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「どうして止めたの?」
「んー?まあ…思うとこがあってな。」
「…どういうこと?」
「リリーのためだよ。領地の境でのいざこざ。ちょっとひっかかる。」
「何かあるっていうの?」
「さあ?ただこの偽装婚約、やってみる価値はあるんじゃないか?」
「でも…。」
「とりあえず俺に任せてくれればいい。リリーは気にするな。あとリーナと話をするなら今日中にしたほうがいいぞ?」
「どうして?」
「明日の朝には旦那が血相変えて迎えに来る。2、3日も我慢出来ないだろ。」
クックックと笑うレイナードはいつもの飄々とした雰囲気に戻っていた。
さっきのなんとも言えない空気はなんだったんだろう。
「まずは叔父上に挨拶に行くか。」
「えっ!?」
「いやそこ驚くところじゃないだろ?」
「仕事はっ」
「休むよ。可愛いリリーのためにね。」
「はっ!?」
「お前、一応俺に惚れてる設定なんだろ?で、俺もそれに絆された訳だ。装うためにもある程度こういうのはいるだろ?練習練習。」
「れんしゅう…?」
ぐるぐると混乱している私を余所にさっと腰を引き寄せられる。
「なっ何するのっ!?」
「これも練習な?」
「えぇぇでもっ」
練習と言えこれは私にはなかなか恥ずかしい状況だった。
なにせ社交デビューはしたものの、なんだか気後れしてしまい、まともに夜会などには出ていない。
歳の近い男性と話すことすら滅多にないのに。
練習と言われても、顔が熱くなり、体は固まってしまう。
「ふぅん…。」
「なっなによっ」
「いや別に?」
「もう離してっ!」
「駄目。慣れろ。縁談、無くしたいだろ?」
ニヤッと笑うレイナードの笑顔が黒い。
あれ、私選択間違った…?
なんとなく、追い詰められたような気分になった。
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「それでどうするの?」
「まだそんなには具体的に決まってなくて…。とりあえずレイのお休みが取れたらお父様に挨拶に行くと言っていたわ。」
「叔父様にはもう連絡したの?」
「うん…。それもレイが手配して…。私は何もしなくていいからって。」
「あら。ずいぶん協力的ね。」
「ねぇ、リーナ。私から言い出してなんだけど、本当にこんなことしてよかったのかしら…?」
「でも私から見ても男爵家との縁談はあまり良さそうなものではないわ。お兄様に任せてみてもいいんじゃない?」
「そう…?」
「ああみえて勘は鋭いから。それにリリーを悪いようにはしないと思うわ。」
「…ありがとう、リーナ。」
「どういたしまして。ああでも本当にお兄様の所にきてもいいのよ?」
「えっ!?」
「あら、お兄様のこと、嫌?」
「いっ嫌ではないけれどっ。」
いやいや突然なんてことをっ!
ふと、練習、と言われ引き寄せられたことを思い出す。
大きい手と腕の感触。
意地悪く笑っていたかと思えば、優しく私を見ていたり。
「あら?まんざらでもない?」
ニコリ、と笑ったカテリーナは、レイナードとそっくりで。
私は赤い顔をしつつ引きつったのだった。