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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
閑話

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柊兄弟の秘密

「なかなか、興味深いデータが取れたな」


「えぇ、こんなデータはなかなか取れるものではないものね。 私も満足だわ」


 柊 鷹斗のデータを見ながら、満足そうに笑う烏丸と、それに同意する香織さん。


「しかし、本当にこんなケースが存在するんだな……」


「そうね。 多胎児の場合は、稀にこういうケースが存在するのは、昔から確認されているみたいよ」


「そうなると、弟の柊 隼斗の脳波も見てみたい……と言うのが、正直なところだな」


「それは、彼が『山』に所属している以上、チャンスはいくらでもありそうね。 併せて、他の多胎児のデータも取りたいとこよね」


「まったくだ!」


 柊 鷹斗に霊感がないことと、柊 隼斗の霊力が高い事の原因は、同じものだ。 その原因を柊 鷹斗の覚醒時、睡眠時の脳波を見る事で確信した烏丸は、かなりの上機嫌だった。


 普通、霊感がないということはありえない。 それは、(アストラル)界に魄があるためだ。 魄と脳が情報をやり取りする以上、人によって強弱はあるものの、絶対に霊感は存在する。


 だが、実際、柊 鷹斗は霊感がない。 故に、妖……(アストラル)界と物質界の境界に住まう者を感じる事は出来ないし、その攻撃も効かない。


 では、柊 鷹斗に魄はないのか?


 否。


 柊 鷹斗にも魄は存在する。


 ただし、彼の魄は、自分の魂ではなく、弟である隼斗の魂に付着しているのだ。


 それが、彼に霊感がなく、隼斗の霊力が強い原因だった。


 多胎児の場合、胎内において、それぞれの魂と魄が近しい事から、それぞれの魄が混じり合う事が多々ある。 双子や三つ子の場合に、遠く離れた地に住んでいても、お互いの異変を感じ取る事が出来る例があるのは、このためだ。


 ……が、まるっきり、自分の魄が相手の魂に付着するのは、極めて稀な事であった。 長くこの世に存在し、並列に複数存在するメフィスト……香織さんですらも、実物を見たのは初めてだ、と言える程に……


 (アストラル)界とのデータのやり取りにおいて、送信と受信では、その強さは大きく違う。 受信よりも送信の方が圧倒的に強いのだ。

 柊 鷹斗は、自分の魂から離れた位置に存在する魄に、データを送信する事は出来ても、受信する事は出来ないのだ。 その結果が霊感ゼロという稀有な存在ということになる。


 送信の方が強いのであれば、妖への攻撃が効くのではないか? となるが、残念ながら、普通はデータの送信は、睡眠時にしか行われないため、そうはならない。 双子や三つ子のお互いの異変を感じ取る例も、覚醒時にデータを送信できる……いわゆる霊力が高い事が前提となっているのだ。


 逆に、二人分の魄が、魂に付着している隼斗はどうか?というと、彼は二人分の魄からデータを受信することになる。 これにより、霊感は通常よりも高くなる。 さらに、常にPGO波を放出し続ける事で、海馬が常に刺激され、リップル波の放出も強くなる。 その結果、(アストラル)界への干渉力が高まる。 通常、覚醒時にリップル波を出せるかどうかは、先天的なものだが、二人分の魄からのデータを受ける場合は、その限りではないと言えるだろう。

 結果、通常の人間と比べて、圧倒的な量の霊力の持ち主となる。


 これが、柊兄弟の秘密だった。


「やはり、そうなると……異常なのは、『赤の書』の方だな……」


 霊感がゼロの柊 鷹斗のデータを見ながら、烏丸が唸る。 それもそのはず、霊感がない者に、妖が慿く事などありえないのだから……


「……アレは、私達とは(ことわり)が違うのよ」


「……ほう? ということは、以前、チラリと聞いた……」


「そう……眷属って奴よ……」


 眷属……


 かつて、烏丸は、香織さんから聞いた内容を思い出す。


「確か……魄を……取り込む者……」


「えぇ、観測者……創造主……アザトース……空亡……。 その存在を感じ取った敏感な人間が、様々な名前を付けてきた存在ではあるけれど……本当の名前は、人間では発音出来ない……そんな存在。 『赤の書』は、その眷属……」


 かつて、『山』の法師の一人が魄について、こう言った。 「まるで、この世界の観測者にデータを送っているかのようだ」……と。


 本体は常に眠っており、魄を取り込む事で、この世界の有様を吸収しているだけの存在だが、時折、その眷属を産むためだけに覚醒することもあるのだと言う。 そして、生み出された眷属達は、積極的に世界に干渉し、主を楽しませる……そのためだけに、関わった人々の運命を捻じ曲げている……と、香織さんは語った。


「……ふむ。 なかなか物騒な話だが……ソイツが人類の敵になるような事はないのか?」


「敵? アレには、そういった概念はないわ。 なにせ、そうね……、アレにとっては全ての生物が、取るに足らない存在でしかないのだから……。 まぁ、強いて言うのなら、象にとっての蟻みたいなものね」


「なるほど……。 どうでもいい存在……だってことか……。 では、その眷属は?」


「そうね……。 人類というマクロな視点で見ると、敵にはならないわ。 彼らは人の運命を狂わせ、数奇な運命を背負わせることで、その記録を主に献上しているだけ……。 人類が居なくなったら、それも出来なくなるのだから……。 ただ、個人というミクロな視点で見ると……敵でしかないわね……」


「……そつか。 では、『赤の書』も?」


「…それは……『赤の書』の目的によるわね……」


「……目的……ね。 少なくとも、俺や、その周りの人間にとっての敵にならないよう祈るしかない……か……」


 烏丸は、静かにため息を吐いた。

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