69 スプリングステークス(2)
フルゲート16頭が覇を競う、皐月賞トライアルのGⅡスプリングステークスの出走時刻が迫って来た。このレースの上位3頭までに本番の優先出走権が与えられる。
基本的に先行馬が有利な中山コースであるが、このスプリングステークスに関して言えば、差し追い込み勢の台頭も目立つ。これは1800メートルという、マイラーと中距離馬が混在する微妙な距離設定による所が大きい。弥生賞に比べてマイラーの出走馬が多いこのレースは、自然とスピード寄りの展開になりがちで、単純な上がり勝負にはならないケースが多いのだ。
枠入りは順調に進み、レースがスタートした。
注目の先行争いは、逃げて連勝中のダイヤモンドダストを制して、内から鞍上ジョバンニのマグナムエースがハナを切った。今後の距離延長を考えて、テンから急がせるレースをさせたくない陽介は、最初から行きたい馬がいれば行かせようと考えていたのだ。
とは言え、リステッドレースを勝っているマグナムエースを楽に逃がす道理もない。4分の3馬身ほど先に行かせてその外にピタリと張り付き、プレッシャーを掛けながら追走している。
そこから2馬身ほど離れた3番手に、1番人気のブラックジョーカー。先行2頭を射程圏に入れながらレースを進めている。
ワールドエンドは中団8番手。優のソーマナンバーワンは、それを見るように9番手。そしてラッキーストライクは、定位置の最後方につけている。
最初の1000メートルの通過タイムは、59秒5。平均に近いペースで逃げているマグナムエースだが、終始ダイヤモンドダストにつつかれているため、息を上手く入れられず余裕がない。
逃げ馬の手応えの悪さを見て取った陽介は、3コーナーに差し掛かると徐々にペースを上げて、早々にマグナムエースをパスする。強力な差し馬が多いメンバー構成を鑑みて、後続馬群を引き離した形で直線に入りたいのだ。ジョバンニが懸命に手綱をしごくもマグナムエースは無抵抗で、ズルズルと後退して行く。
この動きに屯田はすぐさま反応し、ブラックジョーカーが2番手に浮上する。予想より早くレースが動いたため、中団以降の馬群は一瞬動けずに差を明けられてしまった。4コーナー手前からワールドエンドとソーマナンバーワンが並んで大外をまくり上げて来る。そこから3馬身遅れてラッキーストライクもついて来ている。
先頭のダイヤモンドダストを1馬身半差でブラックジョーカーが追いかける形で、最後の直線を迎えた。外から差し込んで来るのは、ワールドエンドとソーマナンバーワン。ワールドエンドが課題のズブさを見せる間にほぼ並んだ2頭だが、エンジンがかかったワールドエンドが再び前に出て追い比べをリードする。
先頭争いは、陽介の右鞭に応えたダイヤモンドダストが、もうひと伸びを見せてブラックジョーカーを突き離す。これまでスロー逃げしか経験していなかった同馬だが、ペースが上がっても対応できる底力を秘めていた。
結局ダイヤモンドダストは、そのまま後続を完封して1着ゴールイン。時計勝負でも結果を出し、ヴイマックスとライトニングボルトの2強打倒に名乗りを上げた。勝ち時計は1分46秒6で、上がり3ハロンは35秒8でまとめて見せた。
そして注目は、皐月賞の権利が懸かる2、3着争いである。2着に粘り込みを図るブラックジョーカーだが、これまでと違う厳しい流れが合わなかったか、残り100メートルで失速してしまう。
代わって浮上したのが、ワールドエンドとソーマナンバーワン。4コーナーからの激しい追い比べが続いていたが、ソーマナンバーワンはどうしても前に出られない。半馬身ほどのリードを保ったワールドエンドが2着を死守して大勢は決した。
(せめて3着に、3着に入ってこの子をクラシックに……。)
必死に鞭を入れながら追う優のさらに外から1頭、強襲してくる馬がいた。蟹田のカニダンスに合わせて飛んできたのは、大外8枠16番のラッキーストライク!
勢いでは完全に向こうが上だ。優は残っている脚を絞り出すべく、右鞭を連打して必死の抵抗を見せる。一方、激しいアクションで追っていた蟹田は最後の最後、馬の首を前に放り出すようにグイっと腕を伸ばす。
優先出走権の最後の椅子を争う2頭は、全く並んでゴールした。




