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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
神《しん》の章

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除厄式検討会

「……それでは、これにて定例会議を終了させていただきます」


 一月最初の御前会議は、新年の挨拶から始まり、各部門の報告の終わりと共に、進行役により終了の言葉が紡がれた。


 與座は、そんな様子を壁際に臨時で置かれたパイプ椅子に座って、ぼんやりと見ていた。


(はぁ、退屈やったわ……。 なんで俺まで御前会議に出なあかんねん)


 何故、與座が所在なさげに、そんなところにいたのか? 答えは簡単だ。 御前会議の後、除厄式の検討会が行われる予定だったからだ。

 その検討会に出席するため、佐藤に言われ、御前会議から参加するハメになってしまったのだ。


「それでは引き続き、除厄式の検討会を行いますので、佐藤部長、安倍部長、芦屋部長、烏丸部長は、そのままお残りください」


 進行役をしていた壱与の言葉に、経営企画部の松井、経理部の伊藤が立ち上がり、退室する。 その松井と伊藤と入れ替わるようにして入室してきた柊 隼斗の姿を見て、與座は衝撃を受ける。


(はぁ? 外で待機しててよかったんなら、俺もそうしたらよかったやん)


 與座は、無言で佐藤営業部長を睨むも、本人はまったく気付いていない様子だった。


「それでは、検討会を始めさせていただきます。 まず、烏丸生産部長、柊 鷹斗の武器はどうなりましたか?」


 柊 隼斗の着席を見届けた後、壱与が口を開く。


「柊 鷹斗の武器だが、大して面白みのない事だが、特殊警棒になった。 営業部の連中の多くが護身用に持っている奴と同じような形だな……。 そいつは、もう完成してるから、與座君、後で生産部まで取りに来て、早めに柊 鷹斗に渡しておいてくれ。 除厄式までに慣れておいた方がいいからな」


 烏丸が退屈そうに話す。


「あぁ、あと……こいつも用意しておいた……」


 そう言って、ポケットから取り出したのは、シルバーリングだった。


「……それは?」


 光り物を見て、安倍が食いつくように質問を投げかけた。


「以前、報告した事のある新法具、シルバーリングだ。 直接的な攻撃手段としては弱いだろうが、撹乱に使う分には十分な効果があるだろう。 主役が柊 鷹斗とは言え、何があるかわからんからな……」


 烏丸は、参加する法師の分のシルバーリングと結界師用のシルバーリングを用意したと語る。


「安倍部長には、他のとは違う特別なリングを用意しておいた。 他の法師……隼部隊には氷を具現化できるリングを五つ、結界師には結界強化の効果があるリングをそれぞれ用意しておいた。 結界師の数が未定だったから、とりあえず20個程用意しておいた。 芦屋部長、それで足りるかな?」


 『山』の敷地の中心にそびえる寺社もどき、いわゆる『本殿』が燃えては堪らないと、最も効果のありそうな『火』ではなく、『氷』の属性にしたと烏丸が笑いながら話す。 その言葉を受け、芦屋が口を開く。


「……一応、本殿の外周を囲むため、15名の結界師を用意しといた。 あと、建屋の守護と維持を目的に本殿内の四隅に常盤(ときわ)一族を四名。 だから、20あれば問題ないだろう」


 常盤一族……結界師の中で、特殊な結界を使う常盤流結界術の本家とその親戚筋にあたる常盤宗家の事である。

 常盤流の結界は、陰や妖のみに作用する通常の結界とは違い、物理攻撃にも効果のある対物理結界だ。 その常盤流結界術の使い手を本殿内に配置する事で、本殿が決壊しても、内部の人間が崩落した天井などでダメージを受けないように、との配慮であった。


 常盤一族は、普段は主に皇族の守護を業務としているが、除厄式のために末席の四名を『山』に呼んだという事だった。


「ま、建屋の維持だけだから、末席で十分だろ?」


「ご配慮……ありがとうごさいます」


 芦屋の言葉に壱与が謝礼を述べる。


「はっ、やるからには万全を……ってな」


 芦屋は、若干、照れるように顔を背けて返答した。


「あ~、ちなみに結界師用のリングだが……、結界強化のイメージで天然ダイヤを使ってるから、法師用のリングより高いが……20個分……後で呪術部に請求しておくから……」


「なっ!? ダイ……!? ……やれやれ、とんだハズレくじだ……」


 烏丸による費用の話に、芦屋が苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


「……芦屋部長、特別予算の増額を伊藤経理部長に指示しておきますので、それをお使いください」


 進行役の壱与の言葉が、若干、同情的な響きを含んでいるのを與座は聞き逃さなかった。


「では、安倍退魔部長、柊 鷹斗をサポートする法師については、いかがでしょう?」


 壱与に話を振られた安倍が、爽やかな笑みを浮かべながら発言する。 目の錯覚だろうが、與座には、その歯がキラリと光っているように見えた。


「あぁ、それに関しては、僕と隼部隊だけで考えているのだけど……柊隊長、どうだろうか?」


「……雑魚が何人いても同じ」


「つまり?」


「……それで十分」


「……だ、そうだ」


 隼斗の言葉を補足しながら、安倍が肩を竦めながら笑う。


「それでは、本殿へ入室するのは、柊 鷹斗以外には、常盤一族の四名と隼部隊の五名、および安倍退魔部長、合わせて11名でよろしいですね?」


(ほんまは、一ノ瀬も見学したいやろうけど……こればっかりはしゃあないやろな……)


 與座が、そんな事をボンヤリ考えていると、芦屋部長が待ったを掛けた。


「待った! できれば、呪術部(うち)の山村も同席させたいんだが、……ダメかね? 柊隊長殿」


「……人成……さん?」


「あぁ、正直、呪術部(うち)の奴らは、呪いに関しては強いが、对妖(たいあやかし)ってなると、てんで使えねえ。 だが、人成なら退魔部出身で戦闘能力もあるし、解呪(抜き)もできる。 荒覇吐が呪いを使ったとしても、アイツなら十分、対応できるだろう……」


「承知いたしました。 では、山村主任も追加という事でお願いいたします」


 芦屋の言葉に隼斗が返事するよりも早く、壱与が回答する。 これにより、山村の参加が決定付けられた。


「山村君の参加はいいとして、……芦屋君、君は参加しないのかい?」


 不意に安倍が発言する。 その余裕の笑みは、芦屋への挑発なのか、単に何も考えていないのか……


「……俺はいい。 現役を離れて、だいぶブランクがあるからな……。 そういう中途半端な奴を入れると、作戦の成功率……ひいては参加者の生存率に影響する……。 もちろん、退魔部長殿なら、そんな事ご存知かとおもいますがねぇ」


 返す芦屋の返答は、明らかに同じブランクのある立場にも関わらず、参加を表明する安倍への皮肉だった。 発言と同時に鋭く安倍を睨む芦屋と、相変わらず余裕の笑みを浮かべる安倍。 一触即発のムードかと思われる場面で、『そんな事知らん』と言いたげに、ある人物から言葉が投げられた。 烏丸生産部長だ。


「なら、山村君にも特別なリングを用意しておこう。 あと、参加者には、リングの使用方法の説明もあるので、早めに生産部まで取りに来るよう伝えておいてくれ」


 烏丸のマイペースな言葉に、安倍が肩を竦め、芦屋は舌打ちをし、その場が収まる。


「では、続きまして、安倍退魔部長、芦屋呪術部長、作戦の詳細をお願いいたします」


 そこから、プロジェクターにより、『山』の見取り図が映し出され、芦屋による結界師の配置案が、安倍によって隼部隊の配置と柊 鷹斗の配置案が、それぞれ説明される。


(なんや、提案部署っちゅうことで、参加させられとるけど、営業部…….完全に空気やん……)


 與座は、そんな事を思いながら、同じ境遇の佐藤を見る。 佐藤は、何も感じていないのか、黙って二人の部長の説明を聞きながら、それっぽく頷いていた。


「一応、当日までの本殿内の整理は、『丘』の講師にお願いして、候補生達にやってもらう手筈は整ってるよ。 ……以上かな」


 安倍が、爽やかな笑みを浮かべながら、環境構築に養成学校の候補生を使う事を提案し、検討会の議題が全て出揃った。


「では、当代様、何かありますでしょうか?」


 壱与は、そう言いながら、当代様のいる駕籠に顔を近付けて、中の言葉に耳を傾ける。 壱与は、何度か頷くと顔を上げ、周りを見回した。


「では、そのように進めておいてください。 これで今回の議題は以上となります。 次回は二週間後、参加者を集めた作戦会議を行います。 安倍退魔部長、芦屋呪術部長、佐藤営業部長は引き続きの参加をお願いいたします。 與座主任、その時は柊 鷹斗も連れてくるようお願いいたします。 烏丸生産部長におかれましては、参加不参加は任意で構いません。 以上で本日の検討会を終わります」


 こうして、検討会は、壱与が深々と頭を下げながらその場を締めて、お開きとなった。

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