表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
書《しょ》の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/190

久古君の仮説と町の噂

「なるほど……。 またもや人を殺める夢を見た日に、夢で見た女性が、実際に殺害されていた……と、そういう訳ですね……」


 僕は、自宅の書斎で、ちょうど様子を見に来た久古君に、すべてを打ち明けた。 確かに僕には超常の力はない。 では、この現象は、一体なんだというのか……


 黙って頷く僕を見て、久古君が顎に手を当てて、考え事をしている。


 …………


 沈黙が重い……


「いくつか……考えられる仮説は……あります。 ただ、どれもこれも、常識ではありえない話になってきますが……それでも、聞きますか?」


 もちろん、聞く。 聞くに決まっている。 このモヤモヤが消えるのなら、悪魔にだって魂を売るだろう。


「一つは……予知夢」


「予知夢?」


「えぇ、夢の中での、超常の力や殺害方法はともかくとして、先生の作品の読者が犠牲者に手を掛ける……。 それを夢という形で警告されている……という考え方です」


 予知夢……。 確かに古今東西、夢のお告げや、夢での未来予知は、伝承や昔話ではよく出てくる定番と言えば定番なのだが……。 本当にそうなんだろうか?


「もう一つは……先生の潜在意識と犯人の潜在意識が同調してしまっている……という考え方……」


「……同調?」


「……つまり、先生の作品を読んで、自分が『赤い外套の怪人』だと思い込んで犯行を重ねる犯人の思考を、先生が夢として拾っている……。 と、まぁ、そんな感じです」


 いまいちピンとこないが、そんな事があるのだろうか?


「あとは……先生が物語を紡ぐ事で、『赤い外套の怪人』が、現実に生み出されてしまった……という考え方……」


 それは、僕があの小説を書いたせいで、樹神 理恋もパウリスタの女性給仕も死んでしまった……ということを意味していた。


「……夢は?」


「…………」


「最後の説だったとして、僕が夢を見る理由がわからない……」


「そうですね。 失言でした。 最後のは忘れてください……」


 そう言って、久古君は軽く笑った。


「ともかく! さっき挙げた説もすべて、常識では起きえないものです。 単純に、たまたまの偶然と考えておいた方がいいと思いますよ?」


「………………」


「ほら! あんまり考えすぎないで! 次の作品に取りかかりましょうよ。 と、いう事で、僕は他の先生のところを回らないといけないので、ここらで失礼しますね」


「あ、あぁ」


「……本当に大丈夫かなぁ?」


 そう苦笑して、久古君は、去っていった。


 しばらく、僕の頭の中を回っていたのは、最後の仮説……。 僕が『赤い外套の怪人』を生み出してしまったかもしれない……ということだった。


 ◇ ◇ ◇


 二人目の犠牲者が出てから、数日経ったある日、四歳になり、よく喋るようになった息子の正一が夕飯時に、とんでもない事を言い出した。


「お父さん、『赤い外套の怪人』ってご存知ですか?」


 思わず、飲んでいた味噌汁を吹き出してしまうところだった。 正一は、僕が物書きをしている事は知っていたが、それが怪奇小説だということも、その内容も知らないはずだった。 妻の絹代はと言うと、昔から怪談が苦手らしく、僕が怪奇小説で生計を立てている事は知っていたが、正一と同じで僕の小説を読んだことはなかった。


 だから、正一の口から『赤い外套の怪人』の名前が出てくる事は、驚き以外のなにものでもなかった。


「……『赤い外套の怪人』?」


「えぇ、その怪人に出会うと攫われて、殺されてしまうらしいのです」


「…………」


「なんでも、高田さんとこの清君から聞いたって、夕方からずっと、その話ばかりなんですよ……」


 なんで、『赤い外套の怪人』の話が正一の口から出たのかと、訝しんでいると、絹代が説明をしてくれる。


「ここ最近の物騒な事件……あれらは全部、その怪人の仕業だと、ここいらで噂になっているらしくて……」


 いや、おかしいだろ?


 そもそも、僕が書いた『赤い外套の怪人』が載っている雑誌『奇々怪々』は、発行部数は雀の涙なのたから、それが町で噂になるなんて……。 ある訳がないのだ。


「……ばかばかしい。 そんな怪人いる訳がないだろう。 馬鹿な事を言ってないで、早く食べなさい」


 心の中の動揺を隠して、芋の煮っころがしを口に運びながら、そう告げる。


 そう、そんな事……ある訳がないのだ。


 そう自分に言い聞かせたはいいが、想像以上に噂は飛び交っているようで、その後、何度も町で『赤い外套の怪人』という名前を聞くようになった。


 時には、向かいの奥さんから……。 時には、三軒隣のご隠居から……。 時には道で集まって遊んでいる子供達の会話から……。


 あらゆるところで『赤い外套の怪人』の名前が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ