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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
67/222

67 セット依頼

 2戦目で勝ち上がった相棒ソーマナンバーワンとともにGⅡスプリングステークスに挑むことが決まった優。その前日の土曜日にはもう1頭、同じ相馬オーナー&太陽厩舎チームの馬に騎乗する。


 大レースに出走する馬のオーナーや調教師が、その馬に騎乗する騎手のために、同じ週の他のレースでも騎乗を依頼するケースはよく見られる。俗に言うセット依頼である。

 今週の優のためにオーナーが用意したのは土曜の第4レース、ダート1800メートルで行われる外国産馬混合の新馬戦に出走するロマンシングソーマである。


 今や日本競馬の支配者と言っても過言ではないほどの隆盛を誇る大社グループだが、有力馬の使い分けやドライな騎手起用など、スポーツとしての競馬をつまらなくしていると反発する関係者やファンも多い。太陽もその一人であり、そんな彼を応援する相馬が、馬主資格を得る前にアメリカのセールで購入した馬こそ、このロマンシングソーマであった。

 

 アメリカのリーディングサイアーであるピットインの産駒であり、引退後の繁殖牝馬としての期待も込みでの購入であったが、調教に騎乗した優は好感触を得ていた。

 美浦の坂路コースでの最終追い切りで、4ハロンから50秒2-37秒1-12秒0を計時。回転の速い小気味良いフットワークで坂路を駆け上がる姿は、多くのトラックマンの目を引いた。


「いかにもアメリカ産馬らしいスピードとパワーがありますね。出走が延びたことで仕上がりも上々ですし、デビュー勝ち、狙えると思いますよ。」

 追い切りを見守っていた相馬に、好勝負必至という自信を隠さない優であった。

 実はロマンシングソーマは新馬戦を2回除外されており、それによる優先権を獲得して今回の出走を確定させていた。2歳秋から3歳春にかけての新馬戦は出走を希望する馬が多く、しばしば除外ラッシュとなる。デビュー予定が狂ってしまうためこの状況を問題視する向きもあるが、何にせよ1回や2回の除外は計算に入れて馬を仕上げる関係者は多い。ロマンシングソーマもこのレースを本線として調整していたため、完璧な臨戦過程を消化出来ていた。


「優ちゃんはうちの厩舎の馬にたくさん乗ってるけど、私の担当馬で勝ったのはフレイムセイヴァーとソーマナンバーワンだけなんだよね。この馬が3頭目になるといいね。」

 パドックでロマンシングソーマを引いているのは、厩務員の綾である。優にとっては太一を巡る恋敵?でもあるが、頼れる同性のお姉さんとして尊敬していた。

「最後の新馬戦ですしね。相馬さんのためにもここは勝ちたいです。」

 

 この世代の新馬戦は、この土曜日が最終日である。もちろん出走レースを確保するだけなら、手薄な未勝利戦をリサーチして選ぶ手もある。しかし未勝利戦で既にレースを経験している馬たちを相手にするのはリスクが高いし、何より玉石混交でのちのGⅠ馬と未勝利馬が同時に走る新馬戦は、レースのステータスも格段に上である。優が相馬に新馬勝ちをプレゼントしたいのは当然であった。


 良馬場のダート1800メートルにフルゲート16頭が揃ったこのレースで、3枠6番に入った優のロマンシングソーマは1番人気に推されていた。血統、調教の動きから、この条件は合っているとの評価を得ての本命である。優が乗ることによる4キロ減も大きく、単勝1.7倍の圧倒的人気に推されていた。


 2番人気は5枠10番、田崎が騎乗するサンディビーチ。大社グループのラディッシュファームのクラブ馬で、こちらもアメリカのセールで購入された外国産の牝馬で、父はアメリカ三冠馬のステイツリーダー。調教も水準レベル以上の動きではあったがロマンシングソーマほどのインパクトはなく、単勝4.6倍と少し離されたオッズにとどまっていた。


 

 レースが始まると、スタートダッシュからこの2頭が抜け出し、早くもマッチレースの様相を呈していた。

 枠が内の分、優のロマンシングソーマが先手を取る。追うサンディビーチは、キックバックの砂を被らないように1頭分外目を追走している。


 1000メートルの通過は1分4秒。この時期の中山ダートの新馬戦としては平均ペースと言って良いだろう。後続は4馬身ほど離されての追走がやっとで、勝敗はこの2頭の最後の直線に委ねられた。


 頭1つロマンシングソーマがリードして直線に入ると、激しい追い比べに突入した。田崎の渾身の追いに応えてサンディビーチが食い下がるも、じりじりと離され始める。やはり4キロの斤量差は大きいようだ。


 最後は粘るサンディビーチに3馬身差をつけて、ロマンシングソーマが先頭ゴール。予告通りの新馬勝ちを飾った。勝ち時計は1分56秒1、上がり3ハロンは39秒5の決着となった。

「いや~、やっぱり新馬勝ちは嬉しいですね。この馬でダートの牝馬路線を狙って行きましょう。」

 2頭目の所有馬での待望の新馬勝ちに、相馬の表情も綻ぶ。

「上のクラスでも通用しそうな走りでしたよ。関東オークス辺りを目標にしたいですね。」

 相馬の提案に対して優は、川崎競馬場で初夏に行われる3歳牝馬の交流重賞参戦をアピールした。強敵を倒した今日の走りに、高い将来性を感じる優であった。


 

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