはよくわかった。 符が取れて、自由になったばかりだったからか、巫女は肉弾戦に拘っていたようだった。 もしあれに霊力を使った攻撃が加わっていたとしたら、おそらく自分は瞬殺だっただろう。


 そんな強い能力を持った巫女が『一筋の光』と表現した依頼人。 パッと見、凡庸に見える依頼人。 その依頼人に対して巫女が執着したのだ。 何かあると思って然るべきだと、與座は考えていた。


 結局、依頼人がお札を取る未来が見えたため、『光』と表現したような節があった。 ……が、本当にそうだったのだろうか? ひょっとしたら、あの柊という男の元へ導く存在だったから……。 あるいは……。


「……考え過ぎやろか?」


 一人、苦笑しながら車を降りる。


「ほな、達者でな」


 返事もしないで、そのまま車を切り返して、帰ろうとする和泉を見送ると、自分のバイクに向かう。


「柊 鷹斗……か」


 思わず呟いてしまう。 今日は、本当に面白いものが見れた……と。 まぁ、その代償として、左耳の損失はちょっと大き過ぎる気もするが……。 そう思う與座の脳裏に一人の法師が()ぎる。 同じ、柊という姓の男だ。


「うちの柊も大概やが、こっちの柊も大概やったな」


 もし、今日会った柊が、自分の思っている通りの男だとしたら、また会う事もあるかもしれない。 いや『民間』で、あれだけの能力を持っていたら、近いうちに『山』と衝突する日もあるかもしれない。


 そこまで考えて、與座は首を振って思考を振り払い、愛車である大型バイクのXV1900Aミッドナイトスターに跨る。 このミッドナイトスターの個性的なビジュアルは、與座の自慢だった。 ドッドッドっと心地よいエンジン音が響く。


「……ま、なるようになるやろ」


 誰に言うでもなくそう呟き、ヘルメットを被り、軽快にミッドナイトスターを走らせた。 



 おんの章  完

第1章完です。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

閑話を挟んで、新章に突入します。

感想等いただけたら嬉しいです。

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