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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
66/222

66 光射す方へ

 優と雅が中京で火花を散らしている間に、土曜日の阪神では桜花賞トライアルのチューリップ賞、日曜日の中山では皐月賞トライアルの弥生賞が行われた。どちらも本番と同じ舞台で施行される伝統のGⅡであり、この週の盛り上がりに春の到来を感じる競馬ファンは数多い。


 弥生賞の方は、クラシックの中心的存在であるヴイマックスが楽勝。有力馬の多くが直接対決を避け他のステップレースに流れて若干手薄なメンバー構成となったこともあり、鞭を一発も使わない余力充分の勝ちっぷりは、本番での大きな上積みを予感させるものであった。

 一方チューリップ賞では、陽介が騎乗するプレシャスガーデンが3着に食い込み、本番の優先出走権を手にした。これで陽介は、牡馬クラシックのダイヤモンドダストに続き、牝馬クラシックでも騎乗馬を確保。GⅠのレギュラー騎手への階段を着々と登っていた。


 そんな表舞台の華やかさも、例によってローカル開催を中心に修業中の優には縁遠い話────では無くなりつつあった。


「いいか優。これからは中央開催で乗る機会を増やして行くぞ。」

 師匠である太陽の突然の提案に、優は思わず目を見開いた。

「今のローカルは、お前にとって居心地がいい場所になり過ぎていると思う。古畑を初め常駐しているジョッキーたちともすっかり顔馴染みになったし、乗り馬の質も量も去年より格段に良くなってコンスタントに勝てるようになって来ている。しかしこの状況で満足していては、先が見えなくなってしまうと俺は思う。」

 

 ここで太陽が視線を向けると、優は納得した表情で小さくうなずいた。太陽はさらに続ける。

「お前が古畑の後を継いでローカルの女帝を目指すのなら、このままでもいいだろう。でも、お前が目指すのは男に混じってGⅠを、ダービーを勝てる騎手なんだろう?だったら、ロベールや菅田のようなトップジョッキーとの駆け引きにも負けることのないように、厳しい条件で経験を積むべきだ。」

「私もそう思います。実際、凄い騎手が集まった去年のオリオンステークスでは、私は手も足も出ない完敗に終わりました。ローカルでも古畑さんのようなベテランの方から学べることはたくさんありますけど、やっぱり中央場所は層の厚さが段違いです。」


「幸い、湯川先生の所にお世話になっている雅と、連携してやって行こうって話になってるからな。あいつが経験を積んで今よりもう少し形になれば、ローカルで乗らない時でもお手馬を失うリスクを下げられる。それに中央開催は関係者やファンの注目度も格段に高い。お前が結果を残して行けば、さらなるステップアップにつながるはずだ。ここが正念場だぞ、優。」

「分かりました、先生。それにいろいろあったけどミヤビンは根は真面目な子だし、湯川先生の指導でメキメキ上手くなると思います。逆に私のお手馬をミヤビンに奪われるなんてことがないよう、精一杯頑張ります。」


 太陽と湯川の騎乗馬調整もスムーズに行われ、今週の優は土日とも中山での騎乗となった。優の騎乗馬は計5頭と少な目。エージェントと組んでいない優が一流騎手の集まるこの中央場所で食い込んでいくためには、この少ない乗り鞍でも結果を出さなければならない。優は燃えていた。


 また、優がやる気満々なのにはもう1つの理由があった。皐月賞トライアルのGⅡスプリングステークスに、未勝利を勝ち上がったソーマナンバーワンとともに参戦するのだ。格上挑戦ではあるが出走頭数がフルゲートに満たなかったため、抽選無しで出走が可能となった。厩舎のスポンサー的馬主のクラシック初出走が懸かる大事な一戦となる。

 このレースには暮れのGⅠホープフルステークスを制したブラックジョーカー、陽介鞍上のきさらぎ賞馬ダイヤモンドダストなど、好メンバーが集まった。重賞の舞台で陽介と争うのはもちろん初めて。いつになくワクワクした気持ちで週末を待つ優であった。

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