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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
呪《じゅ》の章

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楠瀬の呪い

 長い前髪に隠れがちな目をパチクリさせながら、楠瀬がこちらを見つめる。 訪れる沈黙。 あれ? 僕、なんかおかしなこと言ったかな? そう思い始めた時に、山村が口を開いた。


「おい! 楠瀬! 聞いてるのか?」


「あぁ、これは失礼しました。 今まで、呪ってくれってのは、数多く言われた事があるんですが、呪いを解いてくれというのは、初めてなもので……こいつは、驚き、桃の木、山椒の木って奴でよ。 しかも、それが同じ"のせ"仲間の一ノ瀬君に言われるなんて、僕としては、感無量ってなもんですよ。 思わず、喜んで!と、二つ返事で応えてあげたい気持ちはあるんですが、いかんせん、それがどんな呪いかも、いつ掛けた呪いかも、てんで心当たりがないので、困ったな……と、あいなった訳ですよ」


「わかった! わかったから。 ……御託はいいから、出来るのか、出来ないのか、どっちだ」


 山村の語気が強くなる。 相当、イラついてるんだろうな。 それにしても、"のせ"仲間か……。 なんか……あんまり嬉しくないなぁ。


「山村さんなら、わかるでしょ? 僕が呪いを解ける訳がないじゃないですか? そんな事もわからないんですか? ひょっとして、あなた、山村さんの皮を被った妖かなんかですかね? そもそも、僕は……」


「あぁ、もういい! という事だ。 一ノ瀬君」


 山村が、楠瀬の言葉を遮って、早々に結論を出す。


「やっぱり思った通りの無駄足ってやつだ。 さっさと撤退して、烏丸部長に伝えよう」


 あぁ、やっぱり、ここから早く離れたいだけなんだろうな。


「でも、どんな仕組みの呪いかがわかれば、烏丸さんの助けになるんじゃないですかね。 だから、楠瀬さんも連れて行って、ノートを見てもらいましょうよ」


 僕がそう言うと、山村が心底嫌そうな顔をした。山村には悪いが、人の命がかかってるんだ。 やれることは全てやってやりたい。


「ん? ノート? 今、ノートって言いました? 僕の耳か頭がおかしくなってないのなら、今、確かにノートって言いましたよね? ノートを使った呪いで、なおかつ僕の呪いですか?」


「そうだよ。 なにかわかる?」


「えぇ、もちろん。 僕がノートに呪いをしたためたのは、後にも先にも、アレ一つだけだと思いますから。 あの頃、ちょうど僕は、自分のミツキというカッコイイ名前の読みがクラゲという読み方になると知って、絶望していた訳ですよ。 まぁ、後に、クラゆめと出会って、自分の名前も悪くないと思えるようになった訳ですが、あの頃は、もう世間も、そんな名前を僕に背負わせたりょうしんも、どうにか呪ってやりたいと、そんな事ばかり考えていた、そんな時期だった訳ですよ」


「おい! 四の五の言わずに、要点だけに絞れよ。 いつも、言ってるだろ?」


「えぇ、もちろんわかっていますよ、山村さん。 報告は結論から、要点を絞って、事実のみ。 推測や自分の考えを述べるのは、その後で……。 でしょ? そんなことは百も承知ですし、業務の際は、ちゃんと気をつけていますとも。 もっとも、気をつけていても、出来ているかどうかは別の話になりますが……。 でもね、山村さん。 山村さんはどうか知りませんが、少なくとも、僕は今日、オフなんです。 オフの日の会話に、仕事の報連相について、いちいち意識して守る必要がありますか? ありませんよね? もし、あるってんなら、そんな会話、こちらから願い下げな訳ですよ。 一昨日来やがれ、GoHOMEって奴ですよ。 お帰りは、あちらですってなもんですよ。僕の言っていること、わかりますか? どこか間違ってますか? 間違ってないですよね?」


 楠瀬の返事に山村が、お手上げのジェスチャーをする。 正直、そういうのは別の時にやってほしい……


「そうだね。 ごめんね。 貴重な休みにわざわざ時間を取ってもらって……。 もし、よかったら、この後、烏丸部長のとこに一緒に行ってくれないかな?」


 いろいろ言いたい気持ちをグッと抑えて、一緒に来て欲しい旨を伝えてみる。


「それは無理です。 意外に思われるかもしれませんが、そもそも僕は、人とコミュニケーションを取るのが苦手なんです。 しかも、相手は海千山千の生産部長ですよね? 一ノ瀬君は、山村さんと違って、いい人そうなので、協力したい気持ちはやまやまなんですが、流石にハードルが高いといいますか……。 ぶっちゃけ、無理です。 でも、ノートの呪いということであれば、そこまで気にするようなものではありません。 と言わざるを得ないです。 ですです」


 コミュニケーションが苦手というのは、全然意外ではないので、気持ちはわからないでもない。 ただ、そこまで気にするようなものでもないと言うのは、聞き捨てならない内容だった。


「気にするようなものではないってどういうこと? 少なくとも、二人の人間がその呪いで自殺してしまったんだよ?」


 そう言うと、楠瀬は、心底、意外そうな顔をした。


「自殺? それはそれは……ご愁傷さまでした。 でもでも、あの呪いは、そんな自殺するような強い呪いではないはずです。 なんせ、アレは、クラゲと読める名前を付けた両親に、ちょっとした嫌がらせをしようと、小学五年生の時に作ったものですから……。 流石に両親を呪い殺そうなんて、当時の僕が思うはずもありません。 一応、僕の両親は、思いっきり僕を愛してくれてましたから。 母は天然ボケで、いつも僕と父のやり取りを見てはコロコロと笑うチャーミングな女性でしたし、父は、少し学が足りませんでしたが、いつも僕を笑わせようと、全力で身体を張ってくれてましたから……。まぁ、結果的にクラゲと読める名前になってしまいましたが、二人ともカッコイイ名前を付けたいと、一生懸命考えてくれた事は、子供ながらに理解はしていました。 まぁ、理解は出来ても、納得は出来ませんでしたが……。 天然ボケの母と、学の足りない父、そりゃ、クラゲになっても仕方のない事だったと、今では、少し納得しています。 ってな訳で、あの二人にちょっとした嫌がらせをしたい……。 そんな子供心から作った、僕にとっての初めての呪いな訳ですよ。 だから、はっきりと断言出来ます。 アレは、そこまで気にするようなものではない……と」


 そこで僕は、三善が『ぼくに大へんな運命を押し付けた両親を呪う』という言葉がノートに書かれていた、と言っていたのを思い出した。 なるほど、クラゲと読める名前を付けた両親を呪うために作ったという事だったのだ。


「じゃあ、本当はどんな呪いだったの?」


「よくぞ聞いてくれました! あのノートは、我ながら最高傑作だったと、自負しております。 なんと、なんと、あのノートを見ると、次の日から、もう一人の自分が見えるようになる訳です。 しかも、それが日に日に近付いてくる。 これは流石に怖いでしょ? 僕なら、恐怖のあまり、パニパニ状態になること、間違いなしですです。 もちろん、狙い通り、両親も相当な恐怖を感じていました。 してやったりとは、正にこの事ですよ。 そして、七日後、もう一人の自分にタッチされます。 鬼ごっこなら、タッチされたら、鬼交代な訳ですが、こいつは、そういう呪いではありません。 ん? あ、でも、鬼交代ってのもなかなかの呪いてすよね? この発想は、なかなか使えるんじゃ、ありませんか? ね? 山村さんも、そう思いませんか? あ、これマジ使えますよ。 次の呪いの依頼が来たら、そういう呪いにしちゃいましょうか? タッチされたら、今度は遠くから、勝手に自分が動くのを見る訳ですよ。 ヤキモキしますよね? 焦れったいですよね? しかも、そのもう一人の自分が、大事な人を傷付けたり、社会的にアウトな行動なんかをしたら、それこそ、アレですよ。 発狂もんですよ。 あ、これ、本当、恐ろしい呪いですよ。 ね? おっと、話が逸れましたね。 ってな訳で、もう一人の自分にタッチされたら、過去の自分の黒歴史の記憶が鮮明に蘇る。 そういう呪いです。 これには、流石の両親も、頭を抱えて恥ずかしがってましたね。 悶絶って奴ですよ。 ドッキリ大成功とは、正にこの事ですよ。 という訳で、あのノートは、今までの僕の作った呪いの中でも、TOP3に入るほどの結果大満足の最高傑作と言えるでしょう」


 楠瀬が、盛大に話を転がしながら、満足そうな顔でノートの呪いの秘密を語った。 その内容に思わず声が漏れる。


「え? それだけ?」


 思わず、聞き返してしまう。 大筋は、三善の語った内容とほぼ同じだったが、結果が全然違うのだ。


「えぇ、そうですよ。 それだけですよ」


「嘘つけ! 実際、人が二人も死んでるんだぞ? しかも、昔から憑いてた魄をカウントしたら、三人が自殺してるんたぞ? それだけな訳がないだろ!」


「そう言われましても、それだけの呪いなんですから、他に言いようがないです。 強いて言うのなら、三人とも、たまたま死にたくなるほどの恥ずかしい過去があったということでしょうか? でもでも、ノートを読んだ三人が、三人とも、たまたま偶然、死を選ぶ程の恥ずかしい過去を持っていたというのは、無理があるんじゃないですかね? となると、結論は一つですよ。 自殺と呪いは関係ない。 たまたま、ノートを見た人間が、もともと自殺志願者だった。 ノートを見て、恥ずかしい過去を思い出した、そのタイミングで自殺してしまった……。 ということになるてしょうか? ん~、でもでも、やっぱり、この結論も無理がありそうですね? 謎が謎を呼んで次回、最終回! ノートを見た三人の運命は如何に!? たこに!? アワビにクラゲ! ってとこでしょうか?」


 何を言いたかったのか、さっぱりわからないが、なんで自殺に至ったのかはわからない……ということだけはわかった。


「という訳で、どうやら僕は、力になれそうにないですね。 でも、これだけはわかって欲しいのは、僕はそんな無差別に自殺するような、恐ろしい呪いを作った覚えはない、という事です。 実際、いの一番に見せた両親は、今も元気に笑っていますよ。 多分」


「無差別に山手線に囲まれた土地を呪った奴が、よく言うぜ! くそ! 結局、どういう事だ?」


「……謎は……謎のままって……事ですよ」


 山村が悔しそうに呟いたのを聞いて、思わず言葉が漏れた。


「ですです。 あ、そうだ! 僕はこの件で、一ノ瀬君の力にはなれませんが、君は、良い奴なんで、相談してくれれば、無償で一回、呪いの仕事を請け負いますよ。 対象は何人でも構いませんので、いつでも相談してください。 出血大サービスって奴ですよ。 二回目からは営業を通して、お金取りますけどね」


 手がかりがなくなり、モヤモヤした気持ちになっている僕に、楠瀬は、空気を読むことなく、ニコニコしながらそう言った。

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