表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
陰《おん》の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/203

はぁ?

 お札が取れた少女は、薄汚れたボロ布を纏っていた。 見晴らしのよくなったその顔は、相変わらずの長い髪のせいで目元は見えないが、透き通るような白い肌と薄い紅色の口元が、妖艶さを醸し出していた。


 何の枷もなくなった少女は、両手をグー・パーして、自分の力を確認しているようだった。 その雰囲気は、完全体になったばかりの、とある人造人間を彷彿とさせる。


 ……そして、その口元が歪められた。


 次の瞬間、僕は度肝を抜かれた。 少女が一瞬で消えたから……。 いや、正確には目で追えないくらいの速さで動いたのだろう。 気が付くと、少女は営業の目の前に立って笑っていた。 営業も、動きが見えなかったのだろう。 ……今さらながら、霧吹きを少女に向けるが、まるで気にしないとでも言うように、少女の右腕が動いた。


 チャリ。


 金属音がした。 弾けるように飛び退いた営業が自分の左耳を押さえながら(うずくま)っている。


 そして、少女の足元には、……チャームのついた耳が落ちていた。 少女の白く美しいはずの右手が血に染まっている。 ……状況の理解に時間が掛かった。 何が起きたのか気付いたと同時に営業を見ると、左耳を押さえている手が真っ赤な色に染まっていた。


「ギッギッギ……」


 少女が肩を揺らしながら嘲笑う。 流暢に喋れるようになっても、笑い方は不気味なままなのが余計に腹立たしい。


「営業さんっ!」


 慌てて駆けよろうとするのを、苦痛に顔を歪めた営業が手をかざして制止する。


「来んでええっ! まるで、武○のじっさまみたいになってもうたわ……。 とは言っても、こんなネタわかる奴は、そう居らへんやろ……。 ほんま、かなわんわ……。 修蓮! なにボサッとしとんねん。 逃げる準備や!」


 営業が叫ぶが、修蓮さんはモジモジして、動き出そうとしない。 こんな時に何をやっているのか?


「……なの」


「「は?」」


「……2シーターなのっ! 私の車!」


 そうだった。 修蓮さんの車は、バリバリのスーパーカーで、運転席と助手席のみの2シートの車だった。 行きの時に、生まれて初めてスーパーカーとやらに乗ったが、内装もカッコいいし、ドアもガルウィングでカッコよかった。 一体いくらするのかわからないが、お高い事は確かだろう。 乗ったのは、ほんの僅かな時間だったが、僕の中の憧れの車ランキングを塗り替える程の素敵な車だった。 ……が、今この場から三人で逃げる事を考えると、乗り込むのに手間取る上に一人乗れないのだから、不適切極まりなく思えた。


「ツ……なんでやねんっ!」


 営業の突っ込みが、閑静な田舎町の喫茶店駐車場に響いた。


 先程まで楽しそうに笑っていた少女が、再びゆらりと動く。 それを見た営業の表情が引き締まり、右手に持っている符を翳す。 次の瞬間、営業が転がってその場から離れる。 見ると、先程まで営業がいた位置に少女が蹲っていた。 少女の動きがまったく見えない。


「ギッギッギギ……」


 気が付くと、営業も修蓮さんも顔に赤い発疹ができていた。 少女は弄ぶように、営業を追っては笑い、笑っては追うを繰り返している。 営業は息も絶え絶えに逃げながら、符を貼ろうと隙を伺っている様だった。 だが、捕まるのも時間の問題に思えた。


 ザリッ。


 なんだ? ふと、音が聞こえた。


 ザリッザリッ。


 その音は、アスファルトに踵を摺るような音に聞こえた。 そう……人の歩く音が通りの方から聞こえてきたのだ。 最悪だ! 通行人がこちらに歩いてきている。 駐車場には修蓮さんの車以外に2台の車と大型のバイクが駐まっている。 喫茶店から出てきた人かもしれないし、ただそこを通過しようとしている人かもしれない。 ただ、少女がその動向を黙って見守るとは思えなかった。 このままでは、無関係の人まで犠牲になってしまう! 僕はどうしようもない気持ちのまま、通りを見つめた。


 ザリッザリッ。


 そこにはアロハとハーフパンツ、サンダル履きというラフな風貌の茶髪の男が、気怠そうに歩いているのが見えた。 そして、その顔を見て思わず声を上げてしまう。


「あ!」


 その声を聞いて、男がこちらを見るのと少女が男を見るのは、ほぼ同時だった。


「お! 航輝じゃん。 よかった、臨太郎に住所送られて、そこに行けって言われたけど、結構、駅から遠いじゃん。 しかも、ここにいるって事は、普通にそこに辿り着いてたら、すれ違いだったわけじゃん? ……本当、ここで会えてよかったわぁ」


 それは、柊だった。


 柊は笑いながら、こちらに向かって歩いてくる。 軽い感じでヒラヒラと手を振りながら……。 営業と少女の間を、なんでもないように歩きながら……。 そして、それを見た少女は獲物を見つけたかのように、舌舐めずりして、柊に向かってゆらりと動いた。


 危ないっ!


 次の瞬間、少女の手が柊の胸から生えていた……。 少女は何事もないように通り過ぎた柊の背中から、右手で柊の心臓を貫いたのだ。


「うわぁぁああぁぁ!!」


 目の前で、人が殺されるのを初めて目の当たりにした僕は思わず叫んだ。 叫ばずにはいられなかったのだ。 僅かな面識しかなかったが、気のいい奴だった。 そんな気のいい奴が、こんな風に……、なんで自分が殺されるかもわからないような、そんな風に死ぬなんて……。 それもこれも全部、僕があんな事をしてしまったせいなのだ。


「……なに? どうした? 急に叫んで……」


 柊は眉間に皺を寄せて、何事もなかったかのように尋ねてくる。 胸には、鮮血が出て……ない?


「は?」


 思わず、素っ頓狂な声が漏れる。 少女は、小首を傾げながら自分の右手をじっと見ている。 ワキワキと動かしながら……。 営業もポカンと口を開けて見ている。 修蓮さんは、物凄い勢いで目をゴシゴシ擦りながら、柊を見ている。 


 ……何が起きた?


 あれ? 見間違いだったのかな?


 そう思っていると、再び少女が右腕を振りかぶって、柊に向かって、物凄いスピードで振り下ろした。 営業の耳を落としたやつだ! ……が、その腕は柊をすり抜ける。 勢い余った少女が、体勢を崩して、そのまま柊に……ぶつか……らない!? なんで!? 少女は、右腕と同じように、柊の身体をすり抜けてヨタヨタとしている。


「「はぁ?」」


 僕と営業の声がハモる。


 柊は、キョロキョロしながら営業を見て、次に修蓮さんを見る。


「なに? なんか取り込み中だった? ……今なんかまずい感じ?」


 少女はムキになったのか、クレイジーダイ○モンドばりに、ドラララァと両手で柊を攻撃するが、その全てがすり抜けている。 ……夢でも見ているのだろうか?


「なに? ……ひょっとして、今……来てるの? 例のアレ」


 頭をポリポリと掻きながら尋ねる柊に、僕は頷く事しか出来なかった。 ……柊には、見えてないのか?


「ふぅん。 そっか。 じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃうかぁ」


 いつの間に出したのか、柊は左手の脇に赤い本を挟み、右手で煙管を吹かし始める。 その煙に巻かれた少女が苦しみ始める。


「……ぐ……くぅ」


 苦しみ始めた少女に、柊は、この辺か? と呟きながら、煙管を振りかぶって、思いっ切りスイングする。 その煙管は少女の横っ面に直撃し、少女はアホみたいに吹き飛んでいく。


「「「はぁぁ!?」」」


 今度は、僕と営業と修蓮さんがハモる。


 ……滅茶苦茶だ。


 そして、少女の周りに漂っていた煙管の煙が、まるで少女を縛るように纏わりついており、少女は起き上がろうとするが、本当に縛られているかのように、その動きを阻害しているように見えた。 ……やがて、少女は動くのを諦めたかのように、パタリと動きを……止めた。


 それを唖然として見ていた僕らだったが、やがて営業がその沈黙を破った。


「……自分、なんやの!?」


 営業の突っ込みが、閑静な田舎町の喫茶店駐車場に響いた。


「俺? 俺は、柊。 柊 鷹斗、妖狩りだ」


 柊は、ニカッと白い歯を光らせながら、ドヤ顔で決めて見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ