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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
呪《じゅ》の章

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與座の依頼

 與座から連絡があったのは、一週間ほど前の事だった。


 その日も、僕は、柊の部屋でキキと一緒に、まったりと寛いでいた。 臨太郎との仲は、相変わらず、付き合いが悪いままだった。


 ピンポーン


 僕らが、飽きかけていたモンストを惰性でやっている最中に、チャイムが鳴った。


 インターホンのモニターには、相変わらず、ほっそい目をした與座が立っていた。


「今日は、正式に仕事の依頼やねん」


 與座の発言に柊の顔が緩む。 この間の虛忘の件で、『山』から振り込まれた金額は、ハッキリとは教えて貰ってないが、僕のバイト代に臨時ボーナスが出たくらいなので、余程の額だったのだろう。


「これはこれは、エセ坊ちゃんじゃ、ありませんか? 今日は、如何様なご依頼で?」


 手を揉みながら、下卑た笑いを浮かべる柊は、完全なダメ商人と化していた。


「実はな、来年の節分に、『山』で一大イベントがあんねん。 って、エセ坊ちゃんって……」


「なるほど、なるほど」


 苦笑する與座を無視して、頷く柊。


「ほいでな、そのイベントで、柊兄に妖を退治して貰いたいねん」


「がってん」


 見事な即答だった。 僕は、その時まで、ここまで見事な二つ返事というものを見たことがなかった。


「……なんや、えらい適当な即答やん。 ……不安になってくるわ」


 おぉ、見事に韻を踏んでいる……


 ♪適当な 即答に 順当に 葛藤♪


 僕の中で、心のラッパー『DJ Ko→ki』が陽気にライムを刻む。


「まぁ、まぁ、俺は妖狩りだし、正式な依頼なら、断る理由もないんだし、あとは……げへへ……こいつ次第でさぁ」


 僕が心の中で、ラップの余韻に浸っていると、柊が右手でお金のサインを作り、ヒラヒラとさせた。 ゲスい……


「そら、『山』の正式な依頼やし、前とはレベチな妖相手やから、金銭的には、ごっついことになっとるわ」


 そう言いながら、與座は一通の封筒を柊に差し出した。


 訝しながら、封筒を開いた柊は中身を見て、魂の抜けたような顔をした。 ……にも関わらず、目がドルマークのようだ。 きっと、かなりの金額が書かれているのだろう。 帰ってこい! 柊!


「……この依頼、必ずや達成してみせましょう!」


 やけにいい声だった。


「待って、待って! 虛忘とレベチって……相当ヤバい妖なの?」


 僕は、思わず口を挟む。 はっきり言って、虛忘でもかなりヤバかったはずなのだ。 それよりレベチって……


「あぁ、かなりヤバい奴やで? いわゆる神様って崇められとるような奴やな。 『山』のランクで言えば、国滅級……いわゆるMAXレベルや」


「えぇ……」


「ま、柊兄なら、心配あらへんよ。 ちょちょいのちょいちょい、ちょいやさぁってもんや」


 僕の心配をよそに、與座がケラケラと笑う。


「地獄の沙汰も金次第! こんだけ貰えるんなら、神だろうが悪魔だろうが、ぶちのめしてみせよう、ホトトギスってとこだぜ」


 柊のテンションが高すぎて、もう何言ってるのかわからない……


「ただな……この案件、引き受けて貰うんには条件があるんや……」


「……条件?」


 與座の言葉で、雲行きが急に怪しくなってくる。


「せや。 条件っちゅうんは、今度、一緒に『山』に来て、専用の武器を造ってほしいってことらしいんよ」


「……武器?」


 與座が言うには、今度の妖は、神レベルなので、柊の持っている『本』よりも格が上ということらしいのだ。 そのため、『本』の力で具現化している煙管や、それから出る煙だと、攻撃が効かない可能性があるという事だった。

 そこで、『山』の武器職人に武器を造って貰い、それで神様を倒して欲しいという事らしい。


 それを聞いて、僕は虛忘の時に煙の網が破かれかけていた事を思い出した。


「……費用は、もちろん、そっち持ちなんだよ……な?」


 探るように柊が呟く。


「……それがな、どんな武器になるかは知らんけど、報酬から武器代を差っ引く形にするらしいんや。 もちろん、その武器は、柊兄専用なんで、そのまま貰うてもらうんやけど……」


 それを聞いた柊が、眉を寄せて腕組みをする。


「……でも、お高いんでしょう?」


 まるで、どこかのTVショッピングだ。 ただ、『山』の武器と言うと、本当に高そうなのでタチが悪い。


「……今ならもう一台ついて、このお値段! とか、言うてやりたいとこやけど、……正直、ピンキリや。 そこは、実際、職人に会って、適正を見てもらって決まるんで、現時点ではなんとも言えん。 せやけど、特別予算使う言うとったし、報酬まるまる取られて、タダ働きっちゅう事にはならへんから、安心し。 ……多分やけど」


「なんだかなぁ~」


 柊のテンションが、あからさまに下がった。


「なんだか、なんだかなぁ~」


「でも、前向きに考えれば、強力な武器が手に入る訳だから、そんなガッカリしなくても……」


 あまりに可哀想なのて、一応、フォローを入れてみる。


「あのな? こないだの桐生ちゃんとか覚えてるだろ? 日本刀みたいなの持ってたじゃん。 俺が折っちゃったけど……」


「そうだね。 ……それが?」


「その職人とこ行って、うっかり日本刀とか渡されてみ? 銃刀法違反じゃん。 『山』の奴はいいよ。 なんだかんだ政府公認なんだろ? 知らんけど」


 なるほど。 武器が貰えるとは言え、法律に抵触するような物なら、その後は使う機会が限られる。 そんなもののために、報酬を減らされては堪らないというのが、柊の言い分なのだろう。


「……確かに」


「ほな受けへんの?」


 僕の相槌を聞いて、與座が確認してくる。


「……ごめん、ちょっと考えさせて……」


 あ、これ、本命でもないけど、まんざらでもない相手に告白された時の女子の反応だ。


「考えるのはええねんけど、武器製作の期間考えると、そない時間あらへんよ?」


「そりゃ、わかるけど……」


「ほな、こうしようや。 一旦、『山』行って、適正のある武器を決めてもろうて、ほんで、金額見積もってもろうて、その額見て決めたらええやん」


「「天才か!?」」


 ◇ ◇ ◇


 と、いうようなやり取りがあり、今、僕らは『山』の本部へとやってきている。


「てっきり、『山』って、比叡山とかにあるもんだと思ってたよ」


 そこは、山でもなんでもないところに建てられた、大きな寺院のようなところだった。 高く長い外壁沿いに歩きながら、敷地内を覗いてみると、近代的な建物が数棟と、大きく立派な寺院が混在しているようことがわかった。 おまけに、正門と警備まで常駐しているときたもんだ。


『山』恐るべし……


「なんや昔は、実際、比叡山にあったらしいで。 なんでも、信長に攻められるんを予知して、その前に移転したとか言うてたわ。 どこまでホントかわからんけど……」


 織田信長が比叡山を焼き討ちしたのは、有名な話だ。 確か、織田側につかない僧兵とかの武力が邪魔だったとかなんとか……よく知らないけど……


「一応、地元では訳分からん宗教法人ってことで通っとるわ。 中心にでっかいお寺さん(もど)きと、周りに各部門のオフィスが入った事務棟、食堂、宿舎、いわゆる寮やね。 ほんでもって修練場、法師の養成学校も、そん中にあるわ」


「隼斗の奴、こんなとこで働いてんのか……」


 柊がボソリと呟く。 そういえば、柊の双子の弟、柊 隼斗は『山』で法師をやっているとかいう話だった。


「柊隊長は、退魔部のエースやからな……。 忙し過ぎて、ここには滅多におらんよ。 ま、まずは正門で受付や」


 與座に促されて、正門に行くと、守衛さんから用紙を渡され、名前と所属、目的を記入するように言われた。


「所属は未記入で、目的は、打ち合わせでええよ。 一応、ここ、一般人は入れんようなっとるもんやから、申し訳あらへんけど、協力したってや?」


 與座に言われるまま記帳すると、首から下げる形の来客と書かれたパスケースを渡された。 『山』だから、ひょっとして、とも思ったが、同行しているキキは、完全にスルーだった。

 まごまごしながら、パスケースを首に掛けていると、不意に声が掛けられた。


「やぁ、 久しぶり……ていうほど、久しぶりでもないかな? ま、いっか、二人とも元気だったかい?」


 誰だろう? と思い、声の主を確認すると、そこには天パこと、山村 人成の姿があった。

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