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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
陰《おん》の章

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霊感のない男

「妖狩りってのは、……ちょっとダサかったかなぁ」


 柊が、修蓮さんの家の仏間で寛ぎながら、呟いている。 営業は応急処置だけして、タオルで耳を押さえた状態で胡座をかいている。 そして、少女は煙に縛られた状態で、額に『さわりません!』と書かれたA4用紙を貼って正座している。 まるで、イジメのような絵面だ。 しかも、ちょうどボディラインを浮かび上がらせる形で縛られているため、目のやり場に困る。 営業は、その縛りの形を見て、「なんで、亀甲やねん!」と突っ込みを入れていたが、今はおとなしく柊の動向を見守っている。


 あれから、ちょうど仕事を終えて連絡してきた和泉さんにお願いして、迎えにきてもらったのだ。


 しばらくして、やってきた和泉さんの顔は、発疹が大分落ち着いている感じがして、少し安心した。 やってきた和泉さんは、慣れた手付きで営業に応急処置を施した。 少女も連れて行くとなった時に相当嫌そうな顔をしたが、柊が『さわりません!』というA4用紙を額に貼った事で、瘴気が収まったらしく、渋々、少女もクルマに乗せてくれた。 ちなみに修蓮さんは一人でスーパーカーだ。


 道中の車内では、みんな無言だった。 ただ、柊だけが、ひたすらモンストをやっていたが、途中で負けたのか、悪態をつき始めたため空気は最悪だった。


 修蓮さんの家に着き(表からだと結界のせいで、少女を入れられないので、裏から入る形をとった)、少女を和泉さんが嫌々運び、今に至っている。


「……で、自分なんなん?」


 営業が、沈黙を破って口を開いた。 その場にいる柊以外の人間が、聞きたかった内容だ。


「……だ〜か〜ら〜、柊だって、さっき言ったじゃん」


「ちゃう! そういうんじゃのうて、なんで巫女の攻撃が効きひんのか? そのA4用紙、アホみたいな絵面のくせに出鱈目な符の力はなんやねん? そんでもって、その亀甲縛りはどないなってん? つまり、聞きたいのはそういう事や!」


 ん〜と柊が頭を掻く。


「まぁ、まず攻撃が効かないのは、俺に霊感がないから。 見えないし、感じないんだから、攻撃だろうが、エッチなボディタッチだろうが、俺には通じない。 ……あと、お前のそのエセ関西弁、胡散臭いからやめた方がいいよ」


 柊が、僕が思っていても口に出来ないような事を平然と口にする。 そこに痺れはするが、憧れはしない。


「霊感がないとか、そんなんある訳ないやろ!? そりゃ、ほんまに霊感がなけりゃ、理論上は(にい)さんの言う通り、妖の攻撃なんて意味ないやろな。 ……本当にに霊感0やったらなぁ? でも、普通の人間なら多かれ少なかれ、絶対に霊感っつうのは存在するもんや。 0なんてありえへんのや」


 営業が、エセ関西弁の件りをまったく気にしていない感じで受け答える。 まぁ、何というか……、強い男だ。


「まぁ、お前の常識を人に押し付けるなよ? 現に俺は霊感ないんだから。 そんな事より、人に物を尋ねるなら、まずは名乗れよ? 失礼な奴だな……」


「ないない。 現に、そのA4用紙貼った時は、普通に見えてる感じやったろ!?」


「そいつは、この『柊メガネ』のおかげでね。 これさえ掛けときゃ、大抵の妖は見えるようになるんだよ。 っつか、さっさと名乗れよ」


 いつの間にか掛けている青いメガネをトントン叩きながら柊が答える。 いやに似合っているせいか、ますますチンピラっぽく見える。 それにしても『柊メガネ』って……ネーミングセンスを全くアピールしない、奥ゆかしさにグッとくる。


「見たところ、ここにいる奴らは、航輝以外はみんな、いわゆる霊能者って奴らだろ? 俺もこれから、そいうのを仕事にしようと思ってるんだけど、色々教えてくれよ?」


「……まずは、こっちが色々教えてもらってからや」


「……だから、お前はまず名乗れよ」


「……與座(よざ) (たける)や。 ……これでええやろ? その変なメガネについても教えてもらうで?」


 與座。 珍しい苗字だ。 なんとなく沖縄出身なのだろうと考えてしまう。 本当に、名前や出身地がバレるとヤバいような妖がいたとしたら、名前だけでいろいろ不味い事になりそうだ。 ……だが、あの細い目は沖縄っぽくない気がする。 ……これもフェイクか?


「まぁ、そこはほら……、企業秘密という奴で」


 柊が、散々焦らした挙句、そんな事を言うもんだから、営業改め與座は、絶句してしまった。


「……まぁええわ。 うちの連中も秘密主義の奴多いし……、まぁわからんでもないわ。 一ノ瀬! もう、『山』には頼まんのやろ? せやったら、俺は耳の件で病院行きたいし、もう行くわ。 和泉のおっちゃん、さっきの喫茶店まで送ったってくれへん? あそこにバイク駐めてあんねん」


 慌てて頷く僕と、立ち上がる和泉さん。


「ほなな」


 與座は、そう言い残して和泉さんについて歩いて行った。 僕と修蓮さん、柊、そして少女が部屋に取り残された形になった。


「さて、騒がしいエセ関西弁もいなくなったし、色々聞かせてもらおうかな? まぁ、まずは状況の説明から、おなしゃす」


 名前を聞いたにも関わらず、與座の事をエセ関西弁と呼びながら柊が話す。 ……名前聞いた意味は、あったのだろうか?


「まず……は、自己紹介ね。 私は、大河内 修蓮と言います。 航ちゃんとは縁があって、そこの……悪霊を払えないかと、依頼されたのよ」


 修蓮さんが、チラリと亀甲縛りの少女を見てから、状況を話し始める。 本当は、僕が話すのが筋なのだろうが……、なかなか話し始めない僕を気遣って説明してくれたのだ。 その話を聞きながら、柊が段々、ジト目になっていくのがわかる。


「なるほど、航輝は俺に依頼しておきながら、こっちの婆さんおよび『山』とかいうエセ関西弁を頼ったと?」


 僕は、だまって頷く事しか出来なかった。


「まぁ、私のお節介のせいだから、あんまり航ちゃんを責めないであげてね?」


 修蓮さんが優しくフォローしてくれる。


「はぁ……、まぁ初の依頼だったから、信頼と実績って面で弱かった……と、前向きに捉えておいてやるか……」


「で、鷹ちゃん、この悪霊……、なんでここに連れてきたのかしら?」


 ん、ああと、柊が青いメガネを掛けたまま、少女を見る。


「今回、初の依頼って事で舞い上がっちまってなぁ。 契約書的なもの? 一切忘れてたんだ。 だから、滅するのはお金を払ってもらう確約を貰ってからにしようと思ってな」


「〜〜っ! 今、すぐには払えませんが、家に戻ったら、すぐにお金を降ろして、お支払いします。 なんなら、ここで一筆書きます」


 そう言って、修蓮さんからもらった紙に『除霊の謝礼として、金30万円お支払いします』と書いて、拇印を押した。 30万円なら、今までのバイト代と仕送りの余りを貯め込んだ口座から払う事が可能だ。

 柊は、満足そうにそれを受け取り、折り畳んでアロハの胸ポケットにしまって、大事そうに胸ポケットをポンポンと叩く。 その後、思い付いたように修蓮さんの方を向いた。


「なぁ、婆さん、こういうのって、いくらぐらいが相場なん? 30万円ってのは、ぼったくり過ぎかなぁ?」


 修蓮さんは、そうねぇ、と言いながら僕の方をチラ見して語り出す。


「うちじゃ、払える範囲で気持ち程度しか受け取らないけど……。 さっきの『山』じゃ、1000万円くらいかしら? 学割が効いて500万円って話だったけど……。 まぁ、それもその悪霊のお札が剥がれてパワーアップする前の話ね」


 ちなみに少女が完全体になった後は、おそらく億単位の金額が請求されててもおかしくなかったという……。


 柊は、それを聞いて、頭を抱えた。


「もっと吹っかけりゃ良かった……。 30万円なんて、少なすぎじゃね?」


「もう、一筆かきましたからね? 変更はなしですよ? ね? ね?」


 僕は、慌てて言葉を付け加えたのだった。

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