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「レイ!」
「レイナード…勝手に入るな。」
「すみません急用で。カートが叔父上に確認したいことがあると。」
「ああ、分かった。すぐこちらに来てもらってくれ。リリー、また後でな。」
「はい。では、失礼します。」
お父様の書斎を退室しようとすると、さっとレイナードに腰を抱かれる。
えっと見上げると、すぐさま後方から声がかかった。
「おい、レイナード。お前何処に行く?」
「何処って…リリーを部屋まで?」
「お前はここにいろ。」
「何故です?」
「お前だって殿下の指示でこの件に関わってるだろうが。」
「可愛い婚約者を部屋まで送るぐらいの時間を頂いても?」
「駄目だ。」
ギロリ、とお父様が睨んでもレイナードは鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌だ。
「レイ…私、1人で大丈夫だから…自分の家だし…。」
あまりのいたたまれなさにそう声をかけると、つまらなそうに身を引いた。
もしかして怒ってしまっただろうか?
不安げな顔を向けると、レイナードが笑いながら私の耳元に口を寄せてきた。
「リリーは可愛いな?」
「へっ!?」
「そのくらいで怒るわけないだろう?ああ、でもちょっとなんか欲しいな。」
そしてちゅ、とわざとらしく音を立ててキスを頬にする。
このくらいで我慢するかとか聞こえたような気がするけれど、直後にごっほん、とこちらもわざとらしく咳が聞こえ、お父様に見られたという恥ずかしさで部屋を飛び出してしまったのだった。
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「お兄様がねぇ…。」
「ねぇ…リーナは知っていた?」
「何を?」
「え…初恋だとかいうの。」
「んん…。どうかしら。ただ、やたらと何かプレゼント?してるな、みたいには思ってはいたけれど。」
男性陣が後処理に追われている頃。
事の顛末を話すためにリリーと庭でお茶をすることになった。
「プレゼント…?」
「そうね、石とか葉っぱとか?幼心に羨ましかったのよね。」
「ああ…そういえば…?」
そう言われると確かに思い当たることがあった。
レイナードから綺麗な石があったから、とか綺麗な色の葉っぱを見つけた、とか。
その他にもなにやらいろいろあったように思う。
そうか、あれはみんなプレゼントだったのか。
「お兄様、意外に貢ぎ体質なのねぇ。」
「えっ」
「私知ってるのよ?髪飾り、ドレスにあと花束なんかもあったんじゃなかったかしら?」
「…!!なんでっ」
「うふふ。お兄様も注目の的なのよ?覚悟しておいたほうがいいわ。」
「…そうね…」
私、大丈夫なんだろうか。
辺境の田舎から王都へ。
きっと、なにもかもが違う生活になる。
「あのね、私本当に嬉しいの。リリーがお兄様と一緒になること。」
「そう?」
「ええ、すっごく!」
にっこり笑うカテリーナにつられて、私も自然と笑顔になった。




