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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
呪《じゅ》の章

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ドッペルゲンガー

 次の日、驚いた事に、本木は出勤してきました。


「いや、こんなことくらいで、休む訳にはいきませんよ。 あれから、一晩考えてみましたが、西川さんの死のショックで、ノートを見たら、ドッペルゲンガーが近付いてくるという思い込みをしてしまったんだろう……と」


 ……そうなんだろうか?


 確かに、霊的な要因は、一切、見つからなかった。 すべては、思い込みに過ぎないのか? 私は、ノートを持った私の傍らに立つ二体の魄を見ました。


 思い込みだけで、二人も小学生が亡くなっている? ありえるのか? そんな事が……


「ちなみに……ドッペルゲンガーは、今、どの辺ですか?」


「すぐ真後ろです……。 きっと、明日には、この思い込みも覚めて、何も見えなくなっているでしょう」


 彼は、自分に言い聞かせるように、そう言いました。


「わかりました。 念の為、授業が終わったら、用務員室へ来てください。 ……いや、私が教室まで迎えに行きます」


 私は、授業後、彼が自殺しないように見張ろう……そう考えたのです。


「はは、心配し過ぎですよ」


 彼は、少し引き攣りながら笑いました。


 私は、彼と別れ、自分の仕事に戻りました。 まずは、登校時間を過ぎたところで、校門を閉める仕事です。 校舎を出ると、遠くに、なんとなく見覚えのある人影が見えました。


 最初は、なんの気も止めずに、校門へと向かったのですが……ふと、気付きました。 その人影が、私と一定の距離を保とうとしている事に……


 そこで、ようやく私は、それがドッペルゲンガーかもしれない……と、思い至りました。


 ようやく、お目にかかれたドッペルゲンガー……。 やはり、本木の言うような思い込みではありえない。 そう思いました。 そして、これで、やっと攻撃できる。 私は、安易にそう考えました。


 ……しかし、距離が離れすぎている……。


 私は、グラウンドの隅に捕縛符を丸めた状態で置きました。 赤の書で出した道具で造った特性の捕縛符です。 皆さんは、赤の書が出す筆は、ご存知ですよね? 私は、その筆で造った符をかなりの数、ストックしていたのです。 効果は単純で、相手の瘴気や霊力に反応して、植物のツタのようなものを出して捕縛する……。 それまで多くの妖の動きを封じてきた実績のあるものでした。


 起爆符ではなく、捕縛符を選択したのは、ドッペルゲンガーを捕まえる事で、本木を救う手段を考えるためです。


 後は、ドッペルゲンガーがその位置に来るように、自分が位置を変えればいいだけです。 ドッペルゲンガーが、一定の距離を保つのなら、好都合です。 私は、捕縛符を置いた場所から離れました。 奴が追ってくる方向を見定めながら、捕縛符の置いてある位置に誘導しました。


 結果は、やはりと言うべきか……。 瘴気や霊力に反応して絡みつくはずのツタが飛び出す気配がありませんでした。 それは、つまり、ドッペルゲンガーに瘴気がないという事に他なりません。


 その時点で、私は『ドッペルゲンガーは、妖ではない』という結論を付けました。


 では、なんなのか?


 私は『(じゅ)』について、考えました。 もともと、私は赤の書に憑かれるまでは、短い期間でしたが、『(ここ)』の呪術部にいたものですから、『(じゅ)』については、専門と言えます。


(じゅ)』は、呪霊、もしくは瘴気を(もっ)て、対象に不調を齎すもの。 一部の例外として、毒を用いるものを『(じゅ)』と呼んでいるものもありますが、基本は呪霊や瘴気によるものです。


 今回のケースでは、呪霊でも瘴気でもない事がわかりましたので、毒などの一部の例外的なものという事になります。


 では、毒なのてしょうか? 例えば、神経毒のようなもので、自己像幻視を意図的に造り出すことは可能かもしれませんが、それが近付いてくるだとか、触れられたら自殺衝動に駆られるといった、複雑な状況を造り出す事は可能でしょうか?


 おそらく、無理でしょう。


 そもそも、そのノートに毒を仕込むだけでは、ページを見る見ないに関係なく、発動してしまいますし、最初の犠牲者が出てから十年経っているのに変質することなく、現在も発動するなど、無理があります。 そのページを見る事で、目から吸収するような不変的な毒なら話は別ですが……


 そうなると、まったく別のアプローチによる『(じゅ)』ということになります。 私は、用務員の仕事を急いで終わらせて、用務員室へ篭もりました。


 ノートを観察するためです。


 文字は、普通のインクを用いたボールペンで書かれているように思えました。 匂いも嗅いでみましたが、特に違和感のある匂いもしませんでした。 と、なると書かれている文章が問題かとも思いましたが、そもそも、そのノート自体に瘴気が纏わりついている訳でもありません。 どれだけ調べても、なんの変哲もないノートに二体の魄が憑いているだけでした。


 昼食を取る事も忘れ、ひたすらノートと向き合いましたが、結果は散々たるものでした。


 ふと、気付くと、授業が終わっていました。 私は、慌てて本木のいる教室へと向かいました。 教室には、本木の姿は見当たりませんでした。


「本木先生は?」


 私は、教室に残っていた数人の生徒の内の一人に声を掛けました。


「なんか、慌てて出ていったよ。 なんかあったの?」


 私は、なんてもないと答え、教室を飛び出そうとしました。


 しかし、飛び出すことは出来ませんでした。 子供達が叫び声を上げたからです。


 何事かと、子供達の方を見ると、数人の生徒が窓から下を見下ろし、残りの生徒が(うずくま)って、震えていました。


「……とうした? 何が……あった?」


 生徒達は、誰一人、その問に答えることはありませんでしたが、蹲っている生徒の一人が無言で窓を指刺しました。


 慌てて窓に向かうと、その下には男性がうつ伏せで倒れていました。 その頭部から、じわじわと血が広がっていくのが見えました。


 小学校は、混乱に包まれました。


 倒れていたのは本木でした。 授業が終わった後、職員室へ戻り、屋上の鍵を持ち出し、飛び降りを計ったようでした。


 本木の周りには人集りが出来、誰かが呼んだ救急車と警察が小学校に集結しました。 私は、その人集りの外の方から、その光景をぼおっも見ていました。 ……見ていることしか出来ませんでした。


 結局、私は彼を救う事ができませんでした。


 かなりショックを受けましたが、気を取り直し、用務員室へと戻りました。 ……少し冷たく思われるかもしれませんが、妖から依頼人を救えなかった事は、それなりにありましたので……


 用務員室へ戻ると、ノートの傍の魄が増えていました。 ……本木です。


 私は、ため息を吐きながら、本木の魄を霊視しました。


 予想通り、ドッペルゲンガーに触れられた後、激しい衝動に駆られ、その衝動に身を任せ、屋上から飛び降りたようでした。 こちらも、特に目新しいヒントが出てくる事はありませんでした。


 そこからは、自分に近付いてくるドッペルゲンガーを相手に、思いつく限りの手を尽くした訳ですが、すべての攻撃がすり抜けるだけの結果でした。 まぁ、瘴気を纏っていない幻のようなものなので、当然と言えば当然の結果と言えます。


 結局、残り三日というところで、私は死を受け入れ、お世話になった人達を訪ね回る事にしました。 そして、今日、弟子のタカを訪ねてきた……。 そういう訳です。

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