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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
呪《じゅ》の章

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クスノセ ミツキ

「以上が、私の話です。 正直、私には、この呪いをどうにかできる気がしません。 ですから、……可能なら烏丸さん、貴方には手を引いて欲しい。 この呪いの犠牲者は、私で最後にしたいのです」


 三善は、そう話を締め括った。 山村と與座の様子を窺うと、黙ったまま考え込んでいた。 柊は複雑そうな顔をして、三善を睨んでいた。 烏丸はと言うと、顎に手を当てて、こちらも何か考え込んでいるようだった。


 僕は、三善が『山』の呪術部にいた、という情報で、いろいろと合点がいった気がしていた。 そもそも、『山』の霊や妖に関する知識は、僕の知る一般的なものとはかけ離れていると感じていた。 『魂』とか『魄』とか……。 でも、柊の語る霊や妖の話との共通点は多く、ルーツは近いんじゃないかと感じていたからだ。


「……確かに、貴方の話からすると、なかなか難しい呪いのようだ……」


 烏丸が静寂を打ち破るかのように、言葉を発した。


「……一つ、仮説を立てることはできる……が、果たして、そんな事が可能なのか? といったところだな……」


 今の話から、仮説が立てられるんだ!?


「山村さん……、クスノセ……ミツキ……って……」


 驚いている僕を尻目に、與座が山村に向かって呟いた。


「あぁ、おそらく……そうだろうな……」


「え? もしかして、二人ともクスノセ ミツキを知ってるの?」


 二人の会話が聞こえた僕は、思わず、声を上げる。


 三善が、こちらを見る。 そりゃそうだろう。 どうしようもない呪いの術者が分かったのなら、その本人に解呪させたいと思うのは、当たり前の事だ。


「……そうか。 クスノセ ミツキ……。 どこかで聞いたことのある名前たと思ったら、そういう事か……。 エースだな? 呪術部の……」


 烏丸が、二人に尋ねる。


「えぇ、おそらくですが、そうでしょうね。 楠瀬(くすのせ) 海月(みつき)。 海に月と書いて、『みつき』。 通称、クラゲ……。 呪術部のエースでしょうね」


 なんたる幸運! 僕の記憶が確かなら、そのクラゲと呼ばれている人は、今、『山』にいるはずだ。 なら、さっさと解呪してもらえば問題は解決だ。 それにしても……海月だからクラゲなんだ……。 なかなか、子供にクラゲと読めるような名前は付けないと思うんだが……


「……そうか。 では、解呪は……」


「えぇ、本人には無理でしょうね」


 僕の予想と裏腹に、暗い声を出す烏丸。 そして、それに答える山村。


 ……どういう事だ?


「……呪術部のエース、楠瀬 海月は特殊体質らしいねん」


 與座が、補足するように説明を始める。


「噂では、息をするように人を呪う……、そう言われてんねん。 意識してか、無意識かは、はっきりしいひんが、やること成すことの殆どが、呪いに結び付く……。 そんな特殊体質やって話や。 ホンマか嘘か、知らんけど……」


「……その噂は、八割が本当の事さ。 あいつが、『呪う』と決めて動いた時は、その動きがどんな動きだろうが、結果的に全てが相手を呪う儀式になってしまう。 厄介なのは、あいつが『呪う』と意識していなくても、うっかり呪ってしまう事もしばしばあるってとこだ」


 なに、その体質!?


「未だに語り草なのは、『山手線うっかり呪っちゃった事件』だな」


 数年前、楠瀬 海月が山手線に乗った時に、うっかり寝てしまう事があった。 彼は、そこから何周も廻り、起きた駅で慌てて降りて、反対回りの電車に乗り換えて、また居眠り……。 そんな事を何度か繰り返して、最後に降りた駅で、寝惚けて呟いた恨み言を呟いた。 それが、偶然、一つの儀式の形になり、山手線に囲まれた地域に大量の呪霊が召喚されてしまったという事件があったらしい。


 円のような、閉じたルートを何周か廻り、さらに逆回りで何周か廻り……そういう行為を何度か繰り返す事は、あまり良くないという事だった。


 その時は、呪術部の面々が、寝る間も惜しんで呪霊を退治するハメになったらしい……と、山村が語る。 今でも、一部の退治し(そこ)ないがいると思われるらしく、山手線に囲まれた地域は、オカルト系の事件が絶えないのだ……と。


「ま、俺が呪術部に異動になる前の話だから、どこまで本当かは、分からないがね。 ただ、実際、多いよ。 あの辺からの依頼は……」


 問題なのは、その手順が正規のものではなく、偶然、術式になってしまう事らしく、再現も、解呪もできないのだと、苦虫を噛み潰したような顔で続ける山村。


 ……『山手線うっかり呪っちゃった事件』……内容も、そのネーミングセンスも『凄まじい』の言葉しか出てこない……


「だから、君らが、うっかりクラゲに出くわして、うっかり呪われる事がないように、俺が案内について行くように言われた訳だ……」


 そう言いながら、肩を落とす山村。


「このノートが、噂の呪術部エースの作と言うのなら、俺の仮説も正しいかもしれない……。 ちゃんと、ノートの中身を見てみないと、なんとも言えないが……」


 黙って聞いていた烏丸が、顎に手をやりながら呟く。


「……とは言え、せっかく術者が分かったんだ。 ダメ元で当たってみるのも手だろうな」


「……そうなると、当然、俺ですよね? クラゲんとこに行くの……」


 烏丸の提案に、山村が心底嫌そうな顔で呟く。


「……一ノ瀬君。 一緒に付いてきてくれ。 そこの隂と一緒に……」


 山村が一人で行きたくないと、僕とキキを誘ってくる。 ってか、なんで僕?


「君なら、あいつも警戒しないだろうし……」


「では、決まりだ! 俺と香織さんは、このノートの中身を確認して、対処方法を考える。 與座君はノートを見ていない者のサンプルとして、ここに残って協力してもらう。 柊君と三善さんは……まぁ積もる話もあるだろうから、二人で会話を楽しんでてもらうおう。 そして、山村君と……そこの……え……と、一ノ瀬? 君は、楠瀬 海月のとこに行って、解呪可能か確認する。 ってとこだな」


 烏丸が勝手に、いろいろ決めてまとめにかかる。


「待った! さっきの話を聞いても、本当にそのノートを見るんですか? 」


 三善が慌てて止めに入る。


「もちろん、見るとも。 見ないとせっかく立てた仮説が正しいか検証もできないし、対処方法も立案できないからな」


「……それに、その悪魔は……信用できるんですか?」


 三善が香織さんに、警戒するような眼差しを向ける。


「彼女なら大丈夫! 俺の知的好奇心を満たす、そのために全力で協力するという契約を結んでいるからな。 それに、悪魔……ではなく、香織さんと呼んでもらおう」


 烏丸のその言葉に、香織さんがエレガントなお辞儀をする。


「不肖ながら、三善様の呪いを解呪できるよう、全力で協力させていただきます」


 顔を上げた香織さんは、ドキリとするような妖艶な笑顔を浮かべた。 やっぱ、美人さんだなぁ。


「……しかし……」


「師匠! もう、ここまで来たら、腹を括りな! 烏丸のおっさん、頼んだぜ!」


 柊が、三善の腹を殴るような仕草をしながら、烏丸に言い放つ。


「任せたまえ! あ、そうそう、この部屋を出た右に休憩所がある。 自販機もあるから、師弟水入らずでゆっくりしてくるといい。 あと、俺はおっさんじゃない。 今回は許すが、次はないからな?」


「サンキュ」


 柊は、そう言いながら、三善を引きずるように、部屋を出ていった。


「……じゃあ、俺らも行こうか……」


 山村がため息を吐きながら、声を掛けてくる。 僕は、仕方ないので、キキと一緒に山村の後をついて行くことにした。 ふと、部屋に残る與座を見ると、なんだか寂しそうな顔をしていた。 まるで、ドナドナだ……


 ……それにしても、楠瀬 海月……なんか、癖が強そうだな……


 そんな事を考えながら、烏丸の部屋を後にした。

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