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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
書《しょ》の章

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 妖を造る。


 久古君に言われ、半信半疑で妖を考え始めた僕は、何度も案を却下されながらも、TELLERを倒しうる妖の案を考えた。


「全然、ダメです、 先生。 先生はTELLERを倒すことばかりで、妖の本質を全然、わかってないです」


「……なんだ? それ……」


「妖の原動力は、『恐怖』ですよ? 人々に『恐怖』を語り継がれることによって、妖は力を増すんです。 先生の案は、全て、TELLERに対する能力だけで、人々に対する『恐怖』がないんです」


「……そういうもんなのか?」


「えぇ、そういうもんです。 怪奇小説の作家たる先生には、釈迦に説法かもしれませんが、『恐怖』ってのはなんだと思いますか?」


「……生命への危機……かな」


「では、なぜ『生命の危機』が『恐怖』になると思いますか?」


 何故だろう? 『死』は確かに『恐怖』で間違いないはずだ。 だが、『死』以外にも『恐怖』はある。


 例えば、『腕を失くすかもしれない』というのも『恐怖』だ。 だが、それは必ずしも『死』とは直結しない。 そう考えると、『死』と『腕を失くす』に共通する何かがあり、その正体が『恐怖』ということになるはずだ。


 …………


「……日常の……変化……?」


「そうです。 人は、『変化』を恐れるんです。 『死』とは、その究極の形というだけで、人は『変化』を恐れる生き物なんです。 だから、『身体の欠損』も『自分が自分でなくなる事』も『拉致』も『死』も、そして、その『死』を運ぶかもしれない存在……『犯罪者』、『妖』、『霊』、『呪い』などにも『恐怖』を感じるんです」


 目から鱗だった。 ただ、なんとなく怪奇小説を書いていただけだった。 『恐怖』の本質など考えた事がなかった。 久古君の言葉を聞いて、なるほどと思えた。


「まぁ、僕の知り合いに言わせれば、『変化』というよりも、『未知』こそが『恐怖』らしいですが……」


 いつにも増して、饒舌な久古君が、つらつらと語り続ける。


「と、いうわけで、人にも恐怖を与える……そんな妖を考えましょう」


 ……人に恐怖を与えながら、TELLERを倒すために存在する妖? そんな設定造れるだろうか?


 …………


「TELLERを倒すため……人に寄生……する……ってのは?」


「いいじゃないですか、先生! しかも、自ら動けない存在なら、『縛り』の分、強い力が出せそうですね」


 大喜びする久古君。 縛り? きっと、博学な久古君の事だ。 きっと何かしらの意味があるのだろう。


 方向性が決まった所で、久古君は去り、一人になった僕は、書いては破り、破いては書いて、人に寄生する妖の話を造り続けた。


 妖を造る。


 最初は半信半疑で書いていたが、いつのまにやら、確信めいたものを感じるようになっていた。


 ◇ ◇ ◇


「そういえば、シベリアからの撤兵が正式に決まったらしいですよ」


「……そうか」


 そんな感じで、時折、様子を見に来る久古君を適当に相手しながら、TELLERへの憎しみを植え付けながら人から人へ寄生していく妖の話を書き続けた。

 妖は、単純に書物の形にした。 久古君が言うには、そういう特殊な書物を西洋では、魔導書(グリモワール)と呼ぶらしい。 意志を持った魔導書(グリモワール)が、僕が生み出そうとしている妖だった。


 魔導書(グリモワール)は、宿主を変える度に、妖退治に特化した魔道具を生み出す設定にした。 実際、そういった妖を退治する事を生業としている者達が少なからず、いるらしいので、そういった者達を宿主とし、TELLERを倒す日を焦がれる……。 そういう妖の物語だった。


 書いている内に、僕は食事を取らなくなり、次第に睡眠も極端に減っていった。 インクの補充が面倒になり、左腕に傷を付けて、そこから流れる血で文字を綴った。 そんな、ある意味異様な執筆を続けているうちに、自分の身体に異変が起き始めた。


 それは、八月に差し掛かった頃の事だった。 僕の身体の一部……正確には、用紙を押さえる左手が紙と一体化し始めたのだ。

 そして、それに気付いた時、僕は確信した。


 僕自身が妖になる……のだと。


 僕は歓喜に震えた。


 それしか、手段がなかったとは言え、自分の創り出した妖にTELLER退治を託すのは、正直、あまり気が進まなかったからだ。 あのTELLERが滅びる様子を自分自身で確認したかったから……

 正一と絹代を失ってからは余生のようなものだと生きてきた。 これで……生きる目的ができたようなものだ。 僕は、自分自身で、TELLERの滅びる様を見届けるのだ。


 左手の先が用紙と一体化すると、次いで、その左腕に脇腹……そして、左脚といった形で一体化が始まっていた。 身体が変異していくにともない、執筆の姿勢は無理のある体勢になっていったが、たいして気にならなかった。 自分の血を使って、ひたすら文章を書き続けた。 その内容は、いつのまにか物語の枠を逸脱し、もはやTELLERに対する恨み言だけになっていた。


 そんな時、久方ぶりに久古君が家にやってきた。 歩けないので、大声を出して、入ってくるよう促した。


「……先生、その……姿……」


「……驚かせてしまったかな……。 ご覧の有様でね……。 どうやら……妖になるのは、僕自身のようだ」


 僕は、自嘲気味に笑いながら、久古君に話しかけた。

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