10
泣きながら眠りについたせいか瞼が重い。
起きたあともしばらくベットの上でぼーっとし、いい加減動こうと寝室から出たところでコンコン、と扉がノックされた。
「おはようございます。お嬢様。起きていらっしゃいますか?」
「ええ、おはよう。起きているわ。」
「あの…レイナード様がいらしているのですが、如何なさいますか?」
ドキっと心臓が鳴る。
会うのは怖い…でもいつまでも逃げているわけにはいかない。
「お嬢様?」
「…入ってもらって。」
まだ寝間着だったことを思い出し、さっとショールを羽織った。
「おはよう。」
「おっおはよう…昨日はごめんなさい。」
「いや…泣いたのか…?」
はっとして少し俯く。
ひと目見て分かるくらいには、目が腫れているのだろう。
「ごめんな。…大丈夫か?」
「…大丈夫…。」
「リーナが分かるところだけは話してあるとは言っていたけど…聞くか?」
こくん、と頷く。
自室のソファを勧め、お茶を淹れ向かいに座ろうとしたら隣を示される。
隣…?と思いながらも拒否は出来ずに大人しく座った。
ひと息ついてから話はじめた内容は、カテリーナから聞いていた話とだいたいは同じだった。
少し調査が滞り現地へ行く計画を立てていたとき。
私が来たことで違和感なく辺境地領へ赴くことができたこと──。
やっぱり、そういうことだったんだ。
分かっていたけれど、辛くて胸が痛い。
「あー。あの、な、」
「あのっ!例の件はっ縁談もなくなったことだし、なしということでっ!」
「…は?」
「もっもともと縁談から逃れるためのものだったし…!」
「…ふぅん?」
「レイにこれ以上迷惑かけられないから…。」
沈黙が落ちる。
すっとレイの手が私の頬にふれた。
「…なんで泣いてる?」
「泣いてなんかっ」
「なぁ、俺、ちょっと自惚れてたんだけど違うのか?」
「自惚れ…?」
頬にふれていた手が離れ、抱きしめられる。
「お前俺の事好きなんだろう?」
「そっそれはあくまで縁談から逃げるためでっ」
「ああ、でも昨日叔父上に正式な婚約の申し込みしたんだよなぁ。」
「えぇぇ!?」
「叔父上には快く許可を貰ったしなぁ?」
「ええぇえ!?」
「俺を好きか?」
ぼっ!と顔が熱くなる。
まだ面と向かって好きと言えるほど心の準備は出来ていない。
「…レイは…?」
「ん?」
「レイはどうなの…?私のこと、好き…?」
ふっと微かに笑う声が聞こえたと思ったら、顔を上に向かされキスが降ってきた。
「っ!??」
「あ、キスしてもいいか?」
「順番が逆だわっ!?」
「悪い、つい。」
「ついっ!?」
「あんまり可愛いこと言うから。」
「かっかわっ!??」
ぶはははと少々雰囲気を壊す笑い声が響く。
「いいこと教えてあげようか?」
「…なに?」
「俺の初恋、リリーなんだよな。」
「…はぁっ!?」




