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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
68/222

68 スプリングステークス(1)

中山に腰を据えての週末に臨んだ優は、土曜日の新馬戦をロマンシングソーマで見事勝利。相馬オーナーに新馬戦初勝利をプレゼントした。


「明日に向けていい景気づけになりましたね。相手は揃いましたけど、何とか権利を取りたいですね。」

 相馬は、所有馬に過度の期待を押し付ける馬主ではない。ソーマナンバーワンに才能は感じているものも、現状としてはこの伝統のGⅡを勝てるほど完成度が高い馬ではないことも承知している。

 一方で、華やかなクラシックの舞台に自分の馬を出走させたいという思いも、馬主として当然あるからこその格上挑戦だ。陣営の至上命題は、3着以内に入っての皐月賞優先出走権の獲得である。


「いい勝ち方だったね、優ちゃん。明日のナンバーワンは私と太一くんの担当馬だから、勝ってみんなで重賞のウイナーズサークルに立てれば最高だね。」

 笑顔で祝福する綾に、優は小さくうなずいた。相手が強いのは確かだが、権利取りのために入着を狙って乗ることなどは微塵も考えてはいない。騎手である以上、たとえ可能性がどんなに小さくともまずは勝利を目指すべきだ、というのが優のポリシーであった。



 そして日曜日。今年の春は好天続きで、芝状態は絶好の良馬場である。

 

第2回中山競馬8日目 第11レース スプリングステークス 

(3歳オープン 馬齢 芝1800メートル内回り)


1枠1番 チョバムアーマー  牡馬 56キロ   仲本 昇


1枠2番 ワイネルシルブプレ 牡馬 56キロ   戸村(とむら) 晃彦(あきひこ)


2枠3番 ブラックジョーカー 牡馬 56キロ   屯田 勝男


2枠4番 ホークコマンダー  牡馬 56キロ   島田(しまだ) 義人(よしと)


3枠5番 マグナムエース   牡馬 56キロ   マッテオ・ジョバンニ


3枠6番 ソーマナンバーワン 牡馬 56キロ   藤平 優


4枠7番 ドロンパ      牡馬 56キロ   田仲(たなか) 勝利(かつとし) 


4枠8番 ダイヤモンドダスト 牡馬 56キロ   神谷 陽介


5枠9番 ワイネルシュトルム 牡馬 56キロ   増岡(ますおか) 拓海(たくみ)


5枠10番 オリジナルフォント 牡馬 56キロ   棚田(たなだ) 裕延(ひろのぶ) 


6枠11番 ファインセンキュー 牡馬 56キロ   田崎 英太


6枠12番 ワールドエンド   牡馬 56キロ   ディートリヒ・シュミット


7枠13番 シゲオポテンヒット 牡馬 56キロ   中田 幸広


7枠14番 クロビカリ     牡馬 56キロ   平山(ひらやま) 陽一(よういち)


8枠15番 ケイエムイエーガー 牡馬 56キロ   小野(おの) 克也(かつや)


8枠16番 ラッキーストライク 牡馬 56キロ   蟹田 仁


 1番人気に推されたのは、GⅠ馬ブラックジョーカー。ライトニングボルトの追い込みを凌いだホープフルステークスの内容が高く評価され、単勝オッズは1.9倍と高い支持を集めている。鞍上は前回波乱を演出した仲本 昇から、トンカツこと屯田 勝男にスイッチ。クラシックを見据えた鞍上強化ではあるが、結果を出した仲本には酷な采配と言えよう。これもまた厳しい騎手の世界の一面である。

 

 2番人気は、陽介を背にGⅢきさらぎ賞を逃げ切ったダイヤモンドダストで、単勝は3.3倍。実績馬を完封した前走のレースぶりは、フロックなどではない地力の高さを示していた。

 オッズ上は、この人気2頭の一騎打ちと見られているようである。


 離れた3番人気は、ジョバンニの乗るマグナムエース。1月にリステッドレース(準重賞)のジュニアカップを勝っているスピードタイプの馬だ。GⅠのNHKマイルカップを目標としているが、クラシックにも色気を持っており、ここは距離延長と力関係の様子見を兼ねての参戦である。


 4番人気は、短期免許で来日中のシュミットを確保したワールドエンド。父にリーディングサイアーのサタデーフィーバーを持つ良血馬であり、全兄は皐月賞で2着、ダービーで4着に入っている。天下のサタデーレーシングの所属馬らしく、デビューから外国人にこだわった騎手起用を続けている。京都2歳ステークスでは追ってからの反応が悪く3着に敗れたものの、2月に500万円以下条件戦のつばき賞を制して,3戦2勝でここに挑んできている。


 5番人気は、蟹田のラッキーストライク。どん尻からの強襲を持ち味としており、乱ペースでは要注意の一頭である。前走は、1月京都のリステッドレース・若駒ステークスで2着。


 優のソーマナンバーワンは、これらに次ぐ6番人気にとどまっている。前走の未勝利戦は快勝したものの、600メートルもの距離短縮がどう出るか不安視され、加えて新馬戦でダイヤモンドダストに完敗していることから、ここでは脇役の一頭に過ぎないと見られていた。


(ナンバーワンは前回よりも動けそうな雰囲気。やっぱりこの子は使い込んだ方がいいんだ。)

 パドックで跨った優は、愛馬の状態には自信を深めていた。しかしさすがにGⅠの前哨戦ともなると、どの馬も上々の仕上がりだ。

(みんな凄い気合い。パドックの雰囲気が急にピリピリしてきたみたい……。)

 優はクラシック前哨戦の独特の雰囲気に気圧され気味であった。


「気負わなくていいよ、優ちゃん。この馬の力を出し切るレースをすればいいだけだから。」

 緊張をほぐそうと優しく語り掛ける太一に、優は思わずはにかんだ。

(そうだ、走るのは馬なんだから、私はこの馬の末脚を引き出すことだけ考えよう。)

 

 本馬場に入場して返し馬に入った優は、ソーマナンバーワンとの呼吸を合わせるべく、じっと折り合いに専念して待機所へと向かって行った。

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