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「何しやがるっ!」
「何って汚い手でリリーにさわるからだろう?」
「はっ?お前だれ…っ!?」
「君にお前などと言われる筋合いはないね。ふうん、シュナウザー男爵のご子息は俺を知らないとみえる。自己紹介でもしようか?」
「モーズレイ家の…!なっなんで…!」
「アシュタルト家とは縁戚でね。リリーは従妹でもあるけど…。」
レイナードとシュナウザーが話しているうちに庇われたことで安堵したのか今になって涙が溢れ、カタカタと体が震えてくる。
レイナードの胸に顔を埋め、ぎゅっと服を握った。
はやく、はやくあの人が見えないところに行きたい。
「…リリーが恐がっている。君との話は後ほどしよう。」
「話すことなんか…」
「いいえ、ありますよ。」
「カート」
「っ!!ロックウェル…!?」
「貴方の父君…シュナウザー男爵はすでに連行されました。貴方にも聴き取りが必要ですしね?」
「なっ!俺はなにも…!!」
ロックウェル様が部屋に入ってきたようだった。
耳に入るシュナウザーの声すらも拒否反応が出る。
レイナードにしがみついたままいやいやと頭を振ると大丈夫だからと、いつになく優しい声が聞こえた。
「なあカート。ここ、任せてもいいか?」
「もちろん。早くリリアンナ嬢を連れて行ってあげるといい。」
「悪いな。」
「気にするな。」
私を抱えるように歩き出すと後ろから怒鳴り声が届き、ビクッと体が勝手に震える。
「待てっ!」
「…何だ?」
「何だじゃねぇよっ!そいつは俺のもんだっ!勝手に連れてくな!」
「俺のもの…?」
レイナードから途端に殺気が迸った。
これほどまでに怒気を露わにする彼も珍しい、思わず顔を上げた。
いつも飄々としている彼の瞳が、怒りに燃えている。
「誰が誰のものだって…?」
「レイ!やめろ!」
「カート…」
「いいから、抑えろ。」
「…わかった。」
「よし、じゃあまたあとで。」
「ああ。」
私をシュナウザーの視線から遮るように部屋から連れ出した。
「リリー、ちゃんと捕まってろよ。」
「…え?…きゃあっ」
ふわっと急に視界が高くなる。
抱き上げられ、レイナードの顔が一気に近くなる。
「やっやだっ!おろしてっ?」
「駄目。」
「なんでっ?」
「なんで…そうだなぁ。なんとなく?」
「なにそれっ」
「いいから。お前の部屋の場所、変わってないか?」
「えっあっ変わってないけどっ」
ふ、と笑みを零すと私の部屋へと向かう。
すれ違う使用人たちに指示を出しながら歩くレイナードはやっぱりかっこいい…と思う。
ようやく思考がまともに動き出した私はやたらとドキドキと鳴り響く心臓に戸惑うばかりだった。