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「嫌です!!」
「リリアンナ…」
「私はぜっっったい嫌です!それに私、お慕いしている方がいるのです!」
「なっ!それは誰だっ!?」
「そっそれはっ」
誰、と言われても答えられない。
何故ならばそんな人いないからだ。
思わず詰まった私にお父様が疑いの目を向けてきた。
「…適当なことを言ってるんじゃないか?」
「いっいいえっ!本当です!」
「本当ならどこの誰だか言えるだろう?」
困った。本当に困った。
田舎でのんびりと暮らしている私にはそれほど男性の知り合いはいない。
どうしよう、と焦りだした私はハッと思いつく。
そうだ、あの従兄なら。
見ず知らずの人の名前を出すより説得力もあるはずだ。
「レイ…。」
「ん?」
「私、レイが好きなのっ!だから、別の方とは結婚しません!」
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「は?」
「だから!お父様が隣の領地のバカ息子との婚約を断れなくて!咄嗟に好きな人がいるって言っちゃって…!」
「それでお兄様の名前を…?」
「そうなの…だって他に男の人の知り合いなんていなかったし…。」
半年程前に侯爵家へ嫁いで行った従妹──カテリーナが王都一と言われる美貌を歪めた。
「リリー。まさかそれでこっちに?」
「そうよ!だってお父様が信じてくれないんだもの!」
「信じるもなにもリリーは本当にお兄様を好きではないんでしょう?そもそも無理があるのじゃない…?」
「私だって家に利益のある結婚でもしてお父様に恩返しできればって思ってたのよ?でもあのバカ息子だけは嫌!!」
「隣の領地…ああ、シュナウザー男爵の所かしら。そうね…確かに噂を聞く限りはちょっと…。」
「リーナすごいわ…さすが侯爵家に嫁いだだけあるのね…。」
「…これでも毎日必死なのよ…?」
泣きそうな顔をしたカテリーナはそれでもすっかり大人っぽくなった。
ロックウェル様は彼女を溺愛していると聞くし、きっと幸せなのだろう。
「それでどうするの?」
「レイに少し協力して貰えたら…。あっ!そうだわ!レイってお付き合いされてる方とかいるのかしら?」
「いないけど?」
唐突に後ろから声がかかり、うひゃあ!と間抜けな声が出てしまった。
久しぶりに会うレイナードはまた少し精悍な顔つきになっていた。
「ぶっ!リリーは期待を裏切らないなー?」
「お兄様。」
「リーナ。今日からしばらくこっちなんだってな。カートが泣くぞ?」
「…2、3日くらい我慢して頂きます。」
「明日あたり迎えが来るんじゃないか。…ところでなんか面白そうな話だな、リリー?」
「どっどこから聞いてっ」
「んー?割と序盤から?」
「なっ」
私にも耳に届く彼の評判。
なんといってもカテリーナの兄なのだ。
その美貌は妹にだって引けを取らない。
騎士としての腕は抜群、近いうちに王太子付きの近衛隊長になるだろうとも言われている。
その秀麗な顔が意地悪そうに笑った。
「…で?リリーは俺に何をさせたいの?」
その言葉にキッと睨みあげる。
──どうせやるなら、盛大にでっち上げてやる。