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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
書《しょ》の章

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チート

「君……あそこで狂ったように踊っている妖を、……倒せるか?」


「は? 急になんだよ。 倒す? どうやって?」


 そりゃそうだろう。 そんなこといきなり言われたら、誰だって困るだろう。 私は、順番を間違えた事に気付きました。


「いいか? よく聞いてくれ。 本来なら、私が倒したいとこだが、どうやら私は、その赤い本に見限られてしまったらしい。 今までと同じように妖と戦う事が出来なくなってしまったんだ。 だが、あいつを放っておくと、犠牲が増えてしまう。 ……だから、君が倒して欲しい」


 あからさまに嫌そうな顔をする若者。


「え、やですけど? ってか、何? この赤い本……」


 私は、その若者の言葉に軽い違和感を覚えましたが、その時は、その違和感の正体がなんなのか、よくわかりませんでした。


「……そいつは、妖だ。 妖を憎んでいる妖だ。 妖を憎んでいるから、他の妖を退治するための道具を出してくれるんだ。 そして、あそこで踊っている奴も、また妖だ。 あっちの妖は、そこの建物……ある企業の寮なんだが……そこの住人を何人も行方不明にしている元凶だ。 さっきも言ったが、放っておくと犠牲がどんどん増える事になる。 嫌だって気持ちはわかるが……、頼む! この通りだ!」


 その言葉を聞いて、若者は寮を見ました。


「……俺、普通にあそこに住んでるんですけど……。 もしかして、アレか? 先週、いなくなった小林とかも、あいつのせいってこと? 仕事が辛くて逃げ出したんじゃなくて?」


「小林ってのは、期間工か?」


「あぁ、俺と同じ期間工で、ちょうど俺と反対の(ちょく)に入ってた奴だ」


 直……確か、工場勤務者のチーム分けみたいなものの名だ。 大概、二つの直が存在し、片方が昼勤の時、もう片方は夜勤を担当し、一週間で夜勤、昼勤を交代するシステムだったはずだ。


「おそらく……そうだ。 あいつは、人を喰らう。 跡形もなく喰らうせいで、行方不明扱いになってしまう……害獣みたいなものだ」


 そう、軽く霊視した結果、翁はかつて、権力争いに敗れ、服毒自殺した旧家の当主が妖化したものだった。 定期的に人を喰らい、己の末裔達の繁栄のために、政敵を葬り、幸運を呼び寄せる……そんな妖だった。


「……そか。 じゃ小林の仇討ちって訳だな……」


「…そうなるな……。 その……小林君とは……仲が良かったのか?」


「んにゃ。 直が違ったから、全然話したことない。 ま、でも、俺はもうすぐ、契約切れちゃうけど……放っておくと、俺の同僚達も危ないかもしれないってことだろ?」


「……そうだ」


「おし! じゃ、引き受けてやるかな? 妖退治ってやつを」


 そう言って、若者は、首をコキコキ鳴らしながら、社の方を見ました。


「赤い本は、手放すと、その眼鏡や煙管を出せなくなるから、腰の後ろ……ベルトのとこに挟んでおくと、邪魔にならない」


「りょ」


「とにかく、煙管の煙を浴びせて、奴の動きを止めろ。 その後は、この符をぶつけろ。 起爆符だ。 奴の瘴気と反応して爆発する。 それで弱ったところを赤い本が勝手に喰らうから、とにかく、煙を浴びせる事に集中するんだ」


 私は、なけなしの符の内、一枚を護身用に取っておき、残りの二枚を若者に渡しました。


「……そう言えば、さっき筆がどうのって言ってたよな?」


「そうだ。 その筆で作った符だ。 筆は、自分の思い通りの効果を持った符を作ることができるんだ」


「ふぅん」


 若者は、少し思案した後に右手に筆を出しました。


「おぉ、マジで筆だ! なに? これでなんか書けば符って奴になんの?」


「……そうだ」


「そっか」


 若者は、納得すると、私の来ているシャツに、筆で何か書き始めました。


「な、何をしている?」


「いや、脇腹の怪我が痛そうだし、放っておいたら死んじゃいそうだから……『治れ』って……」


「いや、流石に……」


 流石に、そこまでの効果はない……と言おうと思った矢先に、脇腹の痛みが和らいでいくのを感じました。 慌てて、傷を見ると、出血が止まっていました。 符は御札であるという先入観に縛られていた私には思いつきもしない、筆で服を符にするという発想にも驚きましたが、その効果の強さにも驚きました。 そして、そこでようやく先程の違和感の正体に気付きました。


 それは、赤い本に憑かれているのに、若者が妖を憎んでいなかったことでした。


 もしかすると……この若者に霊感がないために、影響を与える事が出来ないのでは? と思いました。 そして、赤い本が、今まで寄生主に『妖に対する憎悪』を植え付けるのに使っていた力を、全て道具の効力に上乗せしている可能性があるという事に気付きました。


「……はは、なんて……チートだ……」


 思わず、笑いが込み上げました。 こいつは……この赤い本は、そこまでわかってて、この若者に鞍替えしたのか……と、関心すると同時に、対妖において、これ以上ない、とんでもない化け物が生み出された事に笑う事しか出来ませんでした。


「それにしても……なんであいつ……踊ってんだ?」


 若者は、社で舞を踊り続けている翁を見ながら、首を傾げました。


「あいつは、ああやって踊ることで、波長の合いそうな者をおびき寄せようとしているんだ。 この辺は人祓いの符で結界を貼ってあるから、意味がないんだが……」


「人祓い?」


「その筆で作った、人が寄り付かないようにする符だ。 ま、君には効果がなかったようだが……」


「ふうん。 じゃ、あいつが踊ってる隙に、この煙管の煙を吹きかければいいわけね?」


 若者が持っていた筆は、いつの間にか煙管に変わっていました。 随分と器用に使いこなしている……。 私は、煙管を持った方の肩をぐるんぐるんと回している若者に、頼もしさを感じました。


「おっしゃ! ちょっくら行ってくるから、おっさんは、そこで安静にしときな!」


 そう言ったアロハの若者は、社の方へとズンズンと進んでいきました。

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