13
「明日?」
「あぁ、あとはまあ、王都で出来ることだけになったから。」
「そう…なの…」
レイナードと共に領地へ帰ってきて4日目、区切りがつき明日には帰ると告げられた。
「さみしい?」
ニヤッと笑いながら顔を覗き込まれ、恥ずかしさで赤くなっていく。
自分でもしまった、と思うくらいにはしょんぼりとした声が出たのだから、彼が気付かないわけがない。
「さ、さみしい…です」
「じゃあさみしくならないようにしてやろうか?」
「えっ?きゃあっ」
さっと体を抱え上げられ、レイナードの膝の上に座らせられる。
いつもよりも近い目線にどうしたらいいのか分からない。
「えっ!?やっやだ!おろしてっ?」
「駄目。」
「なっなんでっ?」
「俺がこうしたいから。」
「なっ」
「…なぁ、リリー。」
「な、に」
「来週叔父上と王都に来たら、そのまましばらく残らないか?」
「え…?」
「お前今まで引きこもり気味だっただろ?急にいろいろやるよりは今から少しずつ慣れていけばと思ってさ。あと…」
「…あと?」
そっと背中に回っていた腕に力が入り、私を引き寄せると耳に口を寄せられる。
「俺がリリーと離れたくない。」
「…!!」
直接耳にふれる声と吐息に体が固まった。
ふ、と笑い声が聞こえ私を抱く腕に力がこもる。
「可愛いな。お前、なんか俺のツボに入るんだよ。」
「そんなの知らないっ」
「分かってないからよりいいんじゃないか?」
そんなふうに言われても私の何がツボに入るのだか分からない。
困惑気味にレイナードを見ると、珍しく動揺したように目を逸らされた。
「…そういうとこなー。自覚ないの?」
「えぇ?」
「昔から俺の心臓を掴むのが上手いよな。」
「そんなことしてないわ!」
「ふうん?」
意味ありげな目で私を見上げる。
「初恋なんてとっくに忘れたと思ってたのにな…。」
「レイ…?」
耳に手をかけられ顔が近づいたところで、そうだ、とレイナードが呟いた。
「…なあ、キスしてもいいか?」
「…どうぞ。」
「じゃあいただきます。」
次会えるまで、と言わんばかりにたくさんのキスが降り注いだのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
それから2週間後、両家の話し合いのもと、婚約が正式に交わされた。
婚礼はレイナードの強い希望により半年後に、そして花嫁修行と称して私のモーズレイ家滞在も決まった。
社交界に慣れていない私は、まずは叔母様に付いて茶会などから顔を出し始める。
叔母様やカテリーナの助けもあって、思ったより浮くこともなく馴染んでいけそうだった。
ただし多くの視線に晒されてはいる──レイナードの注目度は私の想像以上だった。
比較的小規模のお茶会でこれならば、夜会などに行けばもっと多くの目を集めるのだろう。
「自信がないわ…」
「焦るな。もともと引きこもりだったんだし。」
「…言い方が良くないわ。」
「そうか?まあ俺は助かったけどな。」
「引きこもりが?」
「そう。引きこもりが。おかげさまでお前が他の男と出会わずに済んだ。」
「なっ」
ニヤリ、といつものように笑い顔が近づく。
「昔も今も俺はお前のもんだ。」
反対じゃないのか、と思いながら瞳を閉じて彼からのキスを待ったのだった。




