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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
神《しん》の章

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除厄式の朝

 結局、柊は凹んだまま、当日を迎える事になった。 もちろん、(かなめ)の柊が、このザマでは不味いと、いろいろ持ち上げたりしてはみた。 そのおかげか、多少は持ち直したが、実の弟にキレられたのは相当堪えたらしく、本調子とは言えない状態で当日を迎えることになってしまったのだ。


「……隼斗に会うの……憂鬱……」


「……大丈夫だって! なんだかんだ隼斗君も柊の身体の事、心配してたじゃん。 あれは、つい勢いで言っちゃっただけで、柊の事嫌ってる訳じゃないから……たぶん」


 そんなやり取りを繰り返しつつ、『山』へと向かった。 前回と同じように、『山』の正門でゲスト用のカードを貰い、集合場所の寺院モドキこと、本殿を目指す。


 本殿前に辿り着くと、集合時間の9:00まで、まだ30分あるというのに、多くの人が集まっていた。


 もちろん、そこにいた人達は、僕達が辿り着いたと同時に、好奇の目を向けてくる。 その中に、地味なおじさん、吉川さんがいた。


 吉川さんは、こちらに気付くと、近寄ってくるでもなく、軽い会釈をしてきた。 僕も会釈で返すが、柊はそれどころではないらしく、キョロキョロとしていた。 おそらく、隼斗君を探しているのだろう。


 ……見つけたとして、どうするつもりなんだろう? 駆け寄って、謝るのだろうか? それとも、何事もなかったかのように話しかけるのだろうか? まさか、逃げ出すつもりじゃあるまいな?


「やぁ、おはよう」


 そんな感じで、ソワソワしている僕らに背後から山村の声が掛けられた。


「いやぁ、よかったよかった。 ここに来た時に、君らがまだ来てなかったら、あいつらの相手しなきゃいけなかったかもしれないからな。 君らが先に来てくれてて、本当に助かったよ」


 そう言って、集団の真ん中らへんにいる人達を立てた親指で示す山村。


「……もしかして、あの人達……」


「そう、ご想像の通り、特殊妖魔討伐部隊……通称『隼部隊』さ。 まだ弟君は来てないみたいだけどね」


 思わぬ所で、隼部隊の紹介が始まった。


「あそこのガタイのいい奴いるだろ? ラグビー部っぽい奴」


 そう言われ隼部隊を見ると、確かにいた。 ラグビー部っぽいガタイのいいのが。


「あいつは、身体に似合わない繊細な技術で法具を操り、鉄壁の結界やサポートを担ってるんだ。 元々はサポートに特化し過ぎて、あまり使えなかったんだが、隼部隊発足の際に、部隊で戦うんならってんで、ようやく日の目を見た尖った人材なんだ。 人呼んで、『絶壁(ぜっぺき)(てつ)』」


 ん? 今、鉄壁ではなく、絶壁と聞こえたが、聞き間違えだろうか? それとも甘噛みしたのかな? どっちだろ?


「……『鉄壁の哲』……ですか?」


「いや、『絶壁の哲』だよ。 ごらん、彼の後頭部を……。 な? 絶壁だろ?」


 ……悪口じゃねぇか!?


「で、となりでくっちゃべってる女性が、隼部隊の紅一点! 真空刃を生み出し、妖魔を切り刻むオリジナルの符は、生産部が使用許可を取ろうと必死になっている程……らしい。 他にも瘴気を抑え込む符や動きを阻害する符、妖魔の知覚を狂わせ幻覚を見せる符など、あらゆる符で妖魔を翻弄する退魔部一の符使い。 人呼んで『岸壁(がんぺき)京子(きょうこ)』」


 また壁だ……。 なんだか聞くのが恐ろしいが、ここは聞かねばなるまい。


「……『岸壁』……ですか?」


「あぁ、よく見てご覧。 な? 胸がないだろ?」


 ……悪口じゃねぇか!?


「で、さらにその隣ではしゃいでるちっちゃいの。 あいつは、主に密教系の真言使いさ。 ほら、虚忘の時の立川のおばさん、あの人が使ってた術さ。 あらゆる明王から力を借りる真言を使いこなすのが得意なんだ。 人呼んで『コロボックル勇輝(ゆうき)』。 まあ、見ての通り、ちっさいのさ。 人間的にも……ね」


 ……はいはい、悪口ね……


「で、最後が山田 貴志(たかし)。 まぁ、オールマイティになんでもこなす副隊長だよ。 霊刀も符も真言も法具も式神もね。 ま、使えるってだけで、どれもパッとしないんだがね……。 その多彩な術で特攻もサポートも、なんでもござれって奴さ」


 ん? あれ?

 悪口がない?


 訝しげな僕の視線に気付いたのか、山村が天パの頭をポリポリと掻きながら呟く。


「良くも悪くも特徴のない、つまらない男さ」


 ナチュラルアオリストですら、煽れないとは、なかなかではないのか? 特徴がないのが特徴ってところか……。 モブとしての才能は、かなりのものがありそうだ。 強いらしいけど……


「まぁ、みんな実力は折り紙付きって奴さ」


「人呼んで……って、山村さんが言ってるだけじゃないんですか?」


「流石……だな。 相変わらずの鋭さだ。 でも、ま、別に問題ないだろ?」


 口の端をクイッとしながら、笑いながら話す山村。 流石はナチュラルアオリスト。


 そんな話をしていると、山村に気付いたのか、コロボックル勇輝が笑みを浮かべながら、こちらに近付いてくる。


「どこの天パかと思ったら、山村さんじゃないですか? どうです? 表舞台から『裏山』に落ちた気分は」


 ニヤニヤしながら、山村に話しかけてくるコロボックル。 年齢的には僕らの少し上くらいだろうか? 山村と比べたら、だいぶ下っぽいんだが、先輩に対する話し方ではないような……なんか嫌味っぽい感じがする。


「……どうって……まぁ、退魔部と比べたら、水が合ってる感じはするね。 そっちは、隼部隊で活躍してるみたいじゃないか?」


 おぉ、思ったより大人な対応だ。 てっきり煽り返すと思ったのだが……


「えぇ、柊隊長は最強ですよ。 あの人の下にいれば、何も問題ありませんよ。 口数が少ないのがたまにキズですがね」


 そう言いながら、コロボックルは僕とキキ、柊をチラ見する。 視線がキキに向かったところで、一瞬、ギョッとしたような顔をしたが、すぐに元のニヤケ顔に戻る。


「そちらが柊隊長のお兄さん……ですか?」


 値踏みするような目で柊を見つめるコロボックル。 柊はと言うと、心ここにあらずの表情で、ん? などと言っている。


「ま、無理だと思ったら、すぐにギブアップしてくださいよ。 俺たち隼部隊がいれば、なんでも上手くいくんだから……。 やれもしないのに粘られて、犠牲が出るのだけは、勘弁……ってね」


 そんな勝手な事を言って、肩を竦めながら、去っていくコロボックル。 山村が話したくないと言っていた気持ちが少しわかった気がした。


 仲間の元に戻ったコロボックルが、残りのメンバーに何やら話をしているのが見えた。 えらく楽しそうなのが、不快だった。


 なるほど、どうやら僕達は、まったく歓迎されてないらしい。 ふん、柊の妖退治を見た後で、吠え面かくなよ!


 そんな事を思いながら、柊を見ると、はあぁぁっと深いため息を吐いていた。


 ……やっぱりダメかもしれない。


 僕は、凹んだままの柊の姿を見て、そんな不安に駆られたのだった。

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