89 オークス
今週も東京は晴れた日が続いた。相変わらずの絶好の馬場コンディションを保ったまま、日曜日のオークス当日がやって来た。
この日の最終レース、4歳以上3勝クラス(1600万円以下条件)の丹沢ステークスには、差し競馬が板について来たフレイムセイヴァーが出走を予定している。当然、鞍上は主戦の優────ではなく、前回で代打を務めた陽介が継続して騎乗することになった。前回のレース内容が格段に良かったことから、馬主側のオーダーでの主戦交代である。
所属厩舎の馬であっても、当然のことながら全て自分が乗れるわけではない。親友の陽介もまた、強大な競争相手の一人でもあるのだ。厳しい現実に直面する優であった。
番組は順調に消化され、いよいよメインレースのオークスを迎えた。
第2回東京競馬10日目 第11レース 優駿牝馬(オークス)
(GⅠ 3歳牝馬限定 定量55キロ 芝2400メートル 馬場状態:良)
1枠1番 プレシャスガーデン 神谷 陽介
1枠2番 サイレントヴォイス クラーク・ウィルソン
2枠3番 ハニカミハニカム 菅田 満
2枠4番 ネオンジェネシス 三田村 祐司
3枠5番 セイショウエンジ 中田 幸広
3枠6番 ハナノワルツ 福山 明秀
4枠7番 ストロベリージャム アーロン・ケーヒル
4枠8番 レイニーブルー 田崎 英太
5枠9番 ラウンドアバウト ミッシェル・ロベール
5枠10番 フラクタル 屯田 勝男
6枠11番 セボンファンタジー 山田 大河
6枠12番 アンバーグリス 多田 修二
7枠13番 ワンモアチャンス マッテオ・ジョバンニ
7枠14番 フワトロ 杉山 泰平
7枠15番 カイネシュガー 増岡 拓海
8枠16番 ハッピートリガー 仁村 公平
8枠17番 ミカエリビジン 棚田 裕延
8枠18番 シロイコイビト 御子柴 茂
1番人気は、予想通りフローラステークスの覇者ラウンドアバウト。桜花賞の上位3頭の人気は、サイレントヴォイス、シロイコイビト、プレシャスガーデンの順となった。桜花賞馬シロイコイビトは、血統的な距離不安に加えて、大外18番枠を引いたのがマイナス材料となり、結局3番人気に落ち着いた。
スタンド前、出走馬18頭がゲートに収まる。大歓声とともに、大きな出遅れもなく各馬揃ったスタートを切った。注目の先行争いは、内からサイレントヴォイスが桜花賞に続いて行くかと思いきや、外からミカエリビジンの棚田が押して押して強引に主導権を奪った。
サイレントヴォイスはそのまま2番手。ハナを切れなかったのは想定外だったが、元々気性的には折り合いに不安のないタイプで、逃げ馬を気にする素振りもなく落ち着いて追走している。
1番人気のラウンドアバウトは、好位集団の5番手に付けている。ロベールらしいそつのないレース運びで、抜け出すタイミングを計って息を潜めている。
シロイコイビトは中団10番手辺りで馬群の外を回っているが、大外枠のため、馬群に入れて前に壁を作ることが出来ない。行きたがって頭を上げており、終始リズムの悪い走りで苦しい。
プレシャスガーデンは後方から3番手で、折り合いに専念している。内ラチ沿いを舐めるように回っており、外に出す気は毛頭ないようである。
逃げるミカエリビジンは、最初の1000メートルを59秒9で通過。通常、オークスで1分を切るのはかなり厳しいペースであるが、現在の高速馬場ではこれでも前が残りかねない。速いラップを刻んでいるにも関わらず、後続は離れず追走し、馬群はそれほど縦長にはなっていない。
3~4コーナー中間の勝負所。ここで、番手で進めていたサイレントヴォイスがミカエリビジンを交わして先頭に躍り出た。ペースを考えるとあまりに早い動き出しだが、鞍上のウィルソンは、前が有利な馬場と見るとペースを無視して仕掛ける癖がある。ここまで飛ばして来たミカエリビジンはこれに抵抗できず、後退して行く。
有力馬の予期せぬ仕掛けに、後続は即座には反応出来ない。サイレントヴォイスは2番手以下に4馬身ほど差をつけて最後の直線に入って来た。
馬と騎乗がマッチしたのか、逃げるサイレントヴォイスの勢いはなかなか衰えない。そんな中1頭追って来たのは、ロベールのラウンドアバウト。残り400メートル付近で仕掛けると鋭い反応を見せ、先頭との差を縮めて行く。
ラチ沿いからそのまま馬群に突っ込んだプレシャスガーデンは、予想外に密集した馬群を捌くのにてこずり、なかなか抜け出すことが出来ない。
対照的に外から伸びて来たのは、単勝10番人気の伏兵ワンモアチャンス。内はごちゃつくと読んだ鞍上ジョバンニの決め打ちが、結果的に功を奏した格好か。内でひしめき合う各馬を尻目に、ロスなく大きなストライドを伸ばして一気に浮上して行く。
先頭争いの方は、残り200メートルを切っても、まだサイレントヴォイスが粘り腰を見せている。これを追っている本命馬ラウンドアバウトも、なかなか詰め寄ることが出来ずにロベールの右鞭が2発、3発と飛んでいる。
そのせめぎ合いに割って入るべく、外から飛んできたのはワンモアチャンス。ロス覚悟で外を回した分勢いは落ちて来たものの、残り150メートルでは2頭の直後まで接近した。
そして、ここでようやく進路がクリアになったプレシャスガーデンが、内から矢のような伸びを見せる。桜花賞でも上がり最速をマークした同馬だが、前が壁になって溜まりに溜まった末脚を一気に解放。絶望的と思えた位置から驚異的な追い上げを見せる。
前の2頭が押し切るか、後ろの2頭が差し切るか。勢いで勝る差し2頭が交わすかと思われた残り50メートルで、併せ馬の形になって並んだ前の2頭が、もうひと伸びを見せて後続を突き放す。
ゴールまでもつれる激しい叩き合い。ハイペースに付き合った分最後に脚が鈍ったサイレントヴォイスを頭差振り切って、ラウンドアバウトが先頭フィニッシュ。1番人気に応えて、見事オークス馬の栄冠を勝ち取って見せた。勝ち時計は2分23秒2、レースの上がり3ハロンは35秒7。結果として、高速馬場の恩恵がペースの不利を超越した形の前残り決着となった。
その後は人気薄のワンモアチャンスが、サイレントヴォイスから1馬身と4分の1遅れての3着に食い込んだ。陽介のプレシャスガーデンは、このレースで唯一34秒を切る33秒9の上がりで猛追したものの、これに首差及ばず4着に終わった。
なお、前半折り合いを欠いたシロイコイビトは失速して13着に敗れ、2冠達成はならなかった。
~レース後の騎手コメント~
1着 ラウンドアバウト ロベール騎手
サイレントヴォイスがしぶといので苦しみましたが、よく交わしてくれました。このタイムで走っているのだから、相当な能力の持ち主。秋も楽しみです。
2着 サイレントヴォイス ウィルソン騎手
非常に惜しいレースでした。行く馬がいたので行かせましたが、思い切って逃げた方が良かったかも知れません。それほど厳しいペースだとは感じませんでしたが、着差がわずかだけに残念です。
3着 ワンモアチャンス ジョバンニ騎手
器用さがない馬で、桜花賞(11着)ではゴチャついて不完全燃焼だったので、今日は思い切って外から行きました。前の2頭には及びませんでしたが、この馬の力は出せたと思います。
4着 プレシャスガーデン 神谷騎手
速い馬場を意識してロスのない競馬を狙いましたが、上手く捌けずに脚を余してしまいました。勝てるだけの力はあったはずなので、この馬をオークス馬にしてやれずに申し訳ない気持ちで一杯です。
こうして悲喜こもごもの入り混じったオークスは幕を閉じた。そしていよいよ来週、同じ東京2400メートルの舞台で、3歳馬の頂点を争う日本ダービーが行われる。
7000頭近い同世代の馬の中で、栄光のダービー馬に輝くのは一体どの馬なのか。関係者もファンも昂る短くて長い一週間が、始まろうとしていた。




