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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
書《しょ》の章

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初めての妖退治

「さて、どうしてくれようか?」


 若者は、社の中へ靴のまま乗り込むと、確かにそう言いました。 翁は、そんな若者を一瞥することもなく、両手に扇を出しました。 そして、そのまま二つの扇を投げつけ、そのままスススと流れるような動きで、若者に近付いていきました。


「よっ! ほっ!」


 私は、若者の動きを見て呆れました。


 避ける必要のない扇をそれぞれ寸前で避け、さらには翁の蹴りを足で受けようとしていたのです。 当然のように翁の蹴りは、若者をすり抜けて、翁はそのまま舞のステップを踏みました。


 私は、いてもたってもいられず、痛みが少し和らいだ体を引き摺って、社の方へと近付きました。


「避けなくていい! 奴の攻撃は全て、すり抜けるんだ!」


 私は、大声で若者に言いました。


「んなこと言ってもよぉ、見えたら反応しちまうでしょうがっ!」


 いつの間にか四つに増えていた扇を、これまた無駄に躱しながら、若者が返事をしました。 私は、その答えに納得しつつも、若者の体さばきに関心しました。 動きは素人そのものですが、なんだかんだ言って、あからさまに危険に見える扇は全て躱し、翁の蹴りや突きに対しては、しっかりと受けを取っていましたから。 まぁ、受けに関しては、結果的には全てすり抜けていましたが……


 いつの間にか、八枚に増えていた扇が舞いながら襲いかかり、その隙を付いて翁が、蹴る、突く、薙ぐ。 若者は、それらの攻撃を躱す、受ける、避ける、跳ねる。


 まるで、出来のいい殺陣(たて)を見ているようでした。


 どれだけの時間が経ったでしょう。 若者の息が上がり始めました。


「……煙管を使え!」


 その声が聞こえたのか、若者は右手に煙管を出しました。 ですが、若者は、私の想像した煙管の使い方とは全く違う使い方をしたのです。


 私は、煙管を吸って、煙を使って翁の動きを止める事を考えましたが、若者は煙管をすごい勢いで振り回し、八枚あった扇を全て叩き落としたのです。


「……なっ!?」


 次の瞬間、若者は、翁の蹴りをも煙管で受けようとし、煙管が弾き飛ばされました。


 ……そりゃそうでしょう。 煙管で蹴りを受けるなんて……無謀そのものです。


「違う! 煙を奴に吹きかけるんだっ!」


 私が叫ぶと、若者は動きを止めました。 その隙だらけの身体を翁の攻撃が襲いかかり、全てすり抜けました。


「……あぁ、もういいや! めんどい!」


 若者は、投げやりにそう言うと、眼鏡に手を掛けて、そのまま眼鏡をポイッと投げました。


「……え!?」


「ふうん。 眼鏡なしだと、こういう風に見えるんだ……」


 そう言いながら、若者は再び取り出した煙管をゆっくりと吸いながら、翁へと近付いていきます。 その間も翁は執拗に若者に攻撃を繰り出していましたが、もちろん全てすり抜けていました。 今まで全ての攻撃に反応していたのが嘘のように、若者は翁の攻撃を無視していました。 そして、そのまま……


「おらぁ!」


 怒声を上げながら、翁の面を煙管でぶっ叩きました。


 翁は、その衝撃で身体を回転させながら、吹っ飛んでいきました。 が、飛んで行った先に先回りしていた若者が、再び、反対方向に煙管でぶっ叩きました。 その自作自演のカウンターのような攻撃に、翁の面にヒビが入るのが見えました。


「しまった、しまった。 好き勝手に攻撃されてたせいでストレスが溜まってたみたいだ。 煙管で殴るんじゃなくて……煙で捕えなきゃ……だったよな?」


 そう言って、再び、翁の飛んだ先に先回りしていた若者が煙管を面に叩き降ろしました。 言ってる事とやってることが違う! 私は思わずツッコミそうになりましたが、グッと堪えることに成功しました。


 若者は、地面に叩き付けられ、平伏している翁の面に煙をゆっくりと吹きかけました。 若者の口から吐き出された煙は、蜘蛛の巣ような形で広がり、翁を覆いました。


 その瞬間、待っていたかのように、赤い本が若者の後ろから飛び出し、大きく口を開き、翁を丸呑みにしました。


 カラン


 後に残されたのは、音を立てて落ちた翁の面だけでした。


 ◇ ◇ ◇


「と、まぁ、こんな感じでタカと出会った訳ですよ」


 三善さんは、日本酒の入ったグラスを傾けながら、そう言った。


「……勘弁してくれよ……」


 柊が照れくさそうにそっぽを向く。


「そんなやったんや」


 いつの間にか、話に聞き入っていた與座が口を開いた。


「……でも、正直、盛ってんちゃう? ってか、法師とか呪術師の人らって、いっつもそんな感じで語るんやけど……、もし、全部本当の話っちゅうんなら、記憶力良すぎやん」


「ははっ、確かに私は記憶力には、少し自信がありますからね。 ま、盛ってる盛ってないは、聞いた人の判断に委ねるとしますよ」


 與座の言葉を三善さんが笑って受け流す。


「ね、ところで柊さ。 途中で眼鏡取った時、どんな風に見えてたの?」


「せや、俺もそれ気になっとってん」


「どうもこうもねぇよ。 ただ単にお面が浮いてただけだよ。 たぶん、こないだ烏丸のおっさんとこの悪魔がお茶運んでくれた事あったろ? あん時、眼鏡かけてなかったら、お茶が浮いて勝手に置かれるように見えたんだろうな……って、そんな感じ」


 どんな感じだよ!?


 思わず、心の中でツッコミを入れてしまうが、霊感がないということは、きっと、そういうことなんだろう。


「それにしても……その赤い本って……なんかすごいですね」


「あぁ、アレは……ちょっと特殊ですからね……」


 僕の呟きに三善さんが反応する。 その反応に少し違和感を覚える。


「三善さん、三善さんって、赤い本のせいで、妖が憎くて仕方ない感じになっちゃったんですよね? ある意味、そいつのせいで人生変わってしまったんですね? 赤い本のこと……憎くはないんですか?」


「……確かにね……赤い本のせいで人生は大きく変わりましたね。 赤い本に出会わなければ、普通に『山』の呪術師として、やっていたんだと思いますよ」


「せや、おそらくやけど、三善のおっさんが赤い本に憑かれたせいで、『山』じゃ、『赤の書』とのバッティングは御法度になってるんやで?」


「な? そうなんですか? それは申し訳ない事をしてしまいましたね」


 三善さんが、バツの悪そうな顔をする。


「でもね……。 正直言うと、私は赤い本の事が嫌いじゃないんですよ。 私が赤い本に憑かれた時……その過去を視る機会がありましてね。 まぁ、簡単に語れる内容ではないんで、敢えて触れませんが……。 その過去を視たせいか、できるだけ協力してやりたい……と言いますか……。 ……とにかく……嫌いじゃないんです」


 なんだろう? そう言われると、逆に、赤い本の過去が気になってしまうじゃないか!


「ま、この話はここまでです。 ご清聴ありがとうございました」


 そう言って、三善さんが笑いながら話を締めくくった。

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