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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
書《しょ》の章

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怪異を綴る者

「……驚かせてしまったかな……。 ご覧の有様でね……。 どうやら……妖になるのは、僕自身のようだ」


 僕は、自嘲気味に笑いながら、久古君に話しかけた。


「……す……素晴らしい!」


「…………え?」


「1922年8月……うん。 リミットまで一年以上残ってる……」


「……久古君? 何を……?」


 この姿になったせいで、恐れられる事は覚悟していた。 最悪、逃げられるかもしれないとさえ思っていたが、彼の反応は、予想したどれとも違った。


「先生は、今から一年以上放置されます。 一年後に関東大震災と呼ばれる地震が起こるので、その際に一度、瓦礫に埋もれ、誰にも拾われないまま、その姿で長い時間を過ごすことになります」


「………………」


「そして、最初に拾われるのは、昭和という時代になってすぐの頃になりますね。 まぁ、どんな人に拾われるかまでは、見てませんが……」


 久古の訳の分からない言葉を聞きながら、僕は、無理やり首を動かして、久古を見つめた。


「……まさか……、君……いや、お前は……」


 僕の言葉に久古は、無言で醜く歪んだ笑みを浮かべた。


「あら、キューの割には、随分仕事が早かったじゃない……。 リミットに設定した関東大震災まで、あと一年あるというのに……」


 急に会話に割り込んで、聞き覚えのある声が響いた。 気持ちがささくれ立つのを感じた。 ジワジワと頭が沸騰していく……

 その白い姿が部屋に入ってきた瞬間、僕は思わず声を張り上げた。


「TELLER!」


「まぁね、ここまで仕上げが早まったのは、先生のおかげさ。 リコからもお礼を言ったらどうかな?」


「先生、よくぞここまで、化けていただけました。 ありがとうございます」


 白い女の言葉のすべてに虫酸が走った。


「TELLER!」


「あぁ、本当に素晴らしいわ。 妖を喰らう妖……で、合ってますわよね?」


「あぁ、退治した妖を喰らい、その情報と力を吸収する。 喰らった妖が、TELLERに造られた妖なら、その情報から、TELLERの動向を知り、いつかはTELLERを追い詰める。 さらに、おまけとして宿主を変える度にチート道具(アイテム)を生成して、TELLERを倒す手段を強固にしていく……。 そういう妖になるよう仕向けておいたよ」


「えぇ、これで喰われる対象の妖達も気を引き締めてくれる事でしょう。 やはり、妖達にも天敵がいないと……ですわ。 もちろん、私達にも……ふふふ」


「TELLER! TELLER!」


「先生、さっきから騒がしいですよ?」


「あらあら、せっかく綺麗な肌色の本が、先生がジタバタするせいで、インク代わりの血が飛び散って、赤く染まってしまったじゃありませんの……」


「TELLER! TELLER! TELLER!」


「……先生、あんまり名前を連呼するのは、やめていただけませんかね?」


「……久古ぉ! お前は……」


「もう……お気付きですよね? 実は、僕も……TELLERなんですよ」


「…………なっ!?」


 予想外の言葉だった。 せいぜい、TELLERの仲間くらいにしか、思っていなかった。


 パキパキ……


 聞き覚えのある不快な音が聞こえた瞬間、白い欠片が久古の周りに浮かび始める。


 パキ……パキ……


 久古の周りの白い欠片は、そのまま久古の身体を覆い、包まれていく。


 足を、

   体を、

    指を、

     首を、

      顔を。


 久古の全身に欠片が纏わり付いていく。 その光景は、まるっきり、樹神 理恋の時と同じだった。


「僕らの目的は、『赤い外套の怪人』を生み出すことではなく、先生、あなたを妖狩りの妖にする事だったんですよ」


 白い久古 真が、楽しそうに口を開く。


「先生は、見事に踊ってくれましたわ。 ふふ、それはもう、とても見事なステップで……」


 白い樹神 理恋も、楽しそうに口を開く。


「なんで、自分が選ばれたか? 先生なら、もうおわかりでしょう?」


「……ふふ、もちろん、ご想像の通り、……なんとなく……ですわ」


「「だって、悪意って理不尽なものだから……」」


 声を揃える二人。


「最初は、強い霊能力者に拾ってもらえるといいですね」


「無理よ。 だって、最初の一人目は、チート道具(アイテム)もないんですもの。 まぁ、二人目から期待……ってとこですわね」


「違いない!」


 二人は、無表情のまま、楽しげに笑い始めた。


 その巫山戯たやり取りに、怒りが加速していく。


「お前は……っ! お前らは……! 一体、なんなんだっ!」


 その言葉に、白くなった久古 真と樹神 理恋が、無表情でこちらを見る。 さっきまでの巫山戯たやり取りが嘘のように抑揚のない声が響いた。


「私は……」

「僕は……」


「怪異を(つむ)ぐ者」

「怪異を(つづ)る者」


「私達は……」

「僕達は……」


「「二人で一つの……怪異、 TELLER」」


「「時を泳ぎ、世界線を跨ぎ、妖を生み出し、この世に混乱を興す者」」


「「人の(ことわり)から、外れた者よ」」


「心ゆくまで」

「心置きなく」


「「足掻(あが)くがいい!」」


 そう言うと、二人の間に黒い点が浮かび上がった。


 浮かび上がった黒い点は、黒い稲妻のようなものを迸らせながら、成長していく。 成長した黒い点は、球状になり、二人がそれに触れた瞬間、世界が闇に包まれた。


 ◇ ◇ ◇


 そこで映像が終わった。


 椿 三郎は、(ぬる)くなったコーヒーに口を付けて、唇を湿らせると、口を開いた。


「いかがだったかな? 僕の……TELLERに纏わる僕の物語は……」


 言葉はすぐに出なかった。 妻と子を亡くし、自分まで妖にされた椿 三郎……。 そりゃ、妖を憎みたくもなるというものだ。


 でも、だからと言って、他の人の人生を狂わせていいという理由にはならない。


「言いたい事はわかるよ。 でもね、僕には、もうTELLERを倒す事しか、生きる意味がないんだ。 宿主になってくれてる人達には申し訳ない事だけどね……」


 椿 三郎は、少し、寂しそうに笑った。


「なんで、僕に……。 なんで、僕にこんな……話を……」


「……なんとなくさ。 今回の宿主の柊 鷹斗には、一切、干渉できないからね。 せめて、彼に近しい君には知って欲しかっただけさ。 まぁ、理解してくれるとは思ってないけどね」


 椿 三郎の用意したテーブルが歪み始める。


「そろそろ、時間切れのようだ。 僕の事を少しでも、憐れだと思うなら、ぜひ、柊君に進言して欲しい。 妖狩りのペースを上げることを……」


「……あなたしている事が正しいとは思えない。 ……でも、いつか……TELLERを……倒せると……いいな、とは思います」


「ありがとう。 今は、その言葉を聞けただけで、君に見てもらった甲斐があったというものだよ。 さあ、そろそろお別れだ……」


 椿 三郎がそう言うと、暗闇の世界に光が差し込み、やがて、この世界を白く染め上げた。


 気が付くと、僕は修蓮さんの家の天井を見ていた。


 寝起きの目には、涙が溢れていた。


 ぬん。


 突然、御札を貼った女性が覗き込んできた。 キキだ。


 キキは、寝ながら涙を流していた僕を心配しているようだった。


「……大丈夫」


 僕は、そう言って、涙を拭った。


 傍で寝ている呑気な寝顔の柊を見る。 妖に対して、チートな癖に、妖に対して何も感じない、身勝手な男の顔を……。


 もどかしいだろうな……


 僕は、なんとなく、ぼんやりと、そんな事を考えた後、再び、眠りにつく事にした。


 (しょ)の章   完

この章は、番外編的な立ち位置になります。

TELLERの誕生秘話は、『都市伝~近代伝承のススメ~』に書かれています。 初期作品のため、大変、読みにくいとは思いますが、興味があれば、ぜひ一読ください。


本編は、閑話を挟んで新章に入る予定です。

これからもよろしくお願いします。

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