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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
呪《じゅ》の章

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武器と師匠と呪いのノート

 部屋に戻ると、香織さんがエレガントに出迎えてくれた。 やっぱり、美人さんだ。


「で、どうかな? 武器は決まったかい?」


 烏丸の質問に、香織さんが意味深に微笑む。


「そうね。 想像以上に難しいというのが正直なとこね。 そもそも、霊力が一切ないんだもの……」


 僕らへの言葉使いとは、若干、崩した感じの言葉で、香織さんがヤレヤレと言いたげに答える。 契約に基づいた対等な関係と言ってたから、敬語を使うのは、客である僕らにだけってことか。


 通常、法師や呪術師が使う武器というものは、霊力を少し流すことで、初めて妖に通用するものになるものだ、と山村が補足してくれる。


 妖とは、自然や教訓、思想や信仰の対象に瘴気が纏わりつくことで実体化する"精霊"と、人や動物の魄に瘴気が纏わりつくことで実体化する鬼、いわゆる"陰"の二種類に大別される。

 どちらにも共通する厄介な部分は、向こうはこちらを攻撃できるのに、こちらの攻撃は効かないことなのだという。


 では、どうやって攻撃を当てるのか?


 答えは、瘴気との親和性だ。 相手の持つ瘴気と親和性の高い武器であれば、瘴気をすり抜けることなく、こちらの攻撃が当たるというのが正解だ。

 そのために必要なのが、瘴気と性質の似通っている霊力ということになる。 瘴気や霊力の通りやすい素材を使った武器に、自分の霊力を通し、瘴気との親和性を高めた上で、……打つべし! 打つべし! 打つべし!


 山村の補足説明が、少しずつ熱を帯びる。


「なるほど……。 ならば……初めから瘴気との親和性の高い素材……ということか……」


 烏丸が、顎を撫でながら柊を見詰める。


「えぇ、そうね。 そうなると、銀……しかないわね」


「……となると、強度が心配だな……。 切断系の武器だと、どうしても表面の強度が必要になるから……、芯に高強度の金属を使った……鈍器ってとこか……」


「ふふ、普通とは逆の発想にならざるを得ない……わね」


 芯に霊力を通しやすい金属を使うのが一般的なのだと、香織さんが笑う。 今回の場合は逆で、芯に高強度で、表面に瘴気と親和性の高い素材を使う必要があるのだ、と。


「ハンマー、モーニングスター、ヌンチャク、メリケンサック……」


 おぉ、見事に主人公っぽくないチョイスが展開されている……


「いや、待てよ? ……叩き潰す系の大剣とかもいいな……」


「……大剣……いいわね」


「……大剣……いいよな」


 大剣!? どこかの黒い剣士みたいでかっこいいじゃないか!


「おいおい、勘弁してくれ! 大剣なんて、職質まっしぐらじゃねぇか!?」


 僕のワクワクに反して、柊が嘆きの声を挙げる。 ……大剣……かっこいいのに……


「まぁ、無難に特殊警棒ってとこか……。 あんまり、面白くないな……」


「えぇ、面白くないわね……」


 烏丸と香織さんが二人でガッカリしている。 僕もガッカリだ。 三人で、改めて、柊を見る。 自然と吐き出されるため息がシンクロした。


「大丈夫! 警棒だって、立派な武器さ。 棍棒よりは、お似合いの武器だと思うよ?」


 山村が、口の片側をクイッと上げて、フォローを入れる。 てか、棍棒って……


「だよな? 流石! 山Pは、わかってるね」


 山村の言葉に柊が調子に乗る。 山Pって……


「ん? 誰か……来たわ」


「さっき、與座君が柊兄のお師匠さんを迎えに行ったから、それじゃないかな?」


 香織さんが何かに反応し、山村がそれに答える。


「……出迎えて来るわ」


「ん。 頼んだ」


 烏丸と簡単なやり取りをして、香織さんが部屋から出ていった。


「さて、柊君。 うちで営業部に護身用として、支給しているタイプの三段式の特殊警棒にしようと思うんだが、それでいいかね? 実物が見たいなら、後で與座君に見せて貰ってくれたまえ」


「それで、おなしゃす」


「……本当に大剣じゃなくていいのかね?」


「特殊警棒でおなしゃす」


 余程、大剣を推したいらしい……


 てなやり取りをしていると、ノックが聞こえた。 どうやら、香織さんが、與座と柊の師匠を連れて、戻ってきたようだ。


「久しぶりだな! タカ!」


 扉が開いた後、開口一番にそう言ったのは、初老の男性だった。 人懐っこい笑顔とオールバックにされた白髪。 顔に刻まれた歴戦の皺は、六十代くらいの年齢を匂わせていた。 が、その割にピンとした背筋と小綺麗なジャケット姿の上からでも鍛えられている事がわかる身体付きから、四十代と言われてもおかしくない程の若々しさを醸し出しているように見えた。


「あぁ、失礼しました。 私は、三善(みよし) 清史郎(せいしろう)と申します。 ご存知だとは思いますが、そちらの柊 鷹斗の前に、赤の書の所有者をしておりました。 突然の来訪、受け入れていただき、誠にありがとうございました」


 名乗りながら、ビシッと礼をする三善。 さっき言っていた柊の『鬼教官』という言葉が、しっくりくるように感じた。


「これはこれは、ご丁寧に……。 私は、烏丸 幹。 ここ、生産部の部長をしております。 単刀直入に言わせていただくと、元赤の書の所有者……ということで、私の知的好奇心を満たすために、ご協力をお願いしたい……という打算あってのことですので、どうぞ、お気になさらずに……」


 おぉ、なんか、大人の会話だ。 さっきまでの烏丸の喋り方を知っているせいか、敬語で応える様を見ると、そう感じてしまう。


「なんと、部長さんでしたか……。 なるほど……。 それは喜んで、協力させていただきましょう……と、言いたいとこですが……」


 三善は、そう言って、言葉を濁す。


「やはり、不躾なお願いでしたか?」


「いえ、そういう訳ではないのですが……、その……私には時間がありませんもので……。 ご期待に添えられるか心配なんですよ」


「残念。 かなりお忙しいようですね」


「いえ、実は、私……おそらく、明日には死んでしまうと思いますので……。 申し訳ないのですが……」


 三善が、軽い感じでヘヴィな内容を言い放った。 その瞬間にその場の空気が、一気に重くなった。


「……それで、死ぬ前に弟子の顔を見ておこうと……それがこの訪問の目的でして……」


 ポリポリとコメカミを人差し指で掻きながら、三善が困ったような表情をした。


「ふむ。 死んでしまうとは……おだやかではないな。 見たところ、病気を患っているようには見えぬし……。 香織さん」


 あ、烏丸の言葉使いが敬語じゃなくなった。


「…………はい。 若干、肝臓が弱っているのと……寝不足があるようですが、仰る通り、今日明日どうこうなるような病巣は見当たりませんね」


 香織さんが、三善をじっと見た後、烏丸へ答える。 病気の有無もわかるのか……。 さすが悪魔。


「……悪魔……の力……か」


 三善が、目を細めて、香織さんを見る。 先程までの表情と打って変わって、厳しい表情だった。


「おっと、失礼。 彼女は、俺と契約してる悪魔でね。 特に危害を加えることはないので、安心してほしい。 だが、勝手に身体を分析した事は、謝罪しよう。 申し訳ない」


 三善はその言葉を聞いて、目を閉じて、静かに息を吐いた。


「いや、こちらこそ申し訳ない。 わずかとはいえ、妖を憎んでいた頃の感情が蘇ってしまったようで……」


 三善は、香織さんと烏丸に対して、ビシッと頭を下げた。


「……実は、明日死ぬ……というのは、病気なんかじゃなくて……、呪いのせいでして……」


 三善が困ったような顔で呟く。


「呪い? なら、よかった。 ここには、ちょうど専門家がいる。 山村君、もしよければ、解呪してやってくれないか?」


 烏丸の言葉に、山村が反応するよりも早く、三善が首を振りながら答えた。


「いや、呪いなら、私も知識はあるし、対処も可能なのですが……、なんというか……」


 なんとも歯切れが悪い。


「……普通の呪いとは違うようでして……」


 普通の呪い。 呪いの枕詞に普通はつかないよな? 普通。


「……どういうことですか?」


 怪訝そうな顔をした山村が、三善に尋ねる。


「……そうですね。 では、聞きますが、私の2mくらい後ろに……何か見えますか?」


 三善の言葉に、その場の全ての者が、三善の後ろを見る。 僕も見た。 柊もメガネを掛けて見ている。


 ……特に何もないように見える。


「……何も見えませんが……」


「……でしょうね。 奴は、私にしか見えない……」


 そう言いながら、三善は、持っていたバッグの中を漁り、一冊のノートを取り出した。


 そのノートの表紙には、『呪いのノート』と、子供が書いたような汚い字で書いてあった。

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