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「は?」
「リリアンナと婚約したいと思います。」
「ちょっとまて。どうしてそうなった?」
「どう…そうですね。リリーの熱烈な告白に絆されて?」
「おい、疑問形だぞ。」
「気の所為ですよ。」
どうして欲しいの、と問われ決意した私はレイナードに偽装婚約はどうか、と提案した。
ひと癖もふた癖もある従兄なら、と一縷の望みを賭けた。
そしてあっさりといいよ、と承諾を得てどうせならさっさと話を通してしまえと、叔父様の書斎へ突撃した。
「リリアンナ。これの言っていることは本当か?」
「はい…叔父様。」
「義兄さんから連絡が来たぞ。向こうで縁談があるそうじゃないか。」
「ええ…。そうです。」
「まあ、領地の境で揉めていたようだしこの縁談で上手くとりなそうというのは分かるが…。」
「父上、縁談がまとまるまでにリリーがせめてと俺に想いを伝えてくれたのです。自分もその想いに応えたいと。」
ボロが出るからなるべく喋るな、と言われ大人しく聞いているとなんだか壮大な話になってきた。
しかし叔父様は相変わらず疑いの目を向けている。
「お前、どうした?」
「何がですか?」
「妙に浮かれて見える。…何か企んでないか?」
「いいえ何も?」
いやいや、ものすごく企んでますから!
だらだらと冷や汗が背中を伝う。
思わずレイを見上げると、いつも意地の悪い輝きを灯す瞳がやたらと優しげに私を見下ろしていた。
どきんっと胸が鳴る。
あれ、なんだろう、これは。
自分の予期せぬ心臓の高鳴りに気を取られている間に、ふたりの会話は進んでいたようだった。
「…本気なんだな?」
「もちろん。こんなこと遊びでできる事じゃないですから。」
「仕方ないな…。まあ縁談が本格的に進む前のようだしなんとかねじ込めるだろう。幸いうちの方が家格は上だしな。」
「ありがとうございます。父上。」
…遊びでできる事じゃない。
その言葉に突然罪悪感が襲ってくる。
お互い熱が冷めたとかなんとか理由をつけ、半年から1年の間にこの婚約は破棄するつもりだった。
私はいい、あの鼻持ちならない男と結婚するくらいなら何を言われようとも。
でもこれでレイナードの評判に傷が付いたら?
もしこの先彼に想うひとなり縁談が持ち上がったときにこの偽装婚約が足枷になったりしないだろうか?
「あっあのっ!」
「リリアンナ。」
やっぱりこんなのやめよう、そう思い声を上げようとしたとき。
レイナードから余計なことは言うな、と強い視線で制される。
「…レイ。」
「リリー、不安に思うことはない。ちゃんと俺から先方に話を付けるから。」
「…はい。」
「では父上。また後ほど伺います。」
「分かった。」
叔父様の書斎を退出し、レイナードと歩き出す。
ちらりと横を伺うと読めない表情にもかかわらず、いつもとは少し違う空気を出していた。