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「痛い所はないか?」
「だいじょうぶ…」
「本当か?」
こくん、と頷くといくらかほっとしたような顔をした。
私をソファに座らせ、少し迷う素振りをしてから隣に座った。
「悪かった、怖い思いさせて。」
「レイは悪くないから…。」
「いや、俺達が読み違えた。父親と一緒に保身に逃げるかと思ったんだが…。」
「ねえ、レイ。結局なんだったの…?この縁談、何か理由があったってこと?」
「んー。…とりあえずリリーは少し休もうか。」
「でもっ」
「体が震えてる。まださっきのショックが残っているんだろ?後できちんと説明するから。」
「…でも」
「リリー。休め。今は何も考えるな。」
「レイはどうするの?」
「俺はカートと話をしてくる。後処理もあるしな。」
「…分かったわ。」
「リリー。」
名を呼ばれ、そっとレイナードに抱きしめられた。
まるで壊れ物にさわるかのようだった。
「…恐くないか?」
「…レイは恐くない。」
「そう…もう少し強くしてもいいか?」
こくん、と頷く。
さらにぎゅっとされ、ドキドキと心臓が鳴る。
でも不思議な安心感に包まれた。
…私、たぶんレイナードのことが…。
そう思った時、抱擁が解かれた。
離れてしまったことが、寂しい。
「…よし。」
「レイ…?」
「ほら、寝ろ。ベッドまで抱っこで連れてってやろうか?」
ニヤリといつものように笑うと、顔を覗き込み頭を撫でてくる。
ぼっと顔が熱くなった。
「自分で行けますっ!」
「ひとりで寝れるかー?」
「寝れますっ!!」
クックックッとレイナードの笑う声が部屋に響いた。
「おやすみ。またあとでな。」
「おやすみなさい…。」
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横になるだけ、と思いつつ結構本気で寝てしまったらしい。
気が付くと外はもう日が沈むところだった。
「レイは?」
「レイナード様は今旦那様とお話中です。カテリーナ様がご心配されていましたが、お会いになりますか?」
「お願い。あ、待って。私が行くわ。」
「それが…レイナード様よりお嬢様をお部屋から出すなと…。」
「えぇ?」
「念の為、とおっしゃられていましたが…。」
「私、そんなに弱くないわ?」
「分かってはいてもご心配なのでしょう。お嬢様、愛されていますねぇ」
くすくすとからかうように言われ、顔が赤くなる。
愛されてるなんて…!
レイナードとはあくまで偽装のつもりで、そこには特別な感情はなかったはずだ。
たぶん問題は解決に向かっている。
だから、偽装婚約もしなくて良くなる。
王都へ行ってからというもの、まるで本物の恋人のように私を扱う。
きっと、それもなくなってしまう。
「私…レイのことが、好き…」
好き、と言葉にすると切なさでぎゅ、と心臓が痛んだ。