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ストレんじねス。 〜チートなアイツの怪異事件簿〜  作者: スネオメガネ
呪《じゅ》の章

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近付いてくる

 本木が、ソレを認識したのは、自殺した西川 和也のお通夜に出席した日の翌日の事だった。


 正確に言うと、一時限目の国語の授業の際、生徒達に教科書の音読をさせている間、席と席の間を歩いていた時だった。 途中、生徒の読みが引っかかる度に、訂正を口にしながら、歩いていると、視界の端、教室から見える中庭に、人が立っているのが見えた。


 最初は気にも止めなかったが、ふと、不審者かもしれない、という考えが浮かぶ。


 改めて、中庭を見てみると、スーツ姿の男性が、こちらを見ているのがわかった。 距離があるため、顔ははっきりわからなかったが、どこか見覚えのある風貌に思えた。


 誰か、父兄が忘れ物を届けに来たのだろうか?


 そんなことを考えながら、授業を終え、職員室に戻ると、今度は、職員室の窓から見えるグラウンドに、先程の男性が立っているのが見えた。


「あそこの人って、誰かの父兄かなんかですかね?」


「え? どこですか?」


「ほら、あそこですよ。 スーツ着た男の人」


「……いや、ちょっと、わかんないですね。 どの辺ですか?


 隣のクラスの担任に、訊ねてみたが、要領を得ない。 同じように、他の教師にも何人か訊ねてみたが、答えは皆同じだった。


 自分にしか見えていない……


 その結論に達した時、本木は混乱した。 どういうことだ? 自分は、病んでしまったのだろうか? 答えの出ない自問自答を繰り返し、その人物を無視しようとするが、無視しようとすればするほど、その人物が気になって仕方なかった。


 他の授業でも、中庭にいる男がチラチラと視界に入り、職員室へ戻ったら戻ったで、グラウンドにいる姿か視界に入る。 極めつけは、アパートの二階にある自宅へ帰り、カーテンを閉めようと窓に近付いた時に、通りの遠くの方にスーツ姿の男が見えた事だった。


 憑いてきている……?


 いや、憑かれているんじゃなくて、疲れているんだ。 イジメの可能性や、生徒の自殺……。 ここのところ続いた問題は、自分で思っているよりも、精神にダメージを与えているらしい……。今日は、早めに寝よう。


 そう結論付けて、本木は、早めに就寝した。


 ◇ ◇ ◇


(……これはダメなやつだ……。 今日は、早めに帰らせてもらい、心療内科へ出かけよう……)


 そう思ったのは、翌日の朝、カーテンを開けた際に、スーツ姿の男が目に入った時だった。

 若干、昨日よりも近付いてきている……。 そう思った。


 その日は、スーツ姿の男を出来るだけ、意識しないよう心掛けた。 ことある事に、チラチラと視界に入ってくるが、極力、意識しない、そう考えて過ごしてはみたが、そう思えば思うほど、意識してしまう。 はっきり言って、不毛だった。


 その日は、西川 和也と一番仲が良かった成田 貴志の話を聞く予定だった。 その後、事務仕事をこなし、定時で上がらせてもらい、心療内科へ向かう。 そう考えていたが、すっかり気乗りしなくなつていた。 だが、仕事は仕事。 気持ちが乗らないからと言って、投げ出す訳にもいがず、予定通り、放課後に成田 貴志を呼び出した。


「西川さんの件ですが、最近、悩んでいるような事はなかったかな?」


「……そう言えば……最近、かなり怖がっている感じだったよ」


 怖がっている……。 まさか、西川 和也も呪いのノートとか言うやつを真に受けていたんじゃ……


「それは、呪いのノートの事かい?」


「いえ。 それは、あまり気にしてなかったと思うけど……、なんで、そのノートの事知ってるの?」


 早まっただろうか? ここで、寺内 優治と牧田 泰彦の名を出すと、不審がられるかもしれない。 少なくとも、イジメの対象と思われる寺内 優治の名前は出すのは不味そうだ。


「実は、そういうノートがあったと、牧田さんから聞いてね。 彼は、中身は見てないらしいが、その……呪い? のせいじゃないかって心配しててね」


「ふぅん。 泰彦の奴、ビビりだからな……。 でも、違うよ? かっちゃんが怖がってたのは、呪いとかじゃなくて、なんだっけ? ドッペル……なんとかってやつだよ」


「もしかして、ドッペルゲンガーかい?」


「そう、それそれ! さすが先生! なんか、それを見ちゃうと死期が近いとか、ネットで見たって言ってた」


 本木は、うんざりした。 呪いのノートの次は、ドッペルゲンガー? そんなのある訳がないというのに……。 子供というのは、オカルト話なんかを真に受けて……


「そっか、西川さんは、ドッペルゲンガーを見たって言ってたのかぁ」


「ん。 ちょっと違うかな……」


 本木の言葉に、成田 貴志が首を捻る。


「だんだん近付いてきてるって言ってたから、見たんじゃなくて、見てた?」


 その言葉に、本木の心臓が、ドクンと波打つ。


 ……近付いて……くる……?


 恐る恐る、中庭を見る。 確かにこちらに近付いてきているスーツの男……どこかで見た事がある気がしたのは……まさか……


 ……自分自身?


 まだ遠くて、分かりにくいが、いつも鏡で見ている自分だと言われれば、そんな気がしてくる。


「……近付いてきてる……そう言ったんだね?」


「うん。 かっちゃんが死んだって言ってた日……。 すぐ真後ろにいるって言って、絶対に振り向かないようにしてた……。 先生、かっちゃんが死んだのって、本当にドッペルゲンガーってやつのせいなのかな?」


「…………」


「先生?」


「あぁ、ごめんごめん。 西川さんが亡くなったのは、ドッペルゲンガーのせいなんかじゃないよ」


「……本当? でも、かっちゃん言ってたけど、アメリカの大統領だった人も、エリザベスなんとかって人も、芥川とかいう人も、みんなドッペルゲンガーってのを見て、死んじゃったって……」


 成田 貴志の言っているのは、おそらくリンカーン、エリザベス一世、芥川龍之介だろう。 彼らがドッペルゲンガーを見てから、亡くなったというのは、有名な都市伝説だ。 きっと、西川 和也がネットで調べて、成田 貴志に聞かせたのだろう。


「違うよ。 ちょっと、難しい話になるけど、ドッペルゲンガーってのは、自己像幻視と呼ばれる現象で、脳内の電気信号の異常反応だったり、精神的に……その不安定だったりする時に、起こる現象だって言われてるんだ。 だから、ドッペルゲンガーを見たら死ぬってのは、単なる都市伝説って事なんだよ」


 昔、学生時代に、心理学を専攻する友人から聞いた印象的な話をうろ覚えながら、早口で捲し立てた。 念の為、精神分裂症などの精神疾患というところは、ぼやかして話した。 まさか、こんな形で、その話を口にする日が来るとは夢にも思わなかったが……。


「……そっか」


 多分、内容を理解してないであろう成田 貴志が、無理矢理納得したような顔をする。


「そ。 だから、心配しなくていいんだよ」


 その言葉を口から出して、ふと笑みが溢れた。


 成田 貴志は、別にドッペルゲンガーについて、何も心配などしていない。 なにせ、彼は、ドッペルゲンガーを見たなんて、一言も言ってないのだから。 にも関わらず、そんな言葉を出してしまったのは、自分が自分に言い聞かせるために他ならない。 それに気付いたことで、自然に笑いが溢れてしまったのだ。


 成田 貴志との話を終えた時点で、もうすっかり、心療内科へ行く気は失せていた。 そう。 単なる幻覚だ。 疲れているのだ。 しばらくは、ストレスが堪らないよう、大人しく過ごそう。


 そう思いながら、成田 貴志との会話を切り上げて、教室を後にした。


 次の日、起床して、すぐに窓の外を見たところで、本木は安堵した。


 窓の外には、スーツの男はいなくなっていた。


 やはり、疲れだったのだろう。 まだ、精神分裂症といった精神疾患までは至っていなかったのだ。 早めに自覚して、二日とは言え、しっかり睡眠を取るようにしたのは正解だったようだ。


 そう考えたところで、ふと胸騒ぎを覚える。


 本木は、窓を開けベランダに出ると、すぐ真下を覗いた。


 そこには、無表情な表情を浮かべ、こちらをじっと見上げている自分自身の姿があった。


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