ミラクル体験! アメージング! 年末スペシャル
暗闇の中、ポツンと照明に照らされた電話ボックスと、ポッカリと空いた真っ暗なトンネルの前に、……二人の男女……
一人は、当番組でお馴染みの霊能者『河合 美子』
そして、もう一人は……
「まるで黄泉へ誘うかのように二人を待ち受ける暗いトンネル。 今夜は、年末スペシャルとして、二人の霊能者が、某有名心霊スポットへと足を運びます。 今宵、この二人は、どんな怪異と出会うのでしょうか?」
お馴染みのナレーションから始まった番組内で、大御所タレントのコメントから、再びトンネルの画面へと切り替わる。
六道 真念……かつて、『闘う和尚』として、多くの迷える霊を成仏させてきた霊能者……。 今宵、河合 美子とタッグを組んで、恐怖のトンネルへ挑む……
「……かなり……ヤバいですね……ここ」
少し、焦った表情で、力なく呟く河合美子。
「うむ。 多くの霊が……集まってきている……」
周りを見渡しながら、寒空にも関わらず、薄らと汗を浮かべる六道……
しばらく周りを見た六道が、スタッフに御守りを配り始める。 ここは……かなり……ヤバい……らしい……
◇ ◇ ◇
おぉ、とテレビの前で、騒ぎ出す面々。
今日は、修蓮さんの家で、忘年会兼『ミラクル体験! アメージング! 年末スペシャル』の上映会が行われていた。 集まったのは、主役の河合 美子に、六道。 そして、特番をプロデュースしたと豪語している與座に、柊、三善さん、僕とキキ。 そして……最近では参加するのが珍しい臨太郎。 もちろん、和泉さんと修蓮さんもいる。
修蓮さんが提供してくれた一升瓶の日本酒や、ビールにチューハイなど、少し……いや、だいぶお酒が入って、楽しそうに画面を見て、やんややんや言っているメンバーと、頬を赤らめている河合 美子。
ただ、僕は、番組に映っているトンネルに物申したい気持ちになっていた。
「與座さん、ここって……旧八又トンネルだよね?」
そこは、かつて僕がキキと出会った心霊スポット……『旧八又トンネル』だった。
「ん? せやで? なかなか、ホラーな感じ……出てるやろ?」
僕の質問に、得意げに返す與座。
「こっから、山村さんの猫鬼に協力してもろて、二人の心霊バトルが始まるんやで」
思いっきりネタバレをカマしてくる與座。 ……あの白い猫と二人がバトル……絵面的にどうなんだろ?
「猫の霊と二人が闘うの? それって、どうなの?」
「あぁ、猫鬼は、化け猫みたいなもんやから、なんにでも、化けれるんやで? せやから、テレビに映る程度の出力で、そこの巫女の昔の姿に化けてもろうたんや」
キキを指差す與座。 この中で、キキを見れない臨太郎と河合 美子が、それぞれ全然違う場所を見ていた。
僕は、トラウマ級のキキとの出会いを思い出して、思わず身震いする。
「いや、あそこには今回のロケで初めて行ったけど……、君、本当にあんな所で降霊術とかしたの? すごいな……」
六道が呆れたように呟く。
「いや、今は巫女が一ノ瀬んとこおるから、だいぶあの場も静かになっとったけど、当時はもっとエグかったんよ」
なぜか、誇らしげに語る與座。 頬を両手で押さえ、照れているように身体をクネらせるキキ。 ……もう勘弁して欲しい。 そんな僕の思いを無視するように、與座がキキと僕の話を雄弁に語り始める。
「なるほど……それが、一ノ瀬君とタカの出会いって訳ですか……」
日本酒の入ったグラスを片手に、なぜか嬉しそうな三善さん。 そんな三善さんに修蓮さんが、さらにお酒を注いでいる。 傍にいる柊も日本酒を飲んでいるようだ。
「あ、そろそろやで!」
與座の声に、再び、皆が画面に注目する。
トンネルの暗闇に、御札だらけのボロを纏った、昔のキキの姿が映る。 それを見て、キャッと言いながら和泉さんに身を預ける河合 美子。 いや、あんた、撮影の時に散々見てるんじゃないの!?
「うわぁ……」
三善さんが、その映像を見て、引いたような声を漏らしながら、僕を見てくる。 なんだか、可哀想な子を見るような目に見える。
おわかりいただけただろうか? では、……もう一度……
少し、静かになった部屋の中に、テレビのナレーションが響く。 皆が、僕を見てるような気がしてきて、いたたまれない気持ちになる。
「こいつ、本当、変なところで度胸があるんですよ」
そう言いながら、ビールの入ったグラスを持って、やってきたのは、さっきまで和泉さんと河合 美子の近くにいた臨太郎だった。 ふと見ると、和泉さんは、河合 美子に捕まって、マンツーで飲んでいた。 きっと、下手くそな歴史ミステリーwを聞かされているのだろう……
「いやいや、度胸ありすぎだろ!」
「ほんまや、あ、こっからが二人の見せ場やで!」
珍しい六道のツッコミと與座の解説に、皆の視線が再びテレビの画面に戻る。 ……なんだか助かった気になった僕は、テーブルに置いていたビールの入ったグラスに手を伸ばす。
「まぁ、あれからだよな? なんか、今までと一気に生活が変わったのは……」
「あぁ、ホントそれ」
そう言いながら差し出してきた臨太郎のグラスに自分のグラスを軽く当てる。 きっとこいつなりに、僕を助けに来てくれたんだろう。 流石、モブ友。
「なんか……久しぶり……みたいな感じだな」
そう言いながら、ビールを呷る臨太郎。
「だな……。 なんか、和泉さんの仕事を手伝ってたんだって?」
「ん~、仕事っちゃ……仕事かな? ちょっと違う気もするけど……」
ハッキリしない臨太郎。 なんだかモヤモヤしないでもないが、それよりも、なんだか久しぶりに普通に話せているのが、嬉しくなる。
「そうだ……。 俺さ……好きな子が出来たんだ」
「え? マジ? 僕の知ってる子?」
「いや、和泉さんの手伝いしてる時に知り合ったんだ……」
「そうなんだ。 ……で、どんな子?」
「なんかさ……普通の女子大生って感じの目立たない子なんだ。 本当は、和泉さんには、もう手伝わなくていいって言われてんだけどさ……。 その子に会うために……もうちょい頑張ろうかなって……」
「そっか……。 応援するよ……。でも、僕より先に彼女作ったらダメだぜ?」
「航輝には、キキってのがいるじゃん」
「いや、キキは……」
そこまで口にして、ふとキキを見ると、修蓮さん、三善さん、柊のとこに混じって、楽しそうにしている。 出会った頃には、こんな風になるとは、夢にも思わなかった……。 なんだろう。 こんな風な日々がずっと続けばいいのに……そんな気がしていた。
「ま、いいや! その好きだって子、今度、紹介しろよ」
「もちろん! 真っ先に紹介するよ! ……うまくいったら……だけどな……」
臨太郎が、照れくさそうに、ビールを飲む。 本当、うまくいって欲しいな……。 そう思いながら、僕は臨太郎のグラスにビールを注いだ。
◇ ◇ ◇
番組が終わった頃、河合 美子は酔い潰れ、和泉さんの膝を占領し、困ったようにキョロキョロしている和泉さん。 與座と二人で楽しそうに笑っている六道。 僕はというと、臨太郎と一緒に柊のところに合流して、三善さんと修蓮さんの会話を聞いていた。
「それにしても……本当……お疲れ様でございました」
「いやぁ、運が良かったんです。 生きているうちに、あの『本』に解放してもらえるとは思っていませんでしたから……。 全部、こいつに出会えたおかげですよ」
そう言いながら、三善さんは、バンバンと柊の背中を叩いた。
「いってぇ……」
柊が不満そうな顔をしているのがおかしくて、思わず笑ってしまった。 そして、ふと思った……。 この二人……どうやって知り合ったんだろう?
「お二人は……どうやって知り合ったんですか?」
僕は思わず、そう尋ねた。
その質問に柊が、バツの悪そうな顔をし、三善さんが笑った。
「……そんなおもしろい話じゃないですよ?」
そう言いながら、三善さんは、柊との出会いについて、静かに語り始めた……
ここまで、読んでいただき、ありがとうございます。
なんと、ブクマが50を超えました!
嬉しいです! こんなにも多くの方に読んでもらえるとは……
感無量です!
次回から新章です!
柊と三善の出会いとは?
次回、新章『書の章』お楽しみに!




