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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
呪《じゅ》の章

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烏丸の研究

 さて……與座君以外が部屋からいなくなったのを見計らって、俺はノートの表紙を改めて見る。 もしかすると、このノートを見ることで、一週間後に死んでしまうかもしれない……


 緊張と興奮が、静かに全身に伝わる。


 やはり、いい! こういう瞬間が俺は大好きだ。


 おっと、忘れるとこだった。


「與座君、必要になったら声を掛けるから、そこで寛いで、スマホでも、なんでも好きにやってくれたまえ。 香織さん、彼にお茶を」


 俺は、美しい悪魔に声を掛ける。 その姿は、俺にとって特別な存在の姿を模してもらっている。 すでにこの世にはいない特別な存在の……


 あれは、もう30年近く前の事だ。


 ◇ ◇ ◇


「幹ちゃんは、人を信じないよね?」


 当時、付き合っていた三歳年上の飯田(いいだ) 香織(かおり)の言葉だった。


「……信じてないと言うか……誰にも心を開かない感じがする」


「そんな事ないさ。 普通に香織さんの事は、信じているし、他にも信じてる人はいるよ。 ま、そう多くはないけどな」


「ん~、なんかこう、『誰も俺の事は、わかってくれないのさ』みたいな空気感?」


「人なんて、どれだけ言葉を尽くそうが、心の内なんて分かり合えることなんてないだろ? だから、分かってもらおうとは思わないだけさ」


「でも、それって相手に分かってもらおうって努力をしてないだけなんじゃない? 相手を分かろうとして、相手に分かってもらおうとして、拒否られるのが怖いだけなんじゃない?」


 その言葉に衝撃を受けた。


 それまでは、香織さんの綺麗な顔立ちから……、なんとなく落とせそうだったから……、そういう理由で付き合っていただけだったが、その言葉がキッカケで俺は、本当の恋に落ちた。 もちろん、それまでにもお付き合いした女性は何人もいたが、ほとんど成り行きで、本当に好きだったか? と問われると、答えはNoだった。


 その日、俺は、初めて本当の恋に落ちたのだ。


 そこからの日々は、まるで生まれ変わったかのような日々だった。 彼女の言動の一つ一つに一喜一憂し、彼女の笑顔を見るためなら、なんでもやった。

 それまで斜に構えて見ていた世の中も、そう悪くないものだと、思えるようになった。 それまでとは打って変わって、落ち込む事も多くなったが、充実していたし楽しかった。 こんな日がずっと続けばいい……そう思っていた。


 だが、そんな日々も、突然終わりを迎える事になった。


 彼女が、交通事故で亡くなったのだ。


 俺とのデートの待ち合わせに向かう途中の事だった。


 俺は、後悔した。


 俺が、彼女を迎えに行っていれば……

 俺が、その日、デートに誘わなければ……

 俺が、彼女と付き合わなければ……

 俺が、あの日、彼女と出会わなければ……

 俺が、生まれてこなければ……


 当時、俺は、自分の知的好奇心を満たす、その延長線で大学の理工学部の助手として働いていたが、彼女が亡くなった事で、研究テーマを変える事にした。


 テーマの候補は二つ。


 時間遡行と死者蘇生だ。


 過去に戻り、彼女の死を回避する。 もしくは、彼女を生き返らせる。 その二つが生きる目的となった。


 当初、死者蘇生よりも、時間遡行……いわゆるタイムトラベルの方が、可能性が高いと考えていた。 幸い、専攻していた理工学の方向性を変えるだけで済むので、量子論を取り入れ、タイムトラベルの研究をしつつ、隙間時間で死者蘇生について、調査することにしたのだ。


 だが、どれだけ研究しても、未来へ行く理論は確立できても、過去へ戻るための理論については、仮説すら立てられずにいた。 いや、正確には仮説は立てる事は出来た。 ただ、それはあくまで机上の空論であり、その時点で人類が観測しうる範囲内において、必要不可欠な要素、ワームホールの存在を立証できていなかった。 要は、実現が不確かなお遊びの仮説しか立てられないのだ。


 俺の計画が実現困難だと分ければ分かるほど皮肉な事に名が売れていき、それと反比例するように、時間遡行への研究意欲は低くなった。 代わりに死者蘇生の研究比率がどんどん高くなっていった。


 死者蘇生を考える上で、一番大事なのは死者の魂だろう。魂というものが存在し、それが死者の国にある。 それが大前提だった。


 残念ながら、彼女の身体は、すでに遺族により火葬され、その身体は、髪や爪などの一部を除いて、俺の手にはなかった。 では、どうやって蘇生するのか? 答えは、器を用意し、そこに死者の国にいる香織さんの魂を入れることで、死者蘇生と定義した。


 器は、どうでもよかった。 出来れば、彼女の一部からクローンを作り、そこに彼女の魂を入れ込めれば完璧だったが、当然、年齢はかなり低いところからのスタートになる。 昔は、見た目でなんとなくパートナーを選んでいた自分が、変われば変わるものだ。

 今は、見た目や年齢はどうでもよく、香織さんの中身が備わっていれば、それでいいと考えていた。


 それに、魂の存在を確認できれば、もしかすると、自分の魂だけを過去へ送るということも可能かもしれない。


 いつの間にか、俺の研究は、魂の研究がメインとなった。


 魂とはなんなのか?

 性格は、遺伝と経験で決まる。

 では、魂の性格はどうなのか?

 脳というハードで演算した結果が、

 魂にバックアップされるのか?

 霊と魂の関係は?

 霊と魂がイコールだとすると、

 脳や神経がない霊は、どうやって考え、

 どういう理屈で動くのか?


 俺は、脳と魂に密接な関係があると仮説を立て、脳、魂、霊についての研究を本格化させた。


 調査を進めていくと、再び行き詰まることとなる。 例えば、臨死体験。

 西洋でも東洋でも、臨死体験中に見る景色には共通点があった。 川と花畑だ。 遠く離れた地でも、三途の川だったり、ステュクス川であったり、名称は違うものの、生者と死者の国を峻別(しゅんべつ)する川が存在し、臨死体験者の証言にある、花畑を見たというのも、世界共通の証言であった。 当初、これは、死者の国が存在する証拠だと考えていた。


 だが、脳科学を研究していく過程で、死の苦痛を和らげるために分泌される脳内麻薬によって見る夢でしかなく、その景色に共通点があるのは、生物の本能として、心安らぐ景色が共通しているに過ぎないからだと考えられた。 個としてではなく、種としての共通認識。 いわゆるユングのいう集合的無意識の領域という事になる。

 また、生者と死者の国を分ける川に関しても、文化と共に国を跨って伝わっただけだと考えられた。 臨死体験の際に見える景色に川があるのだから、さぞかし広まりやすかっただろう。


 霊に関しても、メディアに出てくる有名な霊能者を何人も当たってみたが、内容がブレることが多く、よくよく話を聞くと、矛盾する内容も多くあった。 共通しているのは、世間で浸透している霊のイメージに当たる部分のみだった。 もとろん、霊がいると言われた場所にも一緒に行ったが、俺には何も見えなかったし、感じなかった。


 結論として、霊などいないし、死者の国も存在しない……という事だった。


 そうなると、魂自体の存在も怪しくなってくる。 それは、香織さんと会うことが二度とないことを意味していた。 だが、不思議と絶望はなかった。


 研究を続けていくうちに、確信できる事が二点あったからだ。


 一つは、脳の中に、何に使われているかは分からない、送受信装置の役目を持っていると考えられる部分が存在すること。

 そして、もう一つ、それは理工学や量子論を専攻している時にも感じていたが、この世界には、人間以上の存在が介入しているかもしれないという事だった。 この世界は……、この世界に生きる者は、絶妙な形で設計されていると感じられるのだ。 これが偶然出来たと考えるには、確率的に有り得ない……。 それほどの確率なのだ。


 脳の送受信装置に関しては、希望的仮説ではあるが、仮説を立てることができた。


 我々の本質……いわゆる魂は、別の世界にあり、そこから身体という乗り物を操縦している……。 そう考えると、ユングの言う集合的無意識にも別の意味が出てくる。

 睡眠時、夢という形でアクセスするという集合的無意識。 これが魂の存在する世界だとしたらどうだ? 実際はアクセスしているのではなく、睡眠時に魂の存在する世界に帰っているだけで、その世界の状況を脳が、無理矢理、形にしようとしたものが夢だとしたら?


 そう考えると、魂とはデータサーバのような世界で揺蕩っている存在なのではないか? と仮説を立てる事が出来た。

 もし、そうなら、アクセスする時間軸をズラす処置さえできれば、魂のみを過去へ飛ばすことも可能かもしれない。 しかし、そのための方法は、とんと想像できない。


 また、もう一つの、人間以上の存在に関して考えれば、神や悪魔などの存在、果ては妖や化け物など、そう言った存在を利用すれば、願いを叶える事が出来るかもしれない。


 俺は、さらに研究内容を変更し、神、悪魔、妖、化け物の中で、比較的、願いを叶えてくれそうな悪魔と接触する方法を模索することにした。 悪魔と契約できれば、魂と身体のアクセスする時間をズラす事が出来るかもしれないし、魂だけでなく普通にタイムトラベル出来るかもしれない。 また、場合によっては死者蘇生も可能かもしれない。


 俺は、古い文献や、伝承など悪魔が出てくる物ならなんでも……と、片っ端から漁りまくった。 ソロモン、ゲーテ、聖書、稲生物怪録、クロスロード伝説……。 有名所から、聞いたこともない、誰が書いたか分からないようなものまで、片っ端から読み漁った。

敢えて、本文では書きませんが、

烏丸の実家は太いです。

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