5
「久しぶりだな。レイナード。仕事の方はどうだ?」
「お久しぶりです。叔父上。まあまあですよ。」
「そうか…。」
私がモーズレイ家に突撃してから一週間後、休みを確保したレイナードと共に領地へ戻った。
「さっそくですが、本題に移らせて頂いても?」
「レイナード、それなんだが…。男爵家との縁談もある。今ここではなんとも…。」
「そもそも何故急にシュナウザー家と?」
「…それは…。」
「叔父上。きちんとした理由がなければ納得しかねます。私にこのまま引き下がれと?」
言い淀むお父様にレイナードが言い募る。
「…領地境で村人があちらの領地に入って狩りをしていたらしい。今調べているが…ただ向こうも同じことをしているという報告もあってな。」
「それがどうしてリリーとの縁談に?」
「領民同士がその件でだいぶ険悪になってしまった。その仲を取り持つために向こうから縁談が持ち掛けられた。領主が親戚同士になれば少しはお互い歩み寄れるんじゃないか、という話でな。」
「…なかなか無理がありませんか?」
「そうなのだ。話も少し不自然な節がある。ただ全部が嘘と言いきれる証拠もない。しかし縁談を強く拒否してはまた別に問題がおこるしな。」
はあ、とお父様がため息をつく。
「叔父上。その件、王都でも少し噂になってましたよ。リリーの事もありますし、ちょっと調べさせて頂きました。」
「ちょっと待て。…お前、本当にリリーの事本気なのか?」
「今更何を言ってるんですか。本気ですよ?」
「偽装じゃないのか?」
「どうしてそう思うんです?」
「いや…いくらなんでも唐突すぎてな…。」
本気じゃないし完全に偽装ですお父様。
やはりというか信じて貰えてなかった…あたり前か。
するとレイナードが初めて見るような真剣な顔つきになった。
「男爵との件を解決しましょう。その代わりリリアンナを俺にください。」
「しかし従兄妹…いや…。」
「そのあたりは問題ないでしょう?俺とリリアンナには血の繋がりがありませんよ。」
そう、私はアシュタルト家に後妻として入った母の連れ子だ。
でもお父様は、私を先妻の子であるお兄さまと変わらず可愛がってくれた。
そのお父様を騙している。
私のわがままでいろんな人を振り回していることに罪悪感が募る。
思わず下を向くと、ぽん、と頭に手が乗った。
「リリー。心配するな。」
「…でも…。」
「大丈夫、な?」
こくん、と頷くことしかできなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
じゃあ、ちょっと行ってくる、と言いおいてレイナードがどこかへ出掛けて行った。
今のうちにお父様に本当の事を言ってしまおうか。
でもそうしたら男爵家へ嫁がなくてはならなくなってしまうかもしれない。
あの家へ、そしてあの男に。
ぶるっ、と体が震える。
やっぱり、嫌…想像するだけで寒気がする。
…レイだったら良かったのにな、と頭に過ぎり、どきっとする。
私、なんてことを考えたんだろう!
過ぎた考えにひとりであわあわとしていると、コンコン、と扉が叩かれた。
「はっはいっ」
「リリー!!」
「リーナ!?」
部屋を訪れたのはカテリーナだった。
「どうしたの?」
「お兄様がカート様を呼んだの。なんでも領地境での件で、協力して欲しいみたいで。」
「ええ?」
「何か気になることがあるみたい。私も良く分からないのだけど。」
「ごめんなさい…。ロックウェル様もレイも忙しいのに…。」
レイナードは大丈夫と言ったけれど、とてもそんな気にはなれない。
たくさんの人に迷惑を掛けている。
後悔で泣きそうになる。
「やだ、リリー。そんな顔をしないで?」
「でもっ、私があんな嘘をつかなければっ」
「お兄様が本当に迷惑だと思っていたらこんなふうに協力なんてしないわ。それに何かお仕事にも関わりがあるみたいよ?」
「そうなの…?」
「そうよ?だからほら、お兄様たちが帰ってくるまで、お茶でもしてましょう?」
不安げな顔をカテリーナに向けると、ニコッと笑ってくれる。
「きっと大丈夫。ね?」